赤川次郎

百年の迷宮 霧の夜の戦慄 / ★★★☆☆

タイトルの字体に惹かれて珍しいチョイス。
赤川次郎さんの作品って、硬くて小難しいお話だろうと思い込んでいたけれど
全然、難しいどころか文章はやさしいしストーリーもわかりやすくてびっくりした。意外と親しみ易いらしい。
現代と切り裂きジャックの時代のロンドンを行き来する綾は17歳。
天涯孤独になって、でも社長になって、更にはスイスへ留学した女の子、である。
何だか色々飛んでるけれど入りやすかった。
何となく外国の戯曲を連想するような、セピアな色も感じつつ、次から次へとページを捲っちゃう、引力。
うん、すき。多分何より空気が。
ちょっとSFででもやっぱりミステリー。ロンドンの描写に見える奥行きが素敵だった。

角川書店 / 2007.07.02.



あさのあつこ

ありふれた風景画 / ★★★★☆

桜色のマニキュアがすきな高校2年の高遠琉璃とカラスのタロウと友達な綾目周子先輩の話。
先輩と後輩って関係とか、色んなものの声をきける綾目さんとか爽やかで清々しい雰囲気に溢れていたから
琉璃が綾目さんに恋をしているのだとあっさり自覚している辺りがしっくり来なかった。
ただの先輩以上のすきでも恋愛と言い切るには淡くて、
同性に恋をしているって簡単に認めてでもそれを悩むっていうのが、違和感と言う程じゃないのだけれど、微妙に浮いて感じた。
普通に形を与えずただのすき、じゃいけなかったのかな。
基本が物凄く爽やかなだけに、更にそういう部分も変に生々しかったりしないだけに、不思議な感じ。
男好きとか噂されている琉璃と、ちょっと変わってると噂されている綾目さんって組み合わせだから
一緒にいることへの周囲の視線もそういう意味でのものに見えた。
綾目さんの激情は不安定な年頃っぽくていいけれど元彼の存在はちょっと異物というか、悲しかった。早いんだって、あれ普通なのかな。
言葉に感情が煽られるとか、追い縋ってはいけないとか、さり気なく拘った風な描写はとても良かった。
過剰じゃなくて、でも確かに切り取っていて。
琉璃と綾目さんの歳の差をあまり感じさせない会話も良かった。
琉璃は敬語で、彼女目線な基本の描写で慣れているとちょっぴり新鮮なくらい後輩ってしているのに
呼び方が先輩じゃなくて綾目さんだからか、…というより多分綾目さんから感じられる根っこの対等さのせいかな、
すごく真っ直ぐ一対一の人間同士って風に付き合っていてそこがすごく素敵に映えていてすきだった。

文藝春秋 / 2009.05.12.



あさのあつこ

弥勒の月 / ★★★☆☆

順番が逆になってしまったけれど、先に読んだ夜叉桜はこの本の続編らしい。
遠野屋のおっかさんであるおしのがああなってしまった理由も描かれつつ、メインは、向こうにもいた遠野屋さんの過去の話、だと思う。
お父さんとお兄さんとのエピソードがとても響いた。
人形のように疑問も持たず父親の命令に従っていた清弥と彼を止めた兄者の在り様が痛々しくて掴まれる。
逆に他の、メイン筋である連続殺人事件の方はいまいち入り辛かった。登場人物も多くて後半は把握が追い付かなかった。
信次郎と伊佐治の親子みたいなやり取りが可愛くて続編より目立っていて、そこが微笑ましくてとてもすき。

光文社 / 2009.08.03.



あさのあつこ

夜叉桜 / ★★★★☆

江戸を舞台に、皮肉屋の信次郎と良心的な伊佐治が連続女郎殺し事件を解決する。
舞台設定は硬そうなのに文章が飲み込みやすくてとても入り易くて厚さの割にあっという間だった。
伊佐治がイメージ的に年齢不詳。手下っぽいのに「親分」なのが感覚として不思議だった。
終始一貫して流れる、昔の日本のさり気ない趣が凄く素敵。
鮮やか、と言う程華やかではなくて、だけれど当たり前みたいに徹底した空気が心地好い。
登場人物の多さには若干苦労したし視点の切り替わりもたまに分かり辛かったりしたけれど、
読み進めるのに大きな支障が出たり置いてきぼりになったりする程じゃなかったし
ラストで犯人に共感出来てしまったのも、説得力がある感じで良かった。
連続殺人事件だけれど継ぎはぎっぽくなくて、しっかりひとつの物語として纏まっていると読んでいる時から感じられたのも好感。

光文社 / 2009.07.06.



浅野真澄

ひだまりゼリー / ★★★★☆

図書館の棚にたまたま見つけたこれは、手に取って開いたら本当に声優ますみんのエッセイだった。
そんな本があるなんて知らなかったから、びっくりした。
中3か、高1の頃…かなぁ?1度だけ、ますみんのラジオをきいたことがある。
1度きいてもういいや、て思ったんじゃなくて、たまたま最終回だったっていう何とも残念な理由でそれっきり。
途中からで、きけたのは10分くらいだったと思う。しかも1人の番組じゃなかったから丸々10分のトークをきけた訳じゃない。
でもきっと、だからこそ、だと思う。大して知らなかったますみんは、その瞬間からトクベツになった。
繊細で真っ直ぐで不器用で、とても素敵な人がそこにいた。
すきだなって、あんな風になりたいなって人が、ナチュラルに何でもないって顔して。
演技面はよく知らない。只私にとって浅野真澄って1人の人間は、それはもうひたすらに、憧憬の的なのだ。
自然体の、透明な、真っ直ぐな文章。特別なところは何もないようで、そっと、惹き込まれる。
綺麗すぎて一気にはとても読めなかった。眩しくて耐えられない。
素敵な人は素敵な人を引き寄せるのかな。ますみんの目が、そう見せるのかな。でも羨ましいって気持ちすら浄化して。
たくさんの、綺麗事のようで、ホンモノな言葉。何て凄い人。
お仕事の話に、苦しくなる。切なくなる。久しぶり。戻ってきかけては蓋をする。何で今、3月なの?

JIVE / 2006.03.26.



朝比奈あすか

憂鬱なハスビーン / ★★★☆☆

子供がいない奥さんが、生活に困ったりはしていないけれど働きたくて、なのに働く気なんかなくて、職安に通う話。
プライドの描写がちくちくと痛々しかった。主人公の性格は悪いと何度か思ったけれど全体的に憎めない、で落ち着いた。
所帯染みた実家と、華やかな旦那様の実家やお義母様が、つらい。
Mr.Has been.はかつては何者かだったヤツ、もう終わってしまったヤツのこと。
すきじゃないと思うシーンはいっぱいあったけれど何故か爽やかなくらいにすっきりと読み終えた。
ラストシーンもあっさりしていてよくわからなかったけれど、最終的には、嫌いじゃなかったと結論付けた。

講談社 / 2008.07.12.



飛鳥井千砂

学校のセンセイ / ★★★☆☆

今どきの若者言葉な社会科教師の一人称が可愛い作品。あまりにも若者すぎて最初は呆れたけれど段々癖になる。
面倒臭いが基本で、他人と深く関わらないようにしている前半がすきで、改心しようとし始める後半は、あまり響かなかった。…捻くれ者?
中川との関係にしろ、ポスターカラーの細すぎな小枝との関わりにしろ、前者は特にいらない感じ。
文体が鮮やかですき。ラストはあっさりしすぎでいきなり終わっちゃった印象。
教師も人間、なお話だけれどそれが全面に出ていそうな前半は嫌悪を感じなかった。…後半の方が、むしろ。何故?
前半だけなら星4つ。

ポプラ社 / 2008.08.22.



飛鳥井千砂

はるがいったら / ★★★★☆

何となくで手に取った本だったのに、凄く良かった。何か泣けてくる。
姉弟の代わりばんこな一人称で進むから、最初は順応し辛かったけど園も行も、ちらちらわかるなぁって感受性が顔を出していて
良いとか悪いじゃなくての似てる感じって、ここまでなのは珍しいなって思った。
淋しいのに優しい、暖かい、春の日だまりみたいなお話で、何か、凄くすきだなぁって、思った。
何となく、隣りにいたくなるような。何か、何かよくわからないけど、優しかった。

集英社 / 2006.07.29.



日日日

狂乱家族日記 壱さつめ / ★★★☆☆  

高校在学中に第6回エンターブレインえんため大賞小説部門の佳作を受賞した作品らしい。
ということはこれが世に出ることになった最初の作品なのだろうか。それで壱さつめと付くシリーズものって、すごいな。
地球に生きる全ての人類の命運を背負い、大昔に実在した破壊神の子供の正体を突き止め世界を滅亡から救うため、
凰火はなごやか家族作戦の任務に就く。
そんな訳でいきなり妻になった罵詈雑言をまき散らす見た目ネコミミ少女な二十歳の凶華様と
子供たち、として集められた2人と2匹と1つのよくわからんものの物語である。
ベースはSF?で、でもノリは軽くバカく阿呆阿呆しくたまにほっこり、である。
凶華様の頼もしさにうっかり安心させられて微笑ましい気分になったりとどっしりした魅力がしっかりあって、何だかやられてしまった。
壱さつめは顔見せでお披露目、プラス、いじめられっこで人畜無害な小3娘優歌のエピソードがメインである。
アニメ版も少し見ていたけれど暫く前だからか原作は原作で切り離して単体として楽しむ感じになった。
自称神で不思議というかむしろデタラメな能力を持つ凶華様をはじめ、
生物兵器でとぼけた味の(日記のあいつ邪魔連呼が可愛すぎる!)雹霞とか喋るライオンさんな帝架とか
本気出すと二枚目なオカマの銀夏とか、ずっと見ていたくなるようなキャラクターがとても素敵だった。軽やかで、魅力的。
シリアスになりそうなところをへんに執着せず簡単に流してしまうところもだからこそイヤな突っ込みが不要で助かった気がする。
あからさますぎて多少寒い和やか家族っぷりも割り切って読めて良かった。

ファミ通文庫 / 2011.07.24.



日日日

ちーちゃんは悠久の向こう / ★★★★☆

とても読み易い文体で勢いに任せてぶっちぎりゴール、な本。
幽霊大好き少女であるところのちーちゃんこと歌島千草と彼女に振り回されるモンちゃんこと僕こと久野悠斗の、日常。その崩壊。
そんな、が多いのが軽く鬱陶しいけれどそれ以外は若い作家さん(同い年でこの当時18だってよ!)のラノベ風作品なのに
文章が安定しているのがとても好ましい。無駄がなく、かつ勢いもしっかりありつつリズムも良い。
展開も、ラスト前の公園のシーンでそっち行っちゃうの?と驚いたと思ったら更にラスト、真っ白になった。
何て形で何て処で終わるんだ。どうすりゃいい。軽く戦慄。うっすらと寒気。
あらすじにホラーとあったけれどずっと怖くは感じずに読み進めていただけに不意打ち。しかも最後の最後って。
あとがきはやっぱり若い。でも本編の上手さで相殺どころかおつりが来ちゃう程度のもの。この人の別作品もばりばり読んでみたい。
解説はちょっと怖い。けど私が著者だったらその分エールに泣きそうになりそうなカッコイイもの。でも怖い。
持ち上げて落として持ち上げて、みたいで翻弄された。日日日(あきら、と読むらしい)さん本人は痛快、と言っている。なるほど。

新風舎文庫 / 2008.02.20.



日日日

ピーターパン・エンドロール / ★★★★☆

高校在学中の18の時に書いた作品でデビューした日日日さんも20歳になりました。
偉そうなことを言わせて頂けば、いい感じに成長していらっしゃる。才は磨かれて、若さは洗練された方向へ確実に進んでいる。
ちーちゃん〜にも出て来た旅人さんこと林田遊子と今回の語り部たる私こと御前江真央のお話。
ふいに、記憶喪失みたいに真っ白になった私と、お腹にいる何か。上手く見えない、時に化け物に見える周りの人たち。
唯一はっきり人間として見える旅人さんに真央は傾倒していく。
現実を疑って、現実より高位に位置する虚構に惹かれて、
だから旅人さんも現実の本名とかそんなものはいらない。虚構でいてくれなきゃ困る。
…私はそういう話、とてもすきなのです。うん、良かった。
丁寧語な口語体の文章と、旅人さん曰くの少し電波な雰囲気で前半は淡々と独特に、しれっと進み、中盤から止まらなくなった。
落ち着いた口調で、なのに痛々しいくらい必死になってく私と、壊れそうな2人の、必死の抵抗が切なくて泣きそうになった。
いっぱいいっぱいで保身しようと、大事に思っている気持ちは全く色褪せなくて、ずっと濁らなくてとてもすきだと思った。

新風舎文庫 / 2008.02.29.



日日日

私の優しくない先輩 / ★★★☆☆

前に読んだ同著者の2作品に対して、評価ががくっと下がってしまった…。ちょっと、あっさりしすぎな印象。
優しくない先輩たる不破風和の同じことを2度言う口調に最後まで馴染めなかったせいもあるかな…。
虚弱な耶麻子のちいさな島での青春の日々。両親への愛が印象的だった。
捻くれたこともばんばん言う耶麻子だから、やたら真っ直ぐな感謝がより鮮やかに感じられて不思議だった。

碧天舎 / 2008.03.06.



天川 彩

タイヨウのうた / ★★★☆☆

台詞以外での「…」や台詞に乱用される「〜」がどうしても目に付く。恋による発情のような描写も、個人的にすきじゃない。
映画はどこまでもプラトニックで空気がとても綺麗で、
何より主演のYUIちゃんの存在感が、演技は下手なのに凄まじくてとてもすきだったけれど、だから原作にも、興味を持ったのだけれど…。
作中に出て来る薫の詞も、映画版のYUIver.に比べたら稚拙どころじゃない。安易すぎる。
美咲の先生も、絶対裏があると思ったし、…私が捻くれているのかなあ。薫の歌が辺りの空気を清めていく、って描写はとてもすきだった。

SDP / 2007.05.23.



新井素子

あたしの中の…… / ★★★☆☆

デビュー作である表題作には、後から他作品に登場する方々がちらほらいる。
秋野警部と山崎刑事、なんて職業まで一緒だから同一人物だと思ったんだけど、違うのかな。
星新一氏大絶賛の、16歳の時の作品。魂同居話。死なない、っていうのは怖いことだ。軽く書かれているけれど、物凄く。
17歳で書いたらしい2作目のずれはアリス要素有り。鏡の向こうとこっち、双子のような対の存在。
なのにいきなり訪れるラストの衝撃ったらない。放り出されて、嘘ぉ、ってなる話。でも嫌な感じではなかった。
3作目の大きな壁の中と外は同じく17歳、でも高校3年生になってからの作品。これ、凄い。一気に飛躍した。
おちゃらけが消えて、後のチグリス〜に通じるものがある雰囲気の、未来の話。
第三次世界大戦が終わって、エデン計画、スネーク計画が決行される。壁の中、守られて変化のない毎日。
食用の人肉だのアンドロイドの集団だの、寒くなる描写もありつつ、でも初期の作品だからか軽め。
エピローグ前の一文に鳥肌。すきだぁ、この話。いい話、綺麗な話、では決して終わらないのだけれど皮肉がいやらしくなくていい。
チューリップさん物語は飛んで12作目、20歳の時の作品らしい。
可愛らしいタイトルに騙された。地の文の可愛らしさにも騙されかけた。とんでもなくグロテスクな、うん、言ってしまえば悪趣味な話。
こんなのが脳内にあってよく生きていけるな…と、素子さんの作品ってシリアスなのはそういうの多いけれど、改めて。
オチが何となく、救い。チューリップさんには救い?とんでもない!だけれど。
読者的には、私は、あんまりな展開に逆に力が抜けてほっとした。

集英社 / 2007.10.15.



新井素子

あなたにここにいて欲しい / ★★★☆☆

甘い恋愛のお話、あるいはとても真っ当で真っ直ぐな2人お話、を最初、タイトルから連想しそうになった。
違うと知って借りた訳だが、本当、基本はとんでもなかった。
相変わらずのどこか少女小説のような軽い文体に対して、今回描かれたのはまたえぐるようなお話。
23歳の真実と祥子。親友のような、2人で1人、な2人。
主人公の真実は生活力のない祥子のお世話をするのがすきで、祥子も真実をすいていて、
でもそれは、依存でナルシシズムの変形だ、とそれはもうずばーんと突き付けてくれちゃったのが綾子。
と、いい人な精神科医で、でも罪悪感で行動してた宇野さん、が主要人物。
秋吉台の洞窟でのやり取りにふいにゾッとして、テレパスの結末に何だか、ふんわりして。
ラストのラストは、ちょっと心配だけれど。文字通り受け取れば、明るい未来は有り得ない気がしてしまうから。
歪な家庭の親のせいの不幸、をひたすら強調する様には少し、引っ掛かりを覚えたけれど
ひとりの人間の壊れるまでの様とか、歪んだ人が治る課程とか、自立の淋しさとか、愛している、の狂気とか
気迫が何だか、さらりと書かれているのにとても濃いく感じた。
真実や祥子の理屈は、間違いじゃないのかな。だぶる面もあるシチュエーションに、少し、困った。

講談社文庫 / 2008.01.24.



新井素子

いつか猫になる日まで / ★★★☆☆

間違った想像の仕方をすると何だかホラーになってしまうタイトルのお話。…私は一度やっちまってゾッとした馬鹿である。
内容は、ホラーではなくて、SF。タイトルの意味もほのぼのなもの。
主人公はもくずちゃんこと海野桃子で、まず、UFOを目撃。更にそれが落ちて来る。判明するスポーツのような宇宙戦争。
発覚する特殊能力。一人は統率、一人は情報。一人は技術。一人は生命、一人は攻撃、そして今一人は切り札。
主人公たちは地球を守るべく立ち上がっちゃったり、して。
んー…何ていうか、単調、かなぁ…。
「あなた」の意味で使われる「おたく」も最後まで違和感があった。結局、盛り上がりポイントが上手く掴めなかった、のかな。
冒頭とラストの“彼”の話が、物哀しい色を添えてはいるのだけれど。

集英社 / 2007.10.07.



新井素子

今はもういないあたしへ… / ★★★★☆

表題作が書かれたのは昭和62年、もう1個のネプチューンに至っては56年。
何ていうか、凄い。私生まれてないよネプチューンの頃。表題作の頃だって、赤ちゃんです。
不思議だなぁ。それだけ昔の作品でも、違和感なく楽しめる。ネプチューンがすきです。何か真っ直ぐでさらさらしてて。
表題作は、途中の描写がやたらグロテスクで痛くないらしいけどやっぱ痛い気してきつかった。怖かったし。ぞわぞわする…。
けど、読んじゃう、借りちゃう。怖い物見たさ、っていうよりは、怖さより面白さが勝る、って感じ。
気になる素材に抜群の引力、素直さと一緒に在る才能、すっかり虜です。

大陸書房 / 2006.09.29.



新井素子

おしまいの日 / ★★★★☆

疲れた…凄い疲れた。読みやすいのにめちゃくちゃ疲れる本だった。
旦那様の帰りが遅くておかしくなっちゃう奥さんの話(ってこの粗筋もあんまり?)。
身近に昔あの夫婦の状態に近かった人がいるから重荷だとかすきでやってるとか、何だか、
じゃあどっちがどうしたら良かったの、正解だったの、上手くいったの、っていうのがずっと頭にあった。
どうやってコミュニケーションを取れば良かった?仕方ないことでも、そういう仕事に就いてるのも悪い、なんて、私も危ないかな。
イヤなリアルさが悍ましかったりもしたけど読み進める手は止められなかった。
中途半端にするより最後まで早く読み切ってしまいたいとも思ったし。。
弱い人の、話。弱くて壊れてしまう話。春さんだって、ラストを知ると充分おかしい気がする。
日記に1度書いたことを消す為の線が、段々ぐしゃぐしゃ、になってついには真っ黒になる。怖すぎた。
救いは、光を見せてくれた手紙と、あとがき。「おしまいの日」ごっこ、って…凄いよ著者さん!(笑)

新潮社 / 2006.08.09.



新井素子

グリーン・レクイエム / ★★★★☆

字が、でかい。異様にでかい。児童文学…では、ないよね?それだけが不満だ…。最初は驚いたもの。すぐ慣れられたけれど。
相変わらず、本を閉じると何だかぞっとする。でも怖い話では、なかった。はず。
緑の髪の女の子、の話。連想するのは「みどりのゆび」。えっと、童話?だったけか。
凄く読みやすくて、一気に読んじゃった。独特の文章も、いつの間にか違和感なくなってたし。透明な話。緑。うん、綺麗。面白かった。
異様に長いあとがきに出て来た映画版の話での、小林聡美「ちゃん」に驚いた。ちゃん…ちゃん……これ、結構古い?
だってジブリっていうか、駿ちゃんも久石さんもまだそんなに有名じゃない?っぽい文章まであるの。
本ってそういうものだけど、あとがきに生活感(?)があると何だかタイムスリップ気分。
久石さんが音楽担当か。映画版、ちょっと気になるな。

講談社 / 2006.09.04.



新井素子

緑幻想 グリーン・レクイエムU / ★★★☆☆

U。つまり、グリーン・レクイエムの続編。精神的な自殺をした彼女のその後、信彦さんのその後。周りの人たちのその後。
やっぱりというか何というか、前巻を読んだのが随分と前なことがまたここでも痛いのだけれど
ひたすら植物サイドに立った物語は置いておいて、世界樹の雰囲気や何かが新鮮で
明日香のいたずらっこのような鮮やかさも、良かった。

講談社文庫 / 2008.02.07.



新井素子

・・・・・絶句 上 / ★★★☆☆

素子さん、22歳の時の作品。
主人公は新井素子。SF作家志望の19歳の女の子。でも別にエッセイとかではないのだ。しっかりフィクション。
けれど作中には更に、登場人物の新井素子だけじゃなくて作者の新井素子も登場したりする。
…私としては作者と同姓同名のヒロイン、ってこれ、正直、あーやっちゃったー、って感じだった。
何故にわざわざそんなややこしいことをする?
でもこの答えは、エラリイ・クイーンがすきだからと作中で語られて納得した訳だが、
…それにしても、作中人物全員会議ってやつは、反則じゃないか?
…けど逆に、ああもそのまま書かれてしまうと許せる気も、する。つくづく不思議な作家さんだと思った。
小説のキャラクターが実体化して、家が燃えて家族が死んで(これも何か、凄い)、第一部は素子の一人称なばたばた、
第二部は三人称で主に動物革命。どっちも終わりは同じ位置。別の視点から、は面白かったけれどちょっと長すぎるかな。。

ハヤカワ文庫 / 2008.01.29.



新井素子

・・・・・絶句 下 / ★★★★☆

上巻はさすがにちょっと、な展開だと思っていたけれど、下巻、いや、面白かった。
妙な軽さもなくなって物凄い会議も行われずに第三部はしっかり地に足着けて終わってくれた、印象。
これが書きたかったなら、上巻も、まあ有り…か、何て偉そうに思ったり。
まず、紳士的をやめた西谷さんが怖くって、更にいーさんが怖くて怖くて、
いつからこの本はこんなにゾッとする話になったのだろうと思いつつ秋野警部が可愛くって、
一郎を苛めるなって反撃する拓ちゃんが可愛くって、いーさんのもとちゃんいじめが余りに滑らかで饒舌で、
素子さん(作者の方)は何ていうかやっぱり凄いぞと見直して、
結論、は、私もまだまだ子供なもので難しかったけれど、でも勢いとか、情熱とか、何か素敵だった。
…それから、後書きの、本当に壮大すぎる素子さん(作者の方)のこのお話風に言うならインナー・スペース、って奴に…脱帽。
別作品のキャラクターとの繋がりも、それぞれのその後や何かも細かくいっぱいあって凄すぎるよー。

ハヤカワ文庫 / 2008.01.30.



新井素子

チグリスとユーフラテス / ★★★★★

いちばん最初。素子さんの作品の中で、最初に気になった本はこれだった。
けど、何せ厚い。そんでもって開くと、文章のカタマリが4分割されてるんだ、これが。
とてもはじめて読む作家さんの本でそれを選ぶ気にはなれなかった。
それでまず借りたのがおしまいの日で、それが当たりだった為挑戦したこの本。結論から言えば、当たり!すきだぁ素子さんっ!
1話目のマリア・Dの引力は凄かった。その後は多少波がありつつも、でもやっぱり面白かった。
SF、ってやつらしい。私はそういうのあんまり馴染みないんだけど、抵抗なく入れた。
ひとつの移民星の、最後の子供、からはじまる歴史の話。けど堅苦しくて入りにくいってことは、全くない話。
マリア・Dの回は、読み進めてる間は平気なのに本を閉じたら何か怖かった。これは素子さん作品の色?おしまいの日を連想した。
けど、ダイアナから先はそんなことなかったし、マリアの怖さもおしまい〜に比べたら軽いもの。だから、そこはちょっと、助かった。
素子さんの、出来ればあんまり怖くない本を、また読みたいな。

集英社 / 2006.08.30.



新井素子

ディアナ・ディア・ディアス / ★★★☆☆

ややこしかった…。人物の名前とか単語とか、語感が似ているものが多々登場するから何度か混乱。
その度ぺらぺらとページを戻ったりしつつ…。
廻る運命、巡る運命、繰り返される螺旋。ギリシャ系の神話のようなイメージ。…もしかして、実際にある神話が元になっていたりする?
ネリューラ伝説やらディミダちゃんが前半結構登場して(名前だけだけれど)
この前彼女たちがメインを張っている扉を開けてを読んだばかりだからタイミングの良さにびっくりした。
血が定めた狂気は強烈で、蠢く人間の思惑なんて小さなもので。ばらばらに動いていても結局は元の位置に戻ってしまう。
独特の味が妙に魅惑的だった。

徳間書店 / 2007.11.09.



新井素子

通りすがりのレイディ / ★★★☆☆

星へ行く船シリーズの第2弾。
未来なのか舞台はとってもナチュラルに火星。主人公は森村あゆみ二十歳と十ヶ月。
一昔前の私立探偵みたいな、やっかいごとよろず引き受け業の水沢総合事務所の一員。まだちょっと新米。
そこに依頼して来たレイディこと木谷真樹子を守りたい!ってんでひたすら奮闘するお話。
レイディはあゆみを守ってって依頼したのだけれどそんなことが何のその、である。
例によって、緊張感は欠片もない。敵の人とも銃突き付けられながら漫才しちゃうようなヒロイン。
レイディは、キャットを連想するような艶やかでお茶目な女性。
で、あゆみちゃん、これまた例によって惚れる。すきな人、としてはちゃんと殿方がいるのだけれど。
アブノーマルだとか言いながら、凄く自然な守ってあげたい、の形が多分母性的で、ふんわりしていて、微笑ましかった。
レイディのピンチに必死になるあゆみには感情移入しまくって泣きそうになった。
どこかお間抜けさの漂う文章だと思うのだけれど、ひたすら主人公目線で進むものだからそういうシーンでは本当半端ない。
ビデオからTV中継までの一連のシーンがつらいけど引き込まれて良かった。自白剤でのあゆみちゃんの全開さは笑った。
シーンは少ないけれど恋愛、の描写は甘々すぎてこっ恥ずかしかった。少女の夢、的に砂糖が大盛…

集英社文庫 / 2008.08.27.



新井素子

扉を開けて / ★★★☆☆

人間の体内的生々しさ、グロテスクさな中を歩く冒頭に対して本編は、とても和やか。
どっちが意識的なものか知らないが、素子さんは肩に力をいれない作風の作品ではどこまでもそうなるのを実感。
初期作品に比べたら本人さんも言っている通り凄く安定しているのだけど、ゆるい、なあ…。何故そこまで?って程に。
大学3年生のネコこと根岸美弥子さんは自称魔女。特殊能力持ち。
彼女とマンションの隣人さんである杳、学校が一緒の桂一郎と3人、三拍子揃っちゃって、異世界へ。
ネリューラと呼ばれ救世主だと言われ、なんだかんだで戦。それがまた緊迫感のない戦(主にネコちゃんのつっこみのせい)。
繰り返されるテーマはどこか教科書的な陳腐さだけれど
友人もどきの心配を拒否したり、鬼姫ディミダと本気になったり、なシーンは印象的だった。
でも男ってそんな怖いもんじゃないよ、と拒否権なしの不意打ちちゅーをした直後に言える神経は物凄くわからない。何じゃそれ。
ラスボス、デュラン三世の正体は中盤で気付いていたけれど一騎打ちのネコちゃんは、凄いなって思った。

集英社 / 2007.11.03.



新井素子

二分割幽霊綺譚 / ★★★☆☆

先日読んだラビリンスと同じく、素子さん21歳の春の作品。10作目。早いペース、凄いなぁ。
ラビリンスは、三人称だった。口語体でも。三人称だった。
これ読んで素子さんの一人称ものは本当にもっとどこまでも一人称なのだと痛感した。
仮性半陰陽という病気で男から女になった主人公「俺」、それから吸血鬼の砂姫、もぐらの女王様。あと純情な殿方も2人。
現代の第13あかねマンションの穴から重力の逆転したパラレルワールドへ。
主人公はシチューにされて幽霊になっちゃうわ、ミミズの大群は出て来るわ、巨大もぐらは喋るわ…ひっちゃかめっちゃかである。
女々しい俺は可愛いし、向こうのもぐらさんも可愛かった。
ただ、女の子になったなら相手は男の子じゃなきゃだし、逆もまた然り、そして女の子は女の子らしくしなきゃ、等々…、
実際にあるらしい複雑な病気の主人公を置いておいて、それを当然としすぎるのは如何なものかと思った。
時代柄?私は別に何でもいいじゃんと思ってしまう訳だが…。。
でも今回は教科書的な「答え」がなくて、そういうものに引っ掛かることなく最後まで行けたのは良かった。ほ。
人間は全く、なんていう教科書的疑問提示はあったけれどそんなには気にならなかったし。とにかく「俺」の一人称の文章がとても可愛い。
マンションのウワサにこれは、って思っていたら、ラスト、ネコちゃんやら桂一郎やら杳やらの名前が登場してやっぱり、なんてうふふ。

講談社文庫 / 2007.12.09.



新井素子

ハッピー・バースディ / ★★★★☆

相変わらず、凄い引力。有り得ないくらい強力な引き込む力。狂気、凶器、とも言える程の。
読み始めたら最後、止まれません、離してくれません。
それは文章が上手いとかそういうことじゃなくて、個性とか、そういう所から来るもの。故に凄まじい。暴力的な程に。
後半は、あんまり、かなぁ。。茗さんが急にまともになる件とラストがあんまり入れなかった。
けど前半はすき。依存と違和感と狂気。素子さんワールド。すっかりそういうイメージだ…(笑)
裕司と裕司の母が物凄く嫌いなんだけど、でも、何ていうか…、嫌だっ、て、読むのをやめたくなるタイプの嫌いじゃ、ないんだな。
そういう人間もいて、悪くて、事実だ、って、書いてくれてる気がする。この感じ、凄くすきです。
あまり痛くなく、ゆったりしていられる。嫌悪はぎすぎすし過ぎず、読んでる私ごと、正当な目が見ていてくれそうな。。
それにしても、依存した奥さん。最初に読んだ作品にも出て来たし、重なっちゃう、よぉー。

角川書店 / 2006.09.21.



新井素子

ブラック キャット1 / ★★★☆☆

素子さんが、コバルト文庫。ティーンズ。何か、不思議。
けど独特の一人称な文章は、どこに在っても独特で同時にどこに在っても溶け込む。不思議。
表題作は最初、冒頭、状況が掴めなくて混乱。
キャット、すきだなぁ。素敵だなぁいいなぁ。明拓ちゃんには申し訳ないけれど、あれはもう仕方ないよ。
キャットと並んだ明拓ちゃんに転ぶには、ハンサムで渋いだけじゃ足りない。
それでも難しい。だってそしたら、明拓ちゃんにはキャットとくっついて欲しくなっちゃうもの。
こんな状況下でこんな相手とレズにはしりたくない!とか豪語する千秋がいい。
同時集録の中では山手線〜が印象的。何あのラスト、え?童話?無理。怖い怖い怖い。けどそんなところがすき。
うーん、やっぱり、素子さんの本、って読むと感覚おかしくなる…かも。

コバルト文庫 / 2006.12.11.



新井素子

ブラック・キャットU ナイト・フォーク / ★★★★☆

余計な物はいらない、ただ、面白ければ。これぞエンタテイメント!
ちらちらとキャットと明拓ちゃんの過去とか事情を匂わせつつ、それがぴくぴくと気になりつつ、女の子はいるだけでいい、んだって。
わおキャット。細胞分裂、って。よくわかんないけど、そうまでして子孫残したくないけど、
ついでに人間レベルでいえば普通に女も選ばれる立場だと思うけど、そんな言い切られちゃ…ねぇ(笑)
ぶちゃだと思ってる子にとって、心から↑のを持論としてるキャットはそれこそいるだけで、ていうか、
側でそれをぴーぴー喚かれた日にゃ、それだけで満たされちゃうよ。充分すぎる程充分だよ。
いいなぁ女の子大すきキャット♪…何て言うと、ちょっと語弊があるか?大体家族らしいぞ。そうか家族か。
…もうそんな言い切られちゃうのは、ちょっと残念(何)
今回、特に冒頭ら辺が、同じ段落…というかブロックの…?中で視点がころころ変わって混乱したりしたけれど
キャットの千羽鶴の話とか、とんちんかんで可愛くて良かった!

コバルト文庫 / 2006.12.20.



新井素子

ブラック・キャットV キャスリング 前編 / ★★★☆☆

T→U→W、何て邪道もいい所な読み方をしてしまった作品の、抜けていたV。
キャットと明拓ちゃんの事情と、いよいよなララベス王妃話。
…飛ばして読んだことと、それらを読んだのがそこそこ前ってことのせいか、ちょっと、上手く、乗れなかった。
微妙に色々わからない、馴染まない。困った…。やたら素子さん節が目に付いたのもそのせいだろうか。
ちょっと、さすがにしつこいというか、鬱陶しい…。作者が“いる”のだ、本当に。文章に。
言わば、お母さん(素子さん)が子供(読者)にこんなことがあってね、と聞かせているような感じ。いや、独特。
Uから9年後に出たらしいこの巻。やたら感じる温度差は、それが理由でもあるのかなあ。

コバルト文庫 / 2007.05.29.



新井素子

ブラック・キャットV キャスリング 後編 / ★★☆☆☆

さらっとした、お話。千秋のファーストキスはきゃーだったけれど、それ以外はとてもあっさりした印象だった。…物足りない。
同時収録の星へ行く船番外編αだよりは元のお話は未読ながらやたら幸せいっぱいなあゆみさんに和んだ。
あとがき曰く、内容は、ないよーらしいけれど、ある意味、表題作より楽しめた気がする。
浴衣でお笑い結婚式、いいじゃないか。だってとにかく、とにかく幸せそうなんだもの。

コバルト文庫 / 2007.05.31.



新井素子

ブラック・キャットW チェックメイト(前編) / ★★★☆☆

図書館に、Vは貸出中だったけどWがあった為、つい…Wを先に借りてしまった。Vはまだ未読なのに。
おかげでララベス妃がわからない、加えてVではキャットたちの正体もわかったらしい。
…でも、まあ、そんな困りはしなかった。ほう。良かったぁ。
それにしても、“あの人”は男の人だったのか。
ずっと女の人だと思い込んでいた。キャットの、年上のライバルさんあるいは師匠みたいな人、だと思ってた。
Vではララベスさんと因縁の対決とやらをしたらしいから、“あの人”関連の事情にはララベスさんも関わっているのだろうか?
相変わらず千秋らぶ!なキャットが良い。
可愛いったら!何て全身使って叫ぶみたいに表現されたらもう落ちます。落ちるて。当然。家族でも何でもどきどき。
今回、後半は殆どキャットの出番がなくて淋しかったから、後編で活躍してくれるといいな。

コバルト文庫 / 2007.01.21.



新井素子

ブラック・キャットW チェックメイト(後編) / ★★★★☆

ああっ、もう!もう、もう、もうっ!!最終巻だった。そして後半、凄まじかった。
泣きたかったけど泣く所じゃないくらいきつくって泣いてないのに大泣きした後みたく頭の芯がぼーっとどこか霞んでる。…今も。
ティーンズだよ?ハッピーエンドにしようよ!と偏見に溢れたことを何度心の中で叫んだことか。
甘くてもご都合主義でもいいからっ!!と、何度懇願したことか。千秋が諦めて泣き伏した瞬間、私も呆然とした。
だからひろふみくんが行動に出た時、はじめてその可能性に気付いた時は、本当に嬉しくてひろふみくんをはじめて好きだと思った。
キャットは本当に魅力的な人。家族でもいいよ、お母さんでもいいよ。
私の中ではTの千秋の発言(正しくはモノローグ)と度々悶えるキャットのおかげで
すっかりそういうフィルターがかかってしまっているけれど、無償の愛、無敵な愛、って点は共通しているからいいの。
潤一郎の、千秋と明拓ちゃんに関する見解にはぶっ飛んだけれど(それこそ明拓ちゃんは私の中ではお父さん、だった)
まあ、きっと、有りだ。…多分。
キャットの、千秋への愛、が、最後の最後まで本当に嬉しかった。
泣き伏していた時はそれどころじゃなかったけれど、むしろ泣き喚いて怒りたかったけれど、
ラスト、千秋のそれを受けての変化を見て、千秋になったつもりで本当に本当に嬉しかった。久しぶり。
物語の中で何度も出て来る言葉を、私も。愛してる、って。

コバルト文庫 / 2007.01.22.



新井素子

もいちどあなたにあいたいな / ★★★☆☆

21歳の澪湖が語る、やまとばちゃんの筈なのにやまとばちゃんじゃないようなやまとばちゃんの、話。
別人のようで、でも成り代わったようではない、やまとおばちゃんの話。
どんな不幸にあっても泣かないから強い人と思われている、
でも澪湖ややまとばちゃんの兄である澪湖の父にしたら、強い訳じゃない、人の、真実について。
宇宙人とかパラレルワールドとか澪湖はオタク青年と色々考えるけれど、真相は結局はっきりしない。
個人的にはSFでない方が、すきかな。上手く作中で語られる非日常に飲み込まれることが出来なかった。
でもお兄ちゃんの星型の傷問題を考えると、玉突きであって欲しい気もする。
そうじゃなきゃ締め出されたこの世界のお兄ちゃんがあまりにも淋しい。
澪湖の母の陽湖のターンが少し不完全燃焼だった。離婚宣言が置いてきぼりなのが気になった。
一番地に足の着いた感じがしたところはすきだったし、嫁姑問題には同情もしたけれど
若くして結婚、当然の共働き、それで職場の不理解、と来るのは自業自得と言えないか、とも思ってしまった。
甘ったるい文体で、澪湖は自分を大人の歳とか言っているけれど口を開いても子供のように喋りが下手で、整理が下手で、
でも根っこに大事な部分があるんだろうなっていうのが見えて、それが、しっかりとは受け取れなかったけれど、いいなって思った。
例えば合言葉を言わないとか、そういうところ。

新潮社 / 2010.12.28.



新井素子

ラビリンス<迷宮> / ★★★☆☆

素子さん21歳の春の作品。8作目。神話のミノタウルスに触発されて出来たらしい、ずっと未来で原始的になった世界を舞台にしたお話。
何回もの戦争後、って設定を若いのに気負わずナチュラルに書けてしまうのは凄いと思う。
長編では初の、最初から最後まで三人称のお話である。
とは言いつつ、地続きでモノローグが入ったりするからあまり新鮮味はないと思うけれど。
女だてらに村一番の狩人である、軍神ラーラを守護神とするサーラ。英知の神デュロプスを守護神とする賢いトゥード。
神への生贄になった彼女たちが物理的な迷宮と心理的な迷宮と格闘する。
あいしている、と似たにくんでいる、にズガンとやられたり。散りばめられた色んなものに博識さを感じたり、した。
3人が辿り着いた答えは置いておいて、その課程は鮮やかですきだ。大分後半でまたまた扉を開けてとの繋がりもあってわおと思いつつ。

徳間書店 / 2007.12.08.



有川 浩

海の底 / ★★★☆☆

迫力は凄まじい。特に導入部分は凄惨すぎて顔の筋肉が緊張した。
だけど全体で見ると、星4つには辿り着けなかったかな…、っていうのが私的感想である。
曰く、真面目くさってホラを吹く、が作風になりつつある有川さんの自衛隊三部作、海自編。
でも何故か機動隊の方がいっぱい出ている。警察、すんごい頑張ってた。自衛隊は中々出して貰えない役割だった。
読んでいて困るような難しさは同著者の今までに読んだ作品中一番少なかったのじゃないかなと思う。読者に優しい書かれ方をしていた。
今回のコンセプトは、潜水艦で十五少年漂流記、だったらしい。過去形。
漂流、しません。メインの人たちは潜水艦に閉じ込められっぱなし。そこに警察と博士を加えて掻き回して纏まったのが本作だと思う。
夏木大和と冬原晴臣の三尉コンビと、突如現れた巨大なザリガニだかエビだかの群。
人を襲う奴等から逃げて潜水艦に避難した三尉コンビと下は小学生上は高校生な子供たちの、共同生活。
と、外の人たちの対レガリス(巨大なザリガニだかエビだか)戦。
ザリガニ、とか言っちゃうと阿呆っぽいけれど、しっかりシリアスにしちゃうのが有川さんの凄いところだと思う。塩然り、楕円然り。
ラブコメ分は今回少なめで、特に最初の方は欠片もないくらいでその硬派さは割とすきだった。
つい大人分に飢えて警察組に女の人がいればなあと思ったりもしたけれども。
それでなくてもか弱い警察にきゅんとしてしまったし…。嗚呼不純。
みんなでご飯を作ろうと悪戦苦闘するシーンがホームドラマみたいで微笑ましくて良かった。一生懸命お米を炊こうとする望が可愛い。
子供でも一般人でも容赦ない、というか厳しすぎる、三尉コンビとか戦う人たちに、居心地が悪くなったりしつつ
なのに女の子には徹底的に優しいフェミニストっぷりがちょっと釈然としなかった。有川さん節といえばそれまでなのだけれど。
悪ガキな圭介が、圭介目線になると本当に普通の子で切なかった。不器用な責任の取り方も健気で痛々しくて、つらかった。
確信は持てないながら、冬原さんは前に読んだ短編のクジラ乗りさん、かなって思って嬉しくなったりしつつ
頑張った(意地張った?)夏木さんに対するラストの締め方が憎いなあって思った。

メディアワークス / 2009.01.13.



有川 浩

キケン / ★★★☆☆

成南電気工科大学の機械制御研究部、略称「機研」の男だらけのやんちゃな青春。
小学生の頃作ったお手製爆弾に、ラブレターであたふた、学祭でラーメン屋を開き、ロボット相撲大会で奮闘し、銃もどきを作っちゃった。
プラス、各話にその後の現在が少し。
装丁の薄ら寒さに正直少し引いた。漫画風だからとかでなく、台詞や中身故だから、絵師さんのせいでは絶対にない。
実物を見ないで予約を入れたのだけれど、見ていたら手に取るのが遅れたと思う…。
冒頭は装丁の印象通りの薄ら寒さだった。文体が素人のなんちゃって小説のように感じられて目眩がした。
段々慣れはしたけれど、その他でしかないキャラクター込みでの漫才とか
「〜だよこの人!」「犯罪だー!」だのの台詞にもやっぱり乗り切れない温度差を感じてしまう。
でも有川さん本で、好き!ってタイプの作品じゃなかった時恒例の変な引っ掛かりが女子大のお嬢様への辛辣さくらいしかなかったから
(現在の妻の人が名無しの薄味キャラクターなのに妙に苦手だ…)、結果としては全体的に落ち着いて読めた。
もっと土台を暖めてくれていたら、読者をもう少し引っ張って引き込んでくれていたら
漫才が楽しめたりするのは勿論、最終話の黒板でかなりぐっと来たのじゃないかなあ。

新潮社 / 2011.01.18.



有川 浩

クジラの彼 / ★★★☆☆

自衛官の恋愛模様を描いた短編集。
ベタ甘も短編なら抵抗なく読めるみたいだ。図書館シリーズは長々とそれやってるから胸焼けするらしい。
表題作は再読。はじめて読んだ有川さん作品ってことで思い出深い。海の底の冬原春臣の一般人な彼女目線の話。
しつこく潜るだと訂正していた彼が夏木さんだと知って笑った。メールが下手なクジラ乗りさんがちょっぴり意外。
聡子はかなりすきなヒロインだ。ちょっと弱々しいけど厭味がなくて、どこか上品で、小鹿っぽいイメージ。
光稀さんとは大分タイプが違うけれど同じくらいすき。
彼氏が潜水艦乗りな為かなりの遠距離恋愛みたいな2人の、なのに凄く幸せになれるお話。素敵。
ロールアウトは航空設計士のトイレを巡る話。
どうにも品のない話でフォローのしようがないくらいどうしようもなくあけすけなのだけれど、それでも、これが現実だったりするってことは
場合がちょっと違うと思うけどでも光稀さんも空自だよ!?とか思って…ちょっとかなり怒りが。なんてことを。じゃなくて落ち着こう自分。
終盤高科さんを捕まえてはしゃぐ絵里が可愛くて良い。でもラストは郁化しててちょっぴり残念だった。個人的にはやりすぎ。
国防レンアイは鬼軍曹とへたれ軍曹の話。
鬼なのに失恋しては呑んだくれて泣く三池と拒否権もなく彼女に付き合う伸下の同期な腐れ縁が可愛い。
ロールアウトとは別の意味でまた品がないのだけれど、、要所要所できゅんとする。ラストがすごくすき。
有能な彼女は海の底の夏木と望のその後話。冬原と聡子のその後もちょっぴり。
望の面倒臭さがつらかった。望は悪くないって信じ込んでる夏木はちょっとお馬鹿だと思う。
少しは手綱握ってあげて下さい、甘やかさないで下さい、むしろ望の為に。頼むから。
でも望に対するこれは、同族嫌悪かもしんないと分析。
昔の私はモロにああで、夏木さんみたいな受け取り方を望んでいたんだよなぁ…。…とりあえず今は違うと信じたい。
終盤の望の有能さが笑えて、いい雰囲気で終わって良かった。
脱柵エレジーは珍しくそんなに甘くない、ちょっぴりやさぐれた話。
普通の女の子の勝手さがあーあで、そこに引っ掛かる男もあーあで、
けど軽やかに書かれているから不快感とかはなく、別に特別な関係じゃない清田と吉川の在り様が可愛くて良かった。
ファイターパイロットの君は空の中の高巳と光稀さんのその後。
かなり大すきな2人だからまず単純にまた読めて嬉しい。相変わらずなドタバタっぷりとその中のほのぼのっぷりに癒された。
娘の茜にねだられて高巳が回想する、ママとの初チュー話。怒ったり泣いたり忙しい光稀さんが良い。
限りなく脅している顔に近い拗ねている顔をちゃんとわかる高巳が大すきだ。車内でギリギリまで逃げる光稀さんは可愛すぎ。
全体を通して、やっぱり有川さん作品は登場人物が大人の方が楽しめるなって実感した。
基本的に悪役というか、やな奴の書き方がサラッとしているのも、つまりはそういう所から共感をってしていないってことで
カッコイイなと思う。そういうのは、長編だと物足りないかもしれないけれど短編なら好感。

角川書店 / 2009.03.01.



有川 浩

三匹のおっさん / ★★★☆☆

現代版水戸黄門、のような、60歳のおっさん3人が地域限定正義の味方をする話。
祐希の巻き込まれたゲーセントラブル事件に、早苗の痴漢事件、シゲさんの奥さんの浮気、中学校のヒナ虐待事件、
今時女子高生の浅はかなトラブル事件、高齢者を狙った催眠商法事件、の全6話。
掴みは悪かった。中年高齢層に媚びたような、或いは有川さん自身が中年高齢層な価値観の持ち主?と強く感じるような
若者へ威圧的な正しいことと尊大なお説教を私は素直に聞けない。
いきなりこれは悪だと決め付けた描写には反発をしたくなる。甘ったれて図々しい駄目な嫁だと納得が出来ない。
読者がそう感じる前にそうだと説明されてしまうのは嫌だ。
描写に説得力を感じる暇が少なくとも私にはなかった。私はきっと、そこは読み手に任せて欲しいんだ。
その人物をどう感じるかは自由としていて欲しい。
まだジーサンじゃないと思っている、だから還暦セットも嫌な、でも定年を迎えたキヨさん、にもその時点でめんどくせぇと思ってしまった。
だから掴みは、むしろマイナス。
あからさますぎてちょっとあざとくも感じたけれど、キヨさんと祐希が打ち解けるにつれて読み手も少しほぐされたのは良かった。
でも祐希の口は悪いけど根はいい子なんだよっぷりの若者わかってますな雰囲気とか、
ヒロインの早苗の真正面からのよく出来たお嬢さんぷりは鼻についたりした。
祐希の母親にはやたら厳しいから余計に。…つまりあの母親がネックか。
随所で説教を振り撒いているのに、昔三匹の悪ガキと言われていたからって由来があるとはいえ
早苗まで匹、って呼ぶのにも少し眉を顰めたくなった。
いい子がそれでいいのか。細かい部分は可愛いのに、細かい部分ですっきりしないのが複雑。
けど読んでいるうちそういう部分もいい様に誤魔化されたりしていたからこれでも読後感は特別悪くはなかった。
ヒナ話のラストの説教臭さは凄まじかった。あまりの扱いの差に、それ早苗に当て嵌めてみてよと言いたくなった。
浮気話のラストはすき。すんごい甘いけど、登美子さんに優しすぎるけど
登美子さん馬鹿すぎるけど、シゲさんの登美子呼びにはうっかりときめいた。
3人の中では娘離れ出来ていなくて実は1番おっかない、チビのおっさんことノリさんが1番すき。
ベタだけど、娘のちゅーを目撃しちゃって壊れ戦車になったところとか可愛かったし唯一柔らかい感じの人で素敵だった。
他の人は全体に何だかギシギシいいそうで怖かった。キヨさんはともかくおばあちゃんとか半端ない。何故懐ける、祐希…。

文藝春秋 / 2009.12.16.



有川 浩

シアター! / ★★★★☆

小劇団を主宰する春川巧は、いじめられっ子だった幼少期に演劇に掬い上げられ
20代も後半になった今でも食えない演劇を続けている。
泣き虫の末っ子気質で毎度兄の司に泣き付いていたが今回は300万の借金話に、金を貸す代わりと厳しい条件をつけられた。
プロの声優である羽田千歳が加わったことをきっかけに、黒字を目指すことになった小劇団の話。
図書館戦争で柴崎を演じた沢城みゆき嬢の所属している劇団のお芝居を著者が観て
更にそこからその劇団の内部の話を知ったことが、本作の生まれるきっかけだったらしい。
声優であることだけでなく、小さい頃からって点や声色の使い分けの器用さ、
少しミストのかかった独特の存在感がある声、なんていう素の声の表現、その他諸々
詳しく知っている訳じゃないけれど、にも関わらずあまりにも千歳のモデルがみゆきちであるように見えてしょうがなかったことが、残念。
取材をした劇団を知っていたら他のキャラクターも団員がモデルっぽいと感じたのだろうか。
どこまでが作られたキャラクターなのかわからないというのは読んでいて不安になる。何だか戸惑ってしまって居心地が悪かった。
ただ、後半になるにつれてそういった面はあまり気にならなくなった。
何より、格好良くあろうと巧への復讐(千歳に自分を追わせる)にシフトする看板女優牧子の姉御っぷりがとても素敵で良かった。
雑誌記者に意地悪をされた千歳への檄には物凄く痺れた。
負けるな、であり、引き上げてあげるから、であると思った。あなたのいるこの劇団はそういう場だ、って。
ああいうお姉さんを描かせると有川さんは強いと個人的にとても思う。
お話は、お芝居ものというよりはやっぱりキャラクター小説って印象だったけれど、でも充分楽しめた。
ただ団員10人+鉄血宰相な兄の全11人のキャラクターをどうも描き切れていないような気がしたところは勿体なかった。
出番の量もそうだけれど、それだけじゃなくて、キャラの濃さに差がありすぎたのではなかろうか。
劇中劇のメイン2人と春川兄弟のやり取りの雰囲気がそのまま同じようだったことも
脚本の書き手が巧であることを印象付ける為だったにしても、物足りなく感じられた。
作り手側でない司の疎外感は過剰じゃなくて、でも切なくて、且つ排除されるべきものでもなくて良かった。
過不足のない書き込みだと思った。いつまでもじめじめしていないところがすき。
司は千歳への対応もいちいち良かった。大人びた良い子な千歳が等身大というか年下らしくなるのを引き出しているのが素敵。
意地の悪さにも年上の余裕にもあざとさがなくて、巧には悪いけれどあまりにも良いコンビだ。
有川さん本の男性キャラがある程度年上な組み合わせってあんまり萌えたことがなかったから新鮮だった。
基本や要所要所は美味しくて楽しめた分、もうちょっと、なところが勿体なく感じられる本だった。
このままでも充分楽しかったけれど、絶対もっと良く出来る、っていうような印象を受けた。

メディアワークス文庫 / 2011.03.31.



有川 浩

塩の街 / ★★★☆☆

原因不明の奇病により人間が塩になって死んでいく、塩害が訪れた世界の、恋の話。
塩害の理由と対処の描写があまりにも薄いのが気になった。
後者はわざとだろうけれど、理由むしろは解明されていないようなものである。終盤の入江の行動も何だかしっくり来なかった。
元々電撃文庫だからか、ラノベ寄り。
今までに読んだ同著者のハードカバーな2作品(片方は1冊丸ごとじゃないけれど)の方がすきだなと感じた。
身寄りのなくなった少女と、彼女を拾った男の話。
嫌いじゃないんだけど、私はやっぱりこの著者の場合、子供より大人キャラが物凄くすきなんだなと実感した。
真奈は可愛いけど、もっと可愛い野坂さんがすき…!
秋庭はすきだけど、1つ目のエピソードの海を目指す男の話の方がもっとすき…!何故って多分、大人同士だから。
かっこよくて可愛い大人のカップルの書き手として、これまでに知ったどの作家さんよりすきだ。
甘々のベタベタで、基本男の人が女の人を子供みたいに甘やかしている様は
この本の野坂夫婦なんてかなり、こっ恥ずかしいのだけれど、でもやっぱり魅力的なんだと思う。
ちょっぴり悔しい気もするけれど、ベタな素敵をちゃんと素敵に書ける人は少ない。
ドラマの踊る〜とかHEROの雰囲気に通じるものがあると思った。
塩の街本編と、その後、と題された番外編が収録されているけれど
案の定というか何というか野坂夫婦の番外編がいちばんすきだった。
ほほう、とかあたしがちょろい。とかその言い回しに私がちょろく(?)のっくあうとー!
野坂さんの痛い部分は、読み手としてもすごく痛かったけれどやっぱり大人がいいな!すきだな!ずっと大人だけ見ていたいですむしろ。
デビュー作であり、自衛隊三部作の陸自編である。…秋庭のせいで空の印象の方が強かった;;
最近この方の影響で自衛隊の貼紙にすらときめいてしまいます。ふーじゅーんー

メディアワークス / 2008.12.22.



有川 浩

植物図鑑 / ★★★☆☆

咬みません、躾のできたよい子です、な文句がツボにハマり、マンションの玄関先に行き倒れていた青年イツキを拾ったさやかの話。
男の子の元へ美少女が現れた!な切り口の話の方がまだファンタジーしている分しょーもなく許せる気がした。
女版は、というかこの本は、何も起きなくても変に生々しく感じてどちらかと言うと苦手に感じた。本能とか言うな、である。
甘くてベタベタで女子妄想全開ぽくてこっちがこっ恥ずかしい!な話。これ、普通の女の子には結構理想なのだろうか。わからない…。
男版と違って女は男の人そんなホイホイ拾って家に上げたら駄目だろう…というのは堅い?古い?
河川他で草を摘み、それを美味しく料理しちゃって、イツキはさやかの胃袋を鷲掴む。
食べ物も草花もいまいち美味しそうとか綺麗とか可愛いとか思い切れなかった。残念。描写との相性なのかなあ。
さやかの、口頭では女の子女の子していたりするのに地の文で乱暴になったりするところが少し苦手だった。
地の文の乱暴さは有川さん作品には結構ありがちな特徴かもしれないけれど
さやかの場合は良い意味でのギャップとか可愛さには思えなかった。
表題作の他、番外編が2作品収録されている。
ゴゴサンジは2人のその後と回想、花の名前を珍しく間違えちゃったイツキの話。
午後三時は更にその後かと思いきや、本編の間の話で気付いて少しびっくりした。名付け的にも、お母さんが食に走る、的にもてっきり…。
午後三時がすきだった。
主人公の杏奈がいまいち小学二年生に思えなかったり、恥ずかしくて怒っちゃった先生の件も
物分かりが良すぎる気がしたりしたけれど(私は大人らしくないのに大人ぶる大人に反発していた口である…)
学校で男の子にからかわれて仲良しの幼馴染みと友達じゃなくなっちゃったのとか、甘酸っぱく迫った。
愛犬サクラに掛ける、弾丸サクラ、発射!の文句がすごく効いていた。

角川書店 / 2010.05.08.



有川 浩

空の中 / ★★★★★

やばい、大すき!!が読み終えた今の率直な感想である。もう。もう本当。やばい。
色んなとこベタなんだけど、そのベタさに飽きが来なくて、しっかりそのキャラクターだから、に昇華されているところが何ともたまらない。
武田光稀三尉もたまらない。超すき大すきときめきが止まらない。
最初、ルビが振られてなくて読み方どっちかなと思っていたら作中で春名高巳氏が同じ風に考える描写があってちょっぴりニヤリ。
そしてそれ以降この2人のやり取りがいちいち可愛くてニヤニヤニヤリ。読んでいてすごく幸せになってしまった。
空の上の上の上の方で起きた2度の飛行機事故から始まる未確認生物【白鯨】のSFと、田舎の幼馴染み同士の高校生の素朴な青春と、
ひとりで間違った方向へ頑張っちゃってる美少女と、基地を舞台にした何ともほのぼのな大人2人と、
どっしりして美味しいとこひっさらって行った素敵な大人と…の物語。
あとがきにあった無節操は本当にしっかり魅力に味になっていたと思う。
特に大人2人が本当すごくすきで続編とかないのかなとつい。もっとあの2人が見ていたいっ…
恋愛をこんな風に微笑ましく可愛くすごく自然に幸せなこととして書ける作家さんは貴重だと思う。
恋愛嫌いとか嘘みたいに惹き込まれてしまった。
…読中何度も女の人みたいだなって思ってけどヒロシだし、と思い込んでいたら名前、…ヒロ、で、作者さん、女の方で、…驚いた。
全体としては女の人っぽいけど光稀さんのキャラクターは男の人だからこそかなと納得していたから
読み終えて、プロフィール見て気付いてびっくりした(笑)

メディアワークス / 2008.11.30.



有川 浩

図書館戦争 / ★★★☆☆

アニメ化もした図書館シリーズ第1作目。
アニメの方は絵をちらっと見掛けたくらいなのだけれど、最初、主人公の22歳設定にちょっと驚いた。
メインは十代の青春ものかと思ってた。けど、22歳とはいえ大人としては書かれていなかったから印象はそんなに覆らなかったかな。
加えて今回は大人組のラブコメがなかった為、有川さんの書く大人カップルフェチとしては、ちょっと残念…。
あとがき曰く、月9連ドラ風をコンセプトに書かれた、塩も楕円もザリガニ(これはこれから読む予定)も出て来ない、普通のお話とのこと。
加えて、こんな世の中になったらイヤだなーであるところの、
公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律が成立、施行された、世界の話。
平たく言えば好き勝手に読書がし辛くなっている世界の話。そんな中、軍隊みたいな図書隊はひたすら本を守り、自由を守ろうと闘う。
主人公の無鉄砲で単細胞で泣き虫な郁と、お堅くて厳しくてその癖一皮捲れば甘々な堂上教官との勢いのありまくる掛け合いが
可愛くて微笑ましくてたまにクスリと来て良かった。
でも郁には見せないもののどうしても結局郁に甘い堂上とか、完全にこっちが悪、となってしまっている良化法とか、
あまりにも平和で、もうちょっとハラハラ感が欲しかった。
郁がふいに落ちるところでは逆に安心したりしてしまった。続編ではもう少し辛味というかツンというかが欲しいところ。
相変わらず堅い描写と所謂ラブコメらしい描写の温度差が激しいけれど、どっちもあるからバランスが取れているのだろうなと思う。
今回の堅い描写は今まで読んだ中で一番難しかった。法律とかそういう類の今回は一番リアルに近い分、逆に大変だった。
日野の悪夢の回想が最初唐突で一瞬置いていかれたのだけれど、すごく鮮明でつらくて
その分すぐ引き込まれて、そういう意味ではこの本で唯一の引力のあるシーンだった。
…それはそうと、あとがきの著者の妙なテンションはなんだろう、ちょっとびっくりした(笑)
そして時雨沢さんのオマージュ許可ってなんだろう。銃…の辺り?いや、本の国とかでそういう話があったか?それかな?
読んでいて全然連想とかしなかったのはオマージュが素敵にいい具合だったからか、私の記憶の問題か…;;

メディアワークス / 2009.01.01.



有川 浩

図書館内乱 / ★★★★☆

新しい切り口に迷い、終盤で迷い、ラストの締め方で4つ星だもう!畜生!となったシリーズ2作目。
いい感じに進化していて嬉しい限りである。
男性キャラがとにかく、ひたすら、バレバレな相手役に甘い、っていうのがきゅんとするより物足りなくて
そこが5つ星を付けられない一番の理由だと思う。私はもうちょっとハラハラしたいのだ。おばかなやり取りはすきだけれどっ。
でも今回は、そんな甘々な男性陣は置いといて前半は新キャラの毬江ちゃんが入り易くていい感じで
全体を通せば視点としては初の柴崎が、素晴らしすぎた。
大好きよ、には堂上がそもそもベタ惚れなこともあってヒロインがみんなに愛されちゃうのはちょっとなあって部分もあったのだけれど
だからむしろ堂上視点の話がこれまで全くなければなあ、とか思ったりもしたのだけれど、読み進めるうち、気にならなくなった。
柴崎素晴らしい。郁が大事でしょーがないところとか普段の接し方とか素晴らしい。素敵。
だから朝比奈はちょっと煩わされるのが鬱陶しかった。柴崎は特別嫌がってなかったしお門違いだけれど。
郁は郁で前の巻より公正になっていて嬉しかった。
のらくろだの部下がトリだのふいに実際に吹き出しちゃうようなやり取りがあるのも良い。
気付いた郁の反応もシリアスじゃないのがとても良かったし格好つけてる彼女は本当に格好良い。
すぐ崩れちゃうのは残念だけれどそれは郁だからまあしょーがない。
未だやっぱり子供っぽいところはあって、そういうのにはたまに唸りたくなるけれど
多分今後その辺りも今回の公正さみたいに成長していくのだろうと期待。

メディアワークス / 2009.02.02.



有川 浩

図書館危機 / ★★★☆☆

甘さ、安定っぽさ、また大分戻ってしまった…。残念。
にしても、図書隊は今日も元気だった。本当元気だった。…どこから来るんだその元気。
痴漢事件、昇任試験、折口さんの床屋さん事件から、更に茨城県展警備っていう大きなエピソードへと展開する。
今回また善悪がハッキリしすぎている風に感じられてやっぱりちょっぴり疑問符を抱えつつ、玄田隊長と折口さんの組み合わせがすきだ。
やっぱり大人に弱いらしい。でも個人的にはこの2人の場合結構お笑い要員である。俳優に喩える!?あれを!?には笑った。
柴崎は相変わらず素敵。読み聞かせで声色使い分けるエピソードはCVみゆきちだもんなあとか妙な納得をしてしまった。
子供にも容赦ないとこ大すきです。やり方がやたらスマートな所も素敵。
郁が柴崎みたいにって頑張る所はぐっときた。手塚が柴崎と自分より仲の良い感じで一瞬ムッとする所も良かった。
その後堂上絡みの嫉妬にまで発展してしまったのは悲しかったけれど。想像上だけであってドロドロもしていなかったのが救いか。
柴崎が言うまでもなく(多分)郁>堂上で良かった。好きって訳じゃなければギスギスしない郁で良かった。
ついでに堂上が郁まっしぐらで良かった。郁と柴崎の修羅場なんて見たくないもの。
柴崎はあんなに郁が大事なのにそんな悲しいことってない。
野々宮ちゃんらの前で男前な郁がかっこよくて、普通に女の子してる郁より言葉遣いの乱暴な郁がいいや、と思った。
女の子してると有川さん的に言えばあまりにも痒いんだもん主に大抵横にいる堂上が!
有川さんのラブコメは嫌いじゃないつもりだけれど、普段大人でこそなんだ!普段カッコイイからこそなんだ!
郁が25歳になったとか真面目に信じられない。
初期の22はともかく今も25は私にとっては大人なのにそれだって実際はそうでもないってことだろうか。年齢ってわからないなあ。
彼らの場合大人っぽさとは無縁でだけどたまにカッコイイからいけない。
逆にして下さい…!つまりツンデレはツンが多くなきゃいけない感じで…!
とか個人的には思いつつ、それにしても玄田隊長の無茶は凄まじくてかなり来るものがあった。
稲嶺司令はそんなに思い入れなかったけれど直属の部下である柴崎とのエピソードとかも、読みたかったなあ…。
ラストはやっぱりちょっぴり淋しい。

メディアワークス / 2009.02.19.



有川 浩

図書館革命 / ★★★★☆

図書館シリーズ、最終巻。良かった。いい終わり方だった。
ずっと気になっていた、有川さんの所へもこれまでに意見が幾つか来たっていう
良化委員会側の言い分が書かれていないって点については、この巻では気にならなかったし
むしろこの展開ならない方がいいって思えた。今までの不公平さを全然許せるくらいの納得が出来て嬉しい。
それから熱血バカと怒れるチビ(今更だけどこれ、ヒドい紹介だよね…笑)の恋愛方面のベタっぷりが
今巻では何かいい意味で恥ずかしい感じで、上のに続きこれまた初めてそう思えて、嬉しかった。
ギャンギャン大騒ぎしている2人はともかく、普通に恋愛ものやってる2人にここへ来て好意的になれたのは
最後まで追って来て良かったなあって感じられてとても嬉しい。だから良い最終巻。
原発テロから始まる作家当麻蔵人の護衛な日々。
いつもの図書隊から離れた感じで最終回らしい展開へひたすら突き進む。とにかく逃げる。
郁は本当に大人になったなあって思う。初期の新米っぷりから凄まじく成長している。
堂上に託されてひとりで頑張る様は危なっかしさもあったけれどやっぱり頼もしかった。嬉しかった。
唯一、堂上の死亡フラグにはあまりのベタさにギャー!って思ってしまったのだけれど
(だって死ぬ訳ないと信じ切っていたもんだから…駄目な読者でごめんなさい…)
手塚兄に対して有能っぷりを発揮する柴崎と彼女の尻に敷かれた手塚弟の組み合わせはひたすら可愛かったし、
その後の郁も平和で良かった。手塚に対する余裕っぷりも何だか笑えちゃう。
本当、大人になった、成長した!別冊の方も読みたいって気持ちがぐぐっと高まってしまった。

メディアワークス / 2009.03.26.



有川 浩

別冊 図書館戦争 T / ★★★☆☆

あとがきの有川せんせは何をそんなに謝っていらっしゃるのだろうと首を傾げたスピンアウト本T。
出たのは大人の事情によるらしい。ベタ甘は仕様らしい。
本編までは付き合ってやったがというお客さまには丸ごと無視して頂ければ、とあるけれど
私はむしろ本編のベタ甘よりずっと楽しめた。
真面目な本編内のおまけ(というかメインか)扱いより番外的にされた方が割り切って楽しめるようだ。
郁もやっぱりもう大人だし!拗ねたりしてるけどこういう形なら許容範囲!
本編エピローグに至るまでの主人公カップルの歩み。
明日はときどき血の雨が降るでしょう、はまだ入院中の堂上と林檎を剥く郁、竦んだ柴崎と返り血な郁。
柴崎って忘れがちだけれど意外とか弱い女の子なんだよなあ…。
そゆとこはカッコイイ郁の方がすきだ。普通ってことで仕方ないんだけど。
一番欲しいものは何ですか?、はちゅーしたい笠原さんと静かじゃない妹静佳さんと天然ママン。
堂上家が平和で素敵。困ったおじさんに対する郁は間違っててもやっぱりカッコイイなと思う。
柴崎はここでも女の子。むしろおんなのこ。ひらがな。お守りかあいい。
触りたい・触られたい二月、はまたまた柴崎が可愛い。脇役カポーだいすき。
バレンタインにバレンタイン関係ないみたくチロルチョコて!ベタでもいい可愛すぎる!
柴崎曰くのお母さんの呪縛はそんな特別なことでもないと思うんだけどなあー
むしろ柴崎のがかーいらしい恋愛してるしと突っ込みたい。これまでがどーであれ。
催涙弾で頑張る郁はやっぱりかっこよかった。そゆとこすき。柴崎に手入れしてもらうのも可愛くて良かった。
こらえる声、は勝負下着を頑張る郁と図書館に秘密基地を作ろうとした雄大少年。
スポーツブラで大騒ぎする郁が間抜けで良い。なんて愛すべき馬鹿っぷり。
郁の思い出したみたいに百合みたくなる発言にちょっとびっくり。ああいうシーンは正直ちょっとあざとい気がする…。
柴崎には手塚、の方がすき。郁には厳しいくらいのこと言ってる時がすき。素直じゃなくてでも大事だからこそ感が良い。
郁を拒否する柴崎はつらかった。いつか郁にも手塚に対してみたいになれたらいいな。
シアワセになりましょう、はみんなの昇任と違反語を使わない差別表現の木島ジンと主人公カポーのちょっとした喧嘩。
柴崎ののろけとしか思えない泣きが鬱陶しいので発言が大すき。そうなのよ柴崎の良さはそゆとこなのよ…!きゃー
郁より更に先走ってみた堂上の話の持って行き方が可愛い。…つまり全体的に可愛さ割増で微笑ましくて和んだっ!

メディアワークス / 2009.04.23.



有川 浩

別冊 図書館戦争 U / ★★★★☆

別冊は本編より軽いタッチだからかサクサク読めちゃう。あっという間の番外編、終わっちゃうのがここへ来て何だか淋しい。
でも楽しく幸せに読み終えられて嬉しい。
今回は堂上夫妻がすっかり夫妻になってからのお話たちである。
もしもタイムマシンがあったら、は堂上班の戻りたい瞬間話からはじまる緒形さんの昔話。単発の普通の短編っぽい雰囲気なお話。
幸せ〜って感じじゃないからちょっぴり後味は苦めで甘くない。珍しいな。
元良化特務機関所属の緒形の逃げない姿勢とか覚悟は良いものなのだろうけれど
元仲間の人間を撃つことをためらわない、それで認められる、っていうのは読んでいて気持ち良くなかった。
嫌いになった訳じゃないけれど別れた、を語る話もそこの繊細さが私はまだ理解出来ないからちょっとつらい。
でも似た現状のラストの折口さんのぶっちゃけはすき。還暦過ぎたら〜はね、酷いよね!そゆとこすき!
昔の話を聞かせて、は郁が堂上にねだる堂上と小牧がまだ新米だった頃の話。
女子新入隊員の安達にとても憧れられている郁がとてもらしい。そりゃあの男前だもの、女子校に潤いを与えるタイプってやつだ。
柴崎の百合云々同様ちょっとあざとい気もするけれど。私はバカな吉田の方がすきだ、微笑ましくて。
若い頃は色々やらかしていた上官組を微笑ましく感じつつ、この話、私的最大の見せ場は郁の
「言いふらしてやる!堂上教官は家でお姫様抱っこするって!うわー恥ずかしい!さあとっとと下ろせ!」発言である。
もうね、言い方がもうね、大すきこういう子。子、って歳じゃないけど!
あからさまに甘い言葉とかじゃなくてでもベタ甘なこういうやり取りを見せつけられると
柴崎の気持ちが凄くよくわかるなって思う。あれは憧れるさ。
そんなこんなで5分の3を占める、背中合わせの二人、はやっと辿り着いた柴崎と手塚の話。
毬江ちゃんが発端で郁も囮になった痴漢事件より踏み込んでしっかり書かれたストーカー事件に
ああ柴崎はやっぱりこういう役回りなんだな…って感じた。郁ならここまでならないし、毬江ちゃんもここまで追い詰められない。
柴崎の歳がある程度いっている分物語としての衝撃はちょっとは緩和されているけれど
多分柴崎はここまで追いやられないと素直になってくれなかったのかな…。…でもつらい。
軽く、数ある事件のひとつ、くらいのエピソードでは済まないメイン扱いなストーカー描写と同室になった水島への柴崎の辛辣な分析が
一緒に来るもんだから、読んでいてもう、消耗した。後者は辛辣な癖に割り切った優しさがちゃんと本物だったから痛い。
突っ張ってる柴崎はやっぱり郁以上に女の子でしかも美人さんだから何かと面倒が尽きなくて
本当、なんで柴崎ばっかりっていう同期女子の言葉に物凄く同意した。
あまりにも酷い犯人の自供はその部分を読み飛ばしたくなったし情報提供者の手塚への主張の執拗さにも辟易した。
お話としてじゃなくて、中身に、登場人物に。これもちょっと珍しい感じ。ただ怖いじゃなくて、その理由に自分を疑う柴崎にハッとした。
自分も何かするって必死になる郁は痛々しかった。
でも彼女の落ち度はそれいつもの郁なら防げただろうと思ってしまった。郁が凄まじく怒って腕っ節を振るう2シーンは大すき。
柴崎の意地っ張りっぷりは、素直じゃないけどそこが可愛い♪とか言えるような甘っちょろいもんじゃなくて、
いい歳なのに(だから、か?)男の人を舐めた感じには苦くなったりしたし
挑発目的とはいえそれだけだとも言い切れなさそうなパパママ発言にもちょっと、って思ったりしたけれど
でも、本当に困った子だけれど、幸せになれそうで良かった。

メディアワークス / 2009.05.05.



有川 浩

レインツリーの国 / ★★★★☆

図書館内乱に登場する本の実物、として書かれた本である。とても読み易かった。
むしろ最初はやさしい文章な上ネットで知り合った主人公2人のメールのやり取りとか感情が当たり前に恋愛物をしすぎていて
その軽さに眩暈がした。伸のメールに心を開けるひとみがわからない。
だけど読者と伸に、ひとみが難聴者だって打ち明けられる辺りからもう軽い恋愛物どこ行っちゃったのって感じにひたすら全力になって
ほっとしたといえばほっとしたのだけれどそこからはそれまでとは真逆の意味でつらくなった。
ただ綺麗にとか、真摯にとか、そういうのじゃ全然なくて、
難聴者だろうが健聴者だろうがとにかく人間の、根本の性格のぶつかりあいが凄まじくて
でもすきはすきだからそういう発言も独白もさらっと入っていて、甘い恋愛パートには何だか物凄く転がされているような気もした。
落差が激しすぎる。それが前半と後半でとかじゃなく同時に存在しているのが凄い。消耗する。
自衛官に当たり前に恋愛させるみたいに難聴者にも普通に恋愛をさせて、でもそれぞれ事情が違えば喧嘩の中身も違って来る訳で
障害者だからと言って綺麗に純愛にとかいう風に全くせずに真っ正面からぶつかって、格闘して書かれたような、本だと思った。
棘もいっぱい。読む方も書く方も傷だらけになりそう。それを何だかしれっと書いちゃった感じの有川さんには恐れ入る。
軽いとかそういうことでなく、あれを書いた人が軽い訳がなく、だから凄まじい。
にしても図書館〜の小牧さんも当時高校生の毬江ちゃんに随分と凄まじい本を勧めたもんだ…。
そりゃ確かに文章は軽いけれど中身が濃ゆすぎるよ…。

新潮社 / 2009.05.23.



有川 浩

阪急電車 / ★★★☆☆

一駅毎にエピソードを繋げて、折り返しでその後のエピソードへと展開する短編連作。
構成がすき。エピソード毎の各登場人物同士がさり気なく触れ合っている様もやっぱりいい。
けど強い常識に反発したくなった辺り私はまだまだ子供なのかな。特に怒鳴ったおじいちゃんはつらかった…。
他にも騒がしいおばさん軍団とか小学生女子の嫌がらせとかあ゙ーっていう、チクッと来るエピソードも入りつつ
でも救いが存在する、最後には優しくなれる、終わり方で苦さが後を引かないのは良かったと思う。
ただみんなが同じ価値観ぽかったのは若干気持ち悪かった。へんに主張されすぎていたと言うか…。
孫に容赦ないおばあちゃんは地味に微妙に怖かった。
懐ける孫はすごいなあと思う。懐けてしまえば素敵な関係と思わなくもないのだけれど。
あとがきの怒った有川さんエピソード(具体的には書かれていないけれど)にも何かビビってしまって
全体的に、単なるイメージだけれど、関西(…だよね?舞台)の強さ(?)みたいなものを感じたりした。
お嫁さんになれなかった翔子さんが大すき。エピソードも翔子さんのキャラクターもズバ抜けてお気に入り。
幸せになりにくい女だと言うけれど、実際多分恋愛面を考えたらそうなんだろうけれど、とても魅力的だった。
泣き寝入りしないどころか結婚式で凄まじい仕返しをする激しさも、
おばさん軍団を躱して颯爽と去って行くところも、勝気な口調も、強さとかっこよさに溢れている。
呪っても根っこが嫌らしくないのがじめじめしていなくて眩しい。
刺して刺されて血塗れだった人にこんな風に思うのは失礼かもしれないけれど。でも素敵なお姉さんて感じ。
あんな風になりたいって思うような。可愛いタイプの女の子の話よりこういう方がすきだ。
有川さんの書くああいう人は本当かなりツボに入ると再認識した。

幻冬舎 / 2009.06.08.



有川 浩

フリーター、家を買う。 / ★★★☆☆

新卒で入った会社を3ヶ月で辞めて、再就職は出来ずバイトも続かず駄目人間街道まっしぐら、な武誠治が
母親の重度の鬱病をきっかけに真人間になっていく物語。
人の為、とするのはやる気を出す時に強い力になると思う。恩着せがましくなる可能性も内包しているけれど。
ドラマ版を見てから読んだ。
ドラマ版よりやたら強くて荒っぽくて正しさを振り翳す亜矢子ねーちゃんは向こう側に作者が透けて見えるようで少し苦手だった。
あとがきによると作者は誠治らしいのだけれど。意外だ…。謙遜に思えてならない。
嫁ぎ先事情はドラマ版のオリジナル要素だったらしくその分やたらと完全無敵状態である。父親より上に悠然といるってなんか格好悪い。
父親が多少アレにしても、多少だと亜矢子の方が情けない。親を見下してドヤ顔をしている感じ。
逆に、誠治の夜間バイト仲間への報告や愚痴の描写はさらりとしたものになっていて良かった。
後半になって漸く真奈美が入って来てからも
ドラマ版でやたら挿入されていた飲み会だの何だのもなくあっさりと仕事をしていることに好感を持った。
ただ、部下が出来てからの誠治はどうにも先輩風を吹かしているように見えてつらかった。
部下のひとりでお軽い豊川は真逆の印象を持っているみたいだし、誠治自身すぐに昔の反省も口にするのだけれど
そう言う割に昔から真っ当でしたってしれっとしている風に見える気がしてモヤッとしてしまう。
今は抜け出してしゃんとしているって自負が話し方に透けて見える気がした。
いつまでも反省ばっか見える態度でも、部下にはそんなこと関係ない訳だし仕方ないんだけども。
初対面の時の真奈美が豊川に偉そうなのも嫌だった。
同期に後輩扱いされたくないと言いながら、真奈美の方がそれこそ先輩のように偉そうな口振りで豊川に命令するとかきつい。
真奈美は、職場に慣れると同時に可愛く思えるような部分も出て来たけれど
これは有川さん的にラブコメは避けて通れない要素だったってことなのかな。
多少は華やぎにもなるしという気もしたけれどノーカンエピは若干唐突にやらかしすぎたのではと思ってしまった。さじ加減って難しい。
これも、ドラマの色恋がなきゃ仕事にやり甲斐もてないのかよ的なラブコメパートよりはずっとあっさりで良かったんだけれど。
随所に凝り固まったような大人の世界の常識や暗黙の了解が散りばめられていて
その中には私がガキってことなのだろうけれどどうにも納得いかないことも幾つかあって、それがつらかった。
鬱病の母親に優しげにしたり、誠治の情けなさを誠治サイドから描くことで威圧的にならないようにしたり、
細かい部分に気遣いや懐の広さが見えるのに
あちこちに真逆や、そこはわざわざそっちサイドへ行かなくてもっていうような自覚のない歪みが罠をはっているよう。
しんみりと感じたのは、ドラマ版で誠一を演じた竹中さんは凄い俳優さんだなあということだ。
文章で改めて誠一の割とちょろい可愛げや素直になれない情けなさ、いじけ、虚勢の怒鳴りなんかを読むと
それを寸分の狂いもなく視聴者に伝わるように表現していた竹中さんに気付いて感動する。過不足なくってきっとこういうことだ。

幻冬舎 / 2011.07.27.



有川 浩

ラブコメ今昔 / ★★★☆☆

クジラに続き自衛隊ラブコメシリーズ第2弾な短編集。とはいえメインは恋愛模様だから自衛隊そのものはそんなに関係ないことが多い。
故に、最近じゃ自衛隊と聞いてもミーハーにしか想像出来なくなってしまった…。
興味を持つ、って点では上手いこと引っ掛かっているけれど有事以外の自衛隊ってどんなだろう。ていうか普段何しているのだろう。
広報官とかも隊員なのだよね、多分高校とかの新聞部みたいなものだよね、つまり別にメインの仕事があるのよね?みたいな。
そのうち有事じゃなく普段で、でもメインの仕事の絡んでる話、ってのも読みたいなー。
表題作は突っ走り系広報自衛官千尋ちゃん、鬼上官に奥様との馴初めをっ、と迫るの巻。
千尋ちゃんやら邦恵奥様やらに転がされる今村二佐が可愛い。怖そうなのに覗いてみれば目線とか心情が基本優しいのも安心する。
隊内結婚に対する二佐の意見は、全然厳しくないと思う。
むしろ極端な私は自衛官が片方だとしても、相方を作るのはともかく子供は、って思う。
でも逆かな、残されるなら奥様(或いは旦那様)には子供がいた方が救われるか。
ラストの千尋ちゃんと吉敷さんが意外で更にあまりに甘くてびっくりした。わお。
軍事とオタクと彼は大阪の歌穂さんとオタクでもあった年下自衛官の話。
行かないでより頑張ってねが良いっていう光隆に、頭ではわかるけど大変だなあと思った。危ないお仕事って難しい。
普通の恋愛話ぽかった、歌穂さんがひたすら普通の女だった、
つまり付かず離れず中の前半は若干ついて行けなくてつらかったけれど、後半は良かった。
ラストも写真に対するやり取りも可愛すぎ。偉かった、はよくわからないけれど多分方言?
広報官、走る!は自衛隊がドラマ撮影に協力する話。
王様にいびられる汐里ADが可哀相で、だけど読者を負へ持って来すぎない書き方は相変わらずで好感。
たらしとか言われている癖に全然上手くない政屋が可愛い。
青い衝撃は人気のパイロットの奥様とストーカー予備軍な女の攻防話。
所帯染みたお母さんな奥様の、勝った笑みでメモを送って来る女に踊らされる様が痛々しくて、でも引き込まれた。
ストレスが溜まって不安定になってヒステリー起こして、と散々なのに彼女側に嫌悪が傾かず
且つ必要以上にストーカー女を書き込んでもいないのが、やっぱり好感。
復活した公恵の、甘くない、な宣言が格好良すぎて痺れた。紘司パパと優太の母をたずねて三千里ごっこも可愛すぎた。
秘め事は上官に内緒で上官の娘とひょんなことからお付き合いを始めた手島二尉の話。
別れ話に対する有季の反応が女の子だなあと思った。何て言うか、根っこの強さが。
自衛官の妻(夫)の心構えである喧嘩を翌日に持ち越さない、は
理屈じゃわかるし私的には仲直りのいいきっかけな気もするけどでも気をつければ気をつける程、縁起でもない感じ。
いや、馬鹿な言い分ってわかるんだけど。…つらいなあって、思う。
ダンディ・ライオン〜またはラブコメ今昔イマドキ編〜は
メインが昔、だった表題作に対して今をメインに持って来た千尋ちゃんと吉敷さんの馴初め話。
迫り来る千尋ちゃんに対する吉敷さんの不器用すぎる反応が凄くすき。
野生動物みたいに警戒心を解かないとか!年下の女の子に対して!どんだけ!不器用な男の人っていいよなあと久しぶりに思った。
派手さはないけれどキャラクターが大人な短編は甘々ベタベタでも安心して読めて良い。

角川書店 / 2009.03.04.



在原竹広

時の魔法と烏羽玉の夜 / ★★★☆☆

普通の中学生、光田直日人が
魔術の血と言われ、凸凹コンビなトミーとジョニーに誘拐され、烏羽玉窈子に助けられ
過去からやって来た敵である日裏翠陰を倒すお手伝いをする話。
話の進行と、何より視点の定まらない基本三人称である筈の文章が素人臭くて疲れた。
強大な敵に立ち向かうのはハラハラドキドキな筈なのに主役側が弱すぎて
更に直日人が元々そういう役回りとはいえ役立たずすぎて勇気じゃなくて無謀の馬鹿さばかり目についたのも残念。
応援する心境になる前に呆れてしまう。イラストも緊張感がないタイプのものだったから余計に萎えてしまった。
極め付けは、洒落なのかもしれないけれど売れる本を書こうと決心したから始まる売れるを連呼するあとがきだ。
でも、読みながらずっとこれは私には無理だと思っていたけれど終盤のタイムワープにはワクワクして一気に株が上がったりもした。
過去が変わる云々は頭ではわかってもいまいち納得出来なかったけれどそれでもお話の中でそれらが繋がった瞬間はたまらなかった。
トミージョニーのボスである探偵事務所の主、姐さんこと大熊潤美が格好良くて素敵だった。もっと出番があったら嬉しかった。
彼女の病室へ連れて来られてサディスティックに笑う日裏も素敵だった。
ペンを使い書く魔法にはいまいち面白みを感じられなかったけれど
喋るコウモリである川堀さんが昔から普通にコウモリだった処はちょっと新鮮だったかも。
あのおじさまは一体何なんだ。名前も何かおかしいし。でもそこは案外嫌いじゃなかった。

電撃文庫 / 2010.07.23.



有間カオル

太陽のあくび / ★★★★☆

愛媛の小さな村で開発された新種の夏ミカンとそれを開発した少年部と通販番組のバイヤーお姉さんのお話。
甘くて酸っぱくてほろ苦く爽やかな、物語。らしい。裏表紙より。
…このフレーズは幾らなんでも欲張りすぎだろう、と思う。確かに全部あったけれども。
はじめはラノベらしからぬド健全な舞台と方言と展開に、そこまで惹かれずにいた。
でも最後の章の生放送があまりにも秀逸というか、一気読みじゃなかったにも関わらず温度差もなくぐっと力強く引き込まれてしまって
嘘みたいにぐわっと泣きそうになってしまったくらい、盛り上がってしまって、評価が急上昇した。びっくりした。
伏線は分かり易いにも程があるし、意外性も何もなかったのに、凄まじいパワーだった。
乱暴じゃないのに急速な直球に完敗した。柑橘の香りがそこかしこで活きていて、読んでいる間も読後感も爽やかだった。

メディアワークス文庫 / 2011.02.16.



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