生田紗代

タイムカプセル / ★★★☆☆

前半は読みやすくてスラスラ進んだのだけど、後半は何だか呆気ないというか…
こういう本ってラストがない、オチがない、感じがしてどうもしっくり来ない。消化不良みたいになる。
普通の、ほーおな面と、これだから嫌だな面とがナチュラルに在った。
10年後の自分に宛てた手紙、って、私も学校で書かされたけど未だに意味がわからない。書きたいことなんて別にないし。
だから私がもしむつ美であんな風に1日の過ごし方を書いたとしたら
それは書けと急かされてとりあえずこれでいいか、とさせられた結果に他ならない。普通って虚しい。

河出書房新社 / 2006.09.20.



池澤夏樹

キップをなくして / ★★★☆☆

春菜ちゃんのパパ、何ていう不純な好奇心ながら…(笑)。凄く綺麗な本でした。研ぎ澄まされた感じ。
刃っぽくはないのだけど、小学生の夏休み、のよく似合う大人の読む子供の話。昔のわくわく、を思い出すような。
小さな子が読んでも楽しめそうな理屈じゃない面白さがあって、けど文章は凄くストイックで、最初は戸惑ったくらい。
駅の子。不思議な魅力。電車とか別に興味なくても何となくわくわくしちゃう。
独特の死に纏わるあれこれも、コロッコとか素敵。優しくて、何とも言えない奥行きがあって、新鮮でした。フタバコちゃんが可愛かったー。

角川書店 / 2006.04.18.



池永 陽

珈琲屋の人々 / ★★★☆☆

人を殺した前科のある珈琲屋の主人と、彼の店にやって来る人たちの話。
訪れる誰もが行介を人を殺したことのある人間として見て、結果として彼に縋る。
いい意味じゃなくしょーもない人たちの話で、全体的に私の苦手な男の人の書いた本だと強く感じた。
女の男への執着が鬼みたいに凄まじかったり、男が自分の男としてのロマンチシズムに浸りまくっていたり、
その癖品がなくて生々しく自分のことしか考えていなかったり。
基本の雰囲気が淡泊だから2つ星にする程の不快感ではなかったけれど、それだけだった。
台詞頭のあっ、とえっ、の多さも鬱陶しかった。文章も稚拙に感じた。
男の人は女の気持ちなんて結局わからないし、私は私で男に執着する女の気持ちを一生わからないのだと何だか無性に思った。

双葉社 / 2009.10.14.



石井睦美

白い月 黄色い月 / ★★★☆☆

真っ白で曖昧で不確かで素朴で高貴で洗練されたお話。正反対な筈のものが同居している、印象。
記憶をなくしたぼくはいつからか知らない島のドリーミング・ホテルで毎日を持て余し気味に暮らしている。
いつも三日月の出ている人気のない小さな島を毎日くまなく歩いて回って、それを封印すれば、途端に他にすることがなくなってしまう。
カエルの顔と手足を持ったオーナーとか、見た目はそのまま本にしか見えないビブリオとか、名前のないウサギの親子とか
やさしくて不思議なファンタジーさも溢れているけれど
どこか哲学的で、奥深そうな空気がそこかしこに漂っていて、静かで独特な雰囲気に飲み込まれる。
ぼくがぼくを見つけるまでの物語。終わり切っていないラストはちょっと不安定な感じ。あとがきによると続編があるっぽいのかな。
児童文学調のような、大人の絵本のような(絵はないけれど)、全体的に薄明るい、とにかく不思議、の似合う本だった。

講談社 / 2009.03.08.



石井睦美

卵と小麦粉それからマドレーヌ / ★★★☆☆

12歳のママっ子な菜穂が、ママのパリ留学をしっかり飲み込むまでの話。
女の子同士を極自然にカップルと言ってしまうことに驚いた。
好きとかラブラブとか、女子校だし深い意味も多分ないと思うのだけれど
他が常に柔らかくて暖かい素朴な雰囲気に溢れているものだから何となく若干浮いているような気がした。
そういうのはない方がこの本には良かったのじゃないかなと感じた。
ママが、ママ以外の自分を求めて欲張って、両方欲しいって言ってもいいのだと気付くっていう基本の思想は
私にはまだ素直に受け入れられないけれど(二兎追う者は〜だと思ってしまう)
反発してママはわたしを捨てるのだ、みなしごだと思う菜穂に、そりゃちょっと違わないかいと思う程度にはなったようだ。
駄々を捏ねる菜穂が疎ましくて、何か、ちょっといやな感じ。自分の変化が。多分私もああだった筈なのに。
一人称な文章に中学1年生の等身大な目線で割り込む心情とか、整理されずに錯綜した描写は、軽すぎて慣れるまで少し苦手に感じた。
タイトルにも通じるほわほわした空気と、パリ留学を反対する、立ち位置があれなのに厭味がないおばあちゃんがすきだった。
後者は特に、とてもナチュラルで、あんななのに何故か好ましくて不思議だった。

ピュアフル文庫 / 2009.04.20.



石井睦美

レモン・ドロップス / ★★★☆☆

児童文学調の易しくて優しい文の、ナチュラルで甘酸っぱくて爽やかなお話。
児童文学で激しいくらい引き付けられるお話は珍しいと思うし
この本もそういう強さはなかったのだけれど、でも充分満足出来る、きゅきゅっと詰まった作品だった。
ラストが、え、これで終わっちゃうの?って風だったのはちょっぴり残念だけれど。
呆気ないというか味気ないというか置いてきぼりというか。
へんに引き伸ばしたり事件を起こして解決させたりしてもしょうがないのかもしれないけれど。
中学3年生の美希のどこか儚い日常の物語。
駄菓子とレモン・ドロップの描写がとにかく綺麗で愛しくて大すき。冒頭からそれでいきなし心を掴まれてしまった。
駄菓子屋さんが自然に日常に組み込まれた中学生か、可愛いなあ、とか思いつつ
理屈っぽく女の子同士の付き合いを解析して、自分は綾音とそうじゃなく繋がっていようとする美希がナチュラルに迫る。
当たり前に書かれているし、全然特別な感じとかではなくて、
むしろその考えは若さでもあるのかもしれないけれどでも凄く健全で、真っ直ぐだ。
それを理由に友達って存在を避けるとかじゃないところなんか特に。
おじいちゃんが自慢の蓄音機で音楽をかけて、それに合わせておじいちゃんとおばあちゃんが踊って、
美希もちょっとだけお邪魔する、って日常もとても素敵だった。
おじいちゃんの茶色の小瓶を大切に取ってあるおばあちゃんの気持ちにはハッとした。
いきなり芝居調になった夢に笑って、人が人をすきになることを素敵だと綾音とかお姉ちゃんを見ていて
至極あっさり思うようになった美希が、不思議で、私はずっと年下の彼女に、どうして?って聞いてみたくなった。
恋でかわいくなるとかも、よく言うけれどどういうことだろう。そんなの有り得るの?って思う。
だから教えて欲しいと思った。或いは見せて欲しいって。否定したいとかでなく単純に知りたいと思った。珍しいことだ。

講談社 / 2009.02.21.



石田衣良

波のうえの魔術師 / ★★★☆☆

株の話。ひたすら数字とよくわからない売り買いが交錯する。
専門的な部分は難しくてちんぷんかんぷんだったけれど、おれと小塚老人のやり取りとか、ヤクザな辰美とのやり取りとか
会話がさり気ないのに新鮮な面白みに溢れていて良かった。
数字とコンピューターとお金を使った復讐は、復讐、なんて感情論な筈なのに凄く理性的で不思議だった。
物語や登場人物に入り込んだりすることはどこか硝子越しみたいな冷たさがあって難しかったけれど
あの人の最後の行動に怒るとか悲しいとかよりも呆然として、最後の最後の行動に、きゅんとした。ラストがとても綺麗だったと思う。

文藝春秋 / 2008.02.19.



市川拓司(市川たくじ)

いま、会いにゆきます / ★★★★☆

元々はずっと、せかちゅーよりもこっちが気になっていて、やっと読めた。
映画版の緑の雨の煙る空気感にもとても心惹かれたけれど、原作の子供っぽい可愛さ、素直さ、無邪気さにも凄く魅せられた。
泣ける、訳じゃなくて(私には)ただ落ち着いた心地良さが控え目に、けど鮮やかで、凄く、すきだなと思う。
何てことない、何度も出て来る会話も微笑ましくて、主人公は歴とした大人なのにひたすら純粋に感じられて、
恋の話、のようなものなのに凄く綺麗で、素朴な文章が、そのままの良さをとても素敵に引き立てていたと思う。
たっくんの大変さから来る思考に共鳴してみたりしつつ。ココロ洗われる感じで良かった。

小学館 / 2007.01.09.



市川拓司(市川たくじ)

世界中が雨だったら / ★★★☆☆

私が今までに読んだ市川さん作品とは毛色の全く違った本だった。
琥珀の中に、は執拗にも思えるそういう描写に最初はどうしようかなと思ったけれど、辿り着いたのは、意外な真実、で
他作品に多少出て来た時と同じく、そういう描写に下品さを何故かそんなには感じられない作風なこともあって、大丈夫だった。
遠い、共犯者の少年少女の話。表題作はあまりすきではなかった。
この手のお話は、主人公の弱くて優しいいじめられっ子な少年に著者が不当に入れ込んでいるように思えて苦手。
加害者で被害者になる、ことへ進みたくなるのはわからなくもないけれど。自殺ってやっぱりどこか復讐に見えるから。
循環不安は主人公がいちばん嫌いだった、けれど、酷く歪んだ、自信過剰な醜い人物に思えたけれど
読み進めるうち、入っちゃってラストは一緒になってドキドキした。
悪いこと、してるのに。見つからないで、なんて。死体の描写が生々しくて、これも生来の作風とのギャップが激しい。
どれも犯罪者の話。主人公たちを美化して称えたりするつもりはないけれど作品の持つ雰囲気は、歪なのにどこか切なくて
それには、市川さん作品のいつもの色を感じた。

新潮社 / 2007.05.10.



市川拓司(市川たくじ)

Separation / ★★★☆☆

ネットで公開された2作品を集録したデビュー作。
どっちの主人公も同じ名前の2人だから、最初はVOICEは表題作で語られなかった挿話的な作品なのかと思った。
でも読み進めるうち、相違点がごろごろ出て来たりして、同じ人間を使ったの全く別の話、なのかなと最終的には判断。
表題作は、後半で、自分の世界にはあなたさえいれば充分、という些か歪さの目立つ主張が全面に出て来て
それが少し強すぎる印象はあったけれど、全体的にやさしい、暖かいお話、だった。
若返っていく妻。SFっぽいけれど何となく懐かしく感じるような描写はこの頃かららしい。
報われなくても悲劇を孕んでいても根本は満たされている風な点も。心地良く、癒される空気。
VOICEは、悟が体を壊すまで、裕子が東京へ行くまで、は楽しく読めたけれどその後が悲惨だった。
悟の心境がわかるから入りすぎてしまうのかなとも思ったけれど、ラストで、違う、合わない、って…決定的。どっちも勝手すぎる。
好き勝手した癖に、自分でそれ選んだ癖に被害者面しないで欲しい。だから私は、表題作の悟と裕子がすき、だ。表題作のみなら星4つ。

アルファポリス / 2007.04.19.



市川拓司(市川たくじ)

そのときは彼によろしく / ★★★☆☆

透き通った優しい色。市川さん作品の、色。すごく魅力的だ。
でも登場人物の名前が他作品と度々かぶるのはどうにかならないものかと思う。
全くの別人だってことは苗字が違うとかこれまでの人生が違うとかでわかるのだけど、どうにも混乱する。
水中の生き物のお店の店長さんである智史と、幼馴染みの佑司と花梨。モデルだった森川鈴音。
アルバイトの夏目くん。結婚を前提にお付き合いしている美咲さん。
中1の青春と今のことがくるくる、交互に語られる。最初は美咲に話す昔話として。段々と全てが繋がって。
度々現れる「ああ、そう」とか「みたいだね」とか、普通なら突き放して聞こえそうな言葉がとてもすき。
市川さんにかかると優しい、可愛い、いぢけた、顔になる。その独特の純粋な文章に毎回惹かれる。
ストーリーにはあまり惹かれず、こじんまりとしたマイペースなお店は素敵だけれど
本筋、とか、読んでいて何だか二の次になってしまった。

小学館 / 2007.09.09.



市川拓司(市川たくじ)

弘海 息子が海に還る朝 / ★★★★☆

何となく、泣けます系ノンフィクションぽいタイトル。市川さんの本でなかったら絶対手に取ってなかったと言い切れる。
けど、いま会いの独特の文章がすきだったから、チャレンジしてみた。結果、…当たりっ♪
シンプルで暖かくて優しい語り口が凄くすき。読みやすくて入りやすくて、何より愛に溢れた文章だと思う。
ぼく、の奥さんへの気持ち、息子と娘への気持ちが凄くナチュラルな優しさに溢れていて、凄く理想的。
ラストは、少し物足りないけれど、、だから星4つ。
弘海の変化は何か恐ろしいことのように感じられたから
幸せなのはいいことだけど結論がないと何だか肩透しを食らったような気分になった。
前半は不幸を想像していたというか、そう思い込んでいたから、意外ではあったのだけど。
それにしても、小型ヨットに中学生ふたり。だけ。物凄く不安に感じるのは私だけ?
そこだけ、凄く違和感があった…まあ、彼らは大丈夫って保証されているようなものだけれど。
著者は元々ネット上で小説を発表していたらしい。ネットから生まれた本、を見直した。

朝日新聞社 / 2007.01.30.



市川拓司(市川たくじ)

ぼくの手はきみのために / ★★★☆☆

唯一無二に結び付いたふたりの物語、全3編。
市川さんの本は水色の純愛、って印象がずっとあったのだけれど、この本は違った。
純っぽいのに病的なくらい排他的で、物凄く閉じている。
これまでに読んだ作品よりしっとりした印象に変わっていて連想する色もピンク、あるいはクリーム色のような、暖色系だ。
前の雰囲気の方がすきだったから少し残念に思う。
登場人物の小さく纏まる生き方に、失礼な話だけれど、書き手の絶望が透けて見えるような気がした。
表題作は治療法不明の発作を止められるのは背中をさする幼馴染みの手だけだった、なお話。
母子家庭で育ったひろと聡美の母親が、多分どうしようもないそれぞれの父親を
教育上の影響を考えてか、ふたりにきちんと褒めて伝えているところにぐっと来た。格好良いお母さんだ。
透明な軌道、は集団の中で暮らすことが困難な康夫と充生父子と、彼らに惹かれた真帆のお話。
康夫の次の真帆の相手が充生なことは、作中にもあるけれど道義的にも何だかなあと思ってしまう。
物語は至極ナチュラルに、そう移っていく。
真帆が倒れる前後に繋がりが見えなくて、わざとミステリアスにしている風でもなく終わってしまったのが少し肩透かしだった。
黄昏の谷、は妹の子供である貴幸を育て、あなたの子供だと連れて来られたものの嘘だと思っている初恵も引き取った寛一のお話。
貧乏に幸せに暮らしているのに妹も初恵も簡単に子供を作ってくれちゃうから何ていうか頭を抱えたくなった。
寛一は穏やかそのもので3人仲良く暮らしていたけれど
最後に出て来るSFな谷が意外で面白い反面、絶望の匂いが特に強い気がして戸惑った。
真っ正面からそういう話に見えればそれはそれで良いと思うのだけれど
著者は結婚もして幸せなんだよねぇ…?と何だか怖くなる。
同著者のこれまでの作品はもっと、閉じていても明るさとか健やかさがあった気がするんだけどなあ。

角川書店 / 2011.01.23.



市川拓司(市川たくじ)

恋愛寫眞 もうひとつの物語 / ★★★☆☆

映画版恋愛冩眞の脚本を発案とし小説版として書き下ろされたオリジナル作品、らしい。
どの程度映画と通じているのかはわからないけれど、私は完全オリジナルな市川さんの作品の方がすきだなと感じた。
不器用なぼくと、ぼくに恋した静流のカメラの趣味を通した日常。それからぼくとぼくのすきなみゆきとその仲間たちとの大学生らしい日常。
子供のような見た目の静流と、ひたすらうぶなぼくって組み合わせだとか
主人公とヒロインの不器用さは、きっと市川さん作品らしかったし淡い色合いも微笑ましかったのだけれど
全体的に薄味で、更に最後の事実がよくわからなくていまいち胸に迫らなかった。
いきなりどこかSF調…?で戸惑いの方が先に来た。個展のmyselfを悪趣味と感じてしまう辺り私はやっぱり堅いのかな。

小学館 / 2008.07.28.



井上尚登

クロスカウンター / ★★★☆☆

元アナリストの七森恵子、仕事仲間の如月浩二郎、クライアントの真壁杏子、と因縁の敵である平川慶史郎の対決。短編連作。
平川は詐欺師だし、潜入調査、何ていう小難しい題材を使っているのに基本的に捻りが感じられなくて
繰り返される説明描写にも辟易して、上手く入り込めなかった。
たまに挿入される恵子と浩二郎のやり取りは可愛いけれど
書かれ方のせいか、いい大人の癖に鈍感な恵子にあまりいい気はしなかったし、彼女、他の男に対しても似たり寄ったりで
何ていうか、主人公にもメインストーリーにも大した魅力が感じられないと、楽しむことは難しく…。浩二郎は良かったのだけれど。
ただ、全5作中4作は退屈だったけれどラストの女神の歌が聞こえるだけは、前半、状況的にワクワクして楽しめた。
気付いたら病院にいて、自分の知ってる自分とは違う風に扱われる話。
4章までとは冒頭から暫く雰囲気も違って、それが全く別のお話みたいに感じられて
ずっと澱んでいた空気が一気に爽やかになるようで、良かった。これがあったから星3つ。

光文社 / 2007.12.27.



井上夢人

魔法使いの弟子たち / ★★★☆☆

山梨の大学病院で発生した院内感染による未知のウィルスから奇跡的に生還した仲屋京介、落合めぐみ、興津繁が
その後遺症として超能力や不思議な力を手に入れ、それや世の中と共存しようと足掻く話。
久しぶりに4つ星、もしかしたら5つ星も期待出来るかもしれないと思うような手応えで
殆ど脇目も振らずな勢いで次どうなるかとドキドキしながら読み進めていた。
でも、終盤でもう残りのページ数も少なくなって来ているのに更なる展開が来た時には意外性を通り越して心配になって、
実際、そんな終わり方なのかとガックリ来るような慌ただしい結末に、星ががた落ちてしまった。
ずっと凄く面白くて、感染者として隔離された生活もファンタジーでありつつ変に浮つきすぎていない特殊な力も、
常に楽しく読んでいたのに、どこへ着地するんだろうっていうハラハラとわくわくを、最後の最後で躱されてしまったような印象。
次から次へと来る展開が凄く素敵だったから、
今もそれを明かしてしまっては勿体ないと感じて具体的な内容に触れられないくらいなのに、…本当に残念だ。
サルが来た時なんかまだ更なる展開があるのかと良い意味で驚いたんだけどなあ。
だれたりしなくて、久しぶりの強烈な当たり感がひしひしとあって、読みながらもずっと凄く嬉しかった。
最後の急展開とオチ以外は文句なしの4つ星。

講談社 / 2010.11.15.



今邑 彩

少女Aの殺人 / ★★★☆☆

人気DJ新谷可南がラジオで読んだ女子高生からの手紙、それと酷似した状況で起こった殺人事件。
相談の投書は毎晩のように受ける養父からの虐待を打ち明けるものだったから、どうしても生々しい描写は避けられなくて
特に冒頭辺りは気分が悪くなるけど、そこを越えれば3人の少女Aの誰が件の彼女なのかっていう展開は嫌いじゃなかった。
名前を明さないままの犯行の描写にも引き込まれたと思う。でも安定したまま進んで、そのまま終わってしまったような印象。
文章はすごく読み易かったのだけれど真相にもいまいち驚けなかった。

角川書店 / 2008.08.01.



今邑 彩

鋏の記憶 / ★★★★☆

何となく背表紙に惹かれて手に取って、見事当たりっ!
ミステリーは元々全くと言っていい程興味なかったけれど最近何だかご縁があるようで、楽しめてる。大分馴染んできた感じ。
人が殺されるのを題材に、っていうのが何か不謹慎に思えて苦手だったところもあったのだけど
すっかり、楽しめるようになってしまった…(苦笑)
オムニバス的短編集かと思ったら主人公は決まっていた。サイコメトリーは懐かしの映児(こんな字?)クンを思い出す。
人の幸福、不幸、と自分の関連についての、
いくら自分がきっかけになっていてもそれはその彼なり彼女なりが自分から不幸になったのだ、何ていう紫の思考は
どうしても私には冷たいというか、言い訳的に思えてしまうけれど、それ以外はとても純粋な娯楽的な本で読みやすかったし凄く楽しめた。
猫の恩返しは前半、猫が人間になる過程、人間が猫になる過程、を想像してしまいぞぞ…っ。そんな描写はなかったのだけど。みゃー;;

角川書店 / 2007.01.26.



今邑 彩

ブラディ・ローズ / ★★★★☆

装丁はどうにも品のない印象だけれど、中身は上品に進むミステリーだと思う。
その一方で、昼ドラ的なドロドロなのかしらとも思うけれど。嫌らしい感じは受けなかったし、面白かった。
ラスト間際、鬼の正体の件には白けたけれど最終的には、有りで落ち着いてくれたし。
キネンシス、ギガンティア、フェティダにはじまり薔薇がとにかくたくさん出て来て、
それだけで宝石箱をひっくり返したような豪華さ。素敵だった。
天使が迎えにきたと叫んで窓から翔んだ最初の妻の雪子がお人形のように語られて
香水壜がすきで中身は庭に捨てて壜だけを飾る趣味だとか、凄く、凄く綺麗。
薔薇園に、夢のような西洋館。ミステリーでありつつも少女趣味全開な描写。甘くてけどふいにぞっとするお話だった。

東京創元社 / 2007.04.21.



今邑 彩

よもつひらさか / ★★★☆☆

小説すばるのミステリー特集&ホラー特集で書かれた、全12編。
どの話もさっくり読めて且つ飲み込みやすい文章で、良かった。少しぞくっとするものからロマンチックできゅんなものまで。
穴二つはネットで女の子の振りをする男が滑稽で可愛い、とか思っていたら切ないラスト。
遠い窓は無垢な少女たるまり子の危うさと辿った道が痛ましい。
どれも、精神的にちょっと弱い所のある登場人物たちがそれ故に、ふわふわと危なくなって行く話。
その課程がさらりと描かれて、怖い、というよりは、はぅ…と溜息をつきたくなるような、ちいさくちくん、な短編集だった。

集英社 / 2007.09.30.



今村恭子

月族 / ★★★☆☆

デビュー作だからか、文章はちょっと稚拙。2.5寄りの星3つ。
生まれてこの方恋をしたことのない19歳の薬子さんの、言い寄ってくる殿方に対する対応が、ちょっと何か引っ掛かる。
どこが、って言える程はっきりとしたものじゃないのだけれど、例えば、
告白してきた人に、はじめてで付き合い方を知らない、教えてくれる?とさらりと言ってしまう所とか
ひょいひょいと軽いノリで2人でお酒を呑みに行ったり、踊ったりしている人のいる場所に行っちゃう所とか。
堅い子なのかと思えばそうでもなくて、でも理屈っぽくて、本当に不馴れなだけな人なんだなと思う。
そういったことが、苦手とかじゃなく。何となく拍子抜けする。
病気で家から出られない飛鳥が薬子に語る月族の昔話と現実の薬子の物語が順に語られる。
飛鳥が宣言通り薬子の夢に現われるシーンとか、薬子の両親の話は、幻想的ですき。
コインランドリーで深夜、洗濯機に腰掛けて、まるで映画のワンシーンのように気取って小説を読む、っていう日課も
絵になっていてすきだった。

海竜社 / 2008.08.26.



今村恭子

月族 月光の導き ルーンの物語 / ★★★☆☆

月族、の続編らしい。これのみでも楽しめたけれどやっぱりそっちも読んでみたいな。
まだ恋をしたことがない21歳の大学生な薬子の物語と
彼女が飛鳥に、北条さんに、語って貰った古代の月族の物語が交差しながら語られる。
恋をしたことがない、と言いながらも、多分すきだった、な飛鳥の存在に矛盾を感じつつも
砂漠の、ルーンの世界の話には引き込まれたし、それから、現代のコインランドリーのシーンがとてもすき。
薬子は落ち着いているから大学生ってことをつい度々忘れてしまったりした。
個人的には、謎のメールの送り主たるツクヨミノミコトのことがもっと知りたかったな。

海竜社 / 2008.05.15.



入間人間

僕の小規模な奇跡 / ★★★☆☆

元々はみーまーに興味があったのだけれど、近隣の図書館にはなかった為、同著者のこの本を手に取ってみた。
物語は二十年前、余命を宣告された上事件にばったり遭遇しちゃった二十歳の僕から始まるけれど
すぐに彼の行動の先にある、二十年後の全く別の人間たちの話へとシフトする。
大学に入学早々一目惚れをして告白をしてフラれ、でも諦めずに付き纏いストーカー対策として晴れて(?)付き合うことになった俺(兄)と
引き籠もりから抜け出して靴屋でバイトをするフリーターになってそこの常連のハンサム丸と出会った私(妹)の
それぞれの恋愛事情のお話。交互に語られて、最後には交錯する。小道具として、二十年前と繋がる大量の靴と絵画のおまけつき。
はじめは兄の、話の通じない、拒絶の通じない前向きさがあまりにも手強くて怖かった。
彼女を自分に置き換えて想像したら、泣きそう、とか思ったりした。酷いよ兄…!
同時に、彼女の巻舌や罵倒系の言動の何とも言えない若いノリ?が痛くて苦手だったりもしたのだけれど
読み進めるうちどちらも気にならなくなった。彼女が受け入れ始めたらそういうものとして馴染んだ。
妹の方も挫折とかある割に重苦しさがなくて、むしろ馬鹿っぽく明るいのが鬱陶しくなくて良かったと思う。
ただ、二十年前ネタの、必要だったかなあと感じるような本編との関わりの薄さとか
読み易いでも難いでもなく、盛り上がるでも淡々としているでもない雰囲気は、満足感とは無縁だったかも。
良くもなく悪くもない、と言う程個性がない訳でもないし、何だか極々消極的に不思議、な印象を受けた。

アスキー・メディアワークス / 2011.02.08.



入間人間

ぼっちーズ / ★★★☆☆

リア充VSぼっち(べつに闘ってはいない)的、ひとりぼっちたちのそれぞれの大学生活なお話。
友達ってなんだ、なんて言いながらそれぞれがひとりでどうにか学生生活を送る様が
ギリギリセーフのようなアウトのような微妙な雰囲気で描かれる。
登場人物がというよりは本自体の色のように、なんていうか多分ちょっと中二。眩しいかもしれないような、やっぱり痛いような。
ただ全開すぎることはなかったから、読んでいてそこまでの抵抗にはならなかった。
でも最後の、友達のいる、ぼっちじゃないぼく(けど途中、気付いていないだけのような気もした…微妙すぎる)のエピソードは
これまでの登場人物が一気に出て来て、なのに把握は出来ないし、もやもや曖昧なまま惰性で終わってしまったかのような雰囲気で
これまでの集大成としてのカタルシスが感じられなくて、つらかった。物語の終着点がいまいち見えなかった。
現代っ子の、独特の若い本のように感じた。こういうのはきっと私より後の時代の子たちのものだ。

アスキー・メディアワークス / 2011.07.20.



うえお久光

シフト―世界はクリアを待っている― / ★★★★☆

星3つとちょっぴり迷ったけれど、4つつけちゃえ!
RPGな世界でレベルとか装備とかから始まった時は、そういう軽さには抵抗がある為大丈夫かなと思ったりしたのだけれど
現実サイドの話が絡んで来て、眠っている間に否応なくRPGな世界にシフトしてしまう、っていう土台が出て来たところでほっとした。
向こうでいくら大人ぶっていても、そこにいる人間たちの中身は中高生である。
そして、現実世界のみんなが向こうへ行ける訳ではない(多分)。
文章的にも考え的にも青臭くて頭を抱えたくなるような部分が結構あった。
だけどRPG世界に怪物系として生まれてしまった主人公のラケルの情けなさは正に少年って感じでひたすら可愛いし
でも一筋縄ではいかない部分を持っているところとかも、存在を上手く引き締めていると思う。
現実世界での、やたらちょっかいをかけてくる鷹生との等身大なやり取りもとても和んですきだ。
もう1人の主人公であるセラは、読み進めるごとにあんまり…って感じだったのがちょっとつらかった。
ロックに説教するところが決定打だった。
ロックのエピソードは妙に書き込んでいて、でも生々しい筈なのにあんまりそういう感じじゃなくて
私としては嬉しいんだけどこれはどうなんだろうと思ったりもした。わざと…?
ウィンディの真意はない方が良かったなと思いつつ
とにかく純粋無垢なシェヘラザが、なのに全く厭味がなくて且つ透き通っていて魅力的で凄く好感が持てて良かった。
締めが彼女だったのはさながら浄化されたみたいになって、良い読後感だった。

メディアワークス / 2009.01.23.



うえお久光

シフト―世界はクリアを待っている―U / ★★★☆☆

Tの続編、完結編、の筈なのだけれどいまいち続きっぽくない、終わりっぽくない、話だった。
主人公は同じだし、前巻からの登場人物もいるのだけれど前巻からの物語はどこか置いてきぼりで
ラストもいまいちよくわからないものだった。
無心で読めたのは面白かったからだと思うのだけれど終盤でこのまま終わっちゃうの?って思い始めて
実際そのまま終わってしまってちょっぴりぽかんとしてしまったというか。
曰く、魔王の話。倒されることが決まっていた怪物の話。
現実世界の水泳対決への展開は意外だった。新キャラの空が不器用で可愛くて魅力的だった。
シフトした世界と現実を同じと考えて暴走するラケルこと祐樹にも引き付けられたけれど
やっぱり、何だか、繋がってそうで繋がり切っていない前巻との関わりが淋しかった。

メディアワークス / 2009.02.28.



上橋菜穂子

獣の奏者 T闘蛇編 / ★★★☆☆

厚めの本だけれど字は大きめだし文章も易しくて児童文学みたいに読みやすかった。
その上で、引き込む力はなかなかなストーリー展開が心地好い。
でも三人称の形を取りつつもエリンの目線で大人を見下すような書き方は、何ていうか、気分が悪くなった。
エリンの心情だとわかりつつも、それを前面に押し出しすぎな気がする。
エリンは凄い子なのよ、って雰囲気に溢れてるもんだから余計にそっぽ向きたくなる。
ただ、自分を助ける為でも、一瞬指笛を吹くのをためらった母に対する微かな不信、淋しさ、の描写等々はっとするものも多かったから
次巻も、読みたいと思わせるには充分だった。

講談社 / 2007.07.17.



上橋菜穂子

獣の奏者 U王獣編 / ★★★★☆

Tに続き凄まじいまでの引力。とても読みやすい理由は、文章が易しいから、だけではない筈。
でも、どうしても細かい部分がちくちくと小骨でも刺さったように気になるのも、Tと変わらなかった。
例えば、基本的に上から目線なエリンだとか。そのせいでいくら丁寧に話していてもいやらしく感じてしまったりとか。
敬語が遜りすぎている印象。違和感を覚えた。でもそれでも、次から次へと続く展開に引き込まれたのも事実だ。
リランにはじめて牙を剥かれるエリンに、人はそうやって痛い目に遭わないとわからないのかなと思った。
ラストは、嬉しい前にそれじゃ何も解決しないんじゃないかって
作中で、セィミヤの誓いの頼りなさなんてのにもエリンは気付いているのに、…いいのかなあ。ちょっと消化不良。
ストーリーの持つ勢いみたいなものは凄くすき。だからこそ、目立つ粗が残念だった。

講談社 / 2007.08.12.



上橋菜穂子

精霊の守り人 / ★★★☆☆

あちらの世界<ナユグ>から、こちらの世界<サグ>を見守る精霊は百年に一度、こちらの人に宿って誕生する。
いつの間にかニュンガ・ロ・イム=<水の守り手>に宿られてしまった皇子チャグムと用心棒バルサの旅のお話。
バルサと腐れ縁なタンダやおばあちゃん呪術師トロガイ、チャグム暗殺を企てたモンたちやらを交えて
不思議な名前から来る独特な雰囲気でもって物語は進む。
児童文学なのに主人公のバルサは今年30歳で、それが何だかとても新鮮だった。
でも更に、短槍使いのバルサ、であることもあって、つまり、強い。最初からとても。頭だって回る。甘くない。裏も読む。
…私には、付け入る隙のない、感情移入のしにくいキャラとして映ってしまった。だから、可愛くないな、が第一印象だった。
読み進めるうちチャグムとの交流やらタンダとのやり取りやらで大分柔らかくはなるのだけれど
基本的に短気で品のないバルサやトロガイには、少し辟易。
世界観は面白い。でもどうしても、説教臭い。バルサのラスト辺りの「ひとあばれしてやろうか?」はとてもすきだと思った。

偕成社 / 2007.10.26.



上村 佑

守護天使 / ★★★☆☆

第2回日本ラブストーリー大賞受賞作。これはラブストーリーなのか?と言われつつも満場一致で大賞だったらしい。
50歳の太った冴えない中年男が電車で見掛けた女子高生の守護天使となることを決意して、
変質者に誘拐されてしまった彼女をストーカーに間違われながらも助けようと奮闘する物語。
選考委員の講評にもある下心のない無償の愛、が正にで、それが全く胡散臭くなくて
この設定でありながら主人公に気持ち悪さが微塵もないのがとても素敵だった。
特にモデルを頑張るシーンがコミカルですきだった。嫌悪感どころか可愛くすら思えて来る不思議。
終盤で読むのを一旦中断して少し日をあけてしまったことを後悔している。
文章が至極シンプルで、一文一文が短いから勢いをつけて流れを背負って読まないと引き込まれる前にあっさり終わってしまう。
なるべく一気に読むべきだった。勿体なかった。

宝島社 / 2011.02.24.



魚住陽子

動く箱 / ★★☆☆☆

小さな箱のような空間を舞台にした4作の短編。
動く箱はエレベーターを、雨の箱はPCの中の水槽を、流れる家は田舎の別荘を、敦子の二時間は住み慣れた家を。
…どれもよくわからなかった。文章自体は難しくないのに、内容が掴めなくて。
ただ、どれほど待っていても、帰って来てしまえば
一人の男が傍らにいるという意識は速やかに消滅してしまうと言う待ち惚けが常な主婦とか
妙にストンて来る文章がぽつんとふいに現れたりして、そこは興味深かった。

新潮社 / 2007.11.27.



サラ・ウォーターズ

荊の城 上 / ★★★★★

百合ものの古典で、名作、ってイメージ。名作を名作として読めることは滅多にないから嬉しかった。
とはいっても実際はさして古くもない、そこそこ最近に出た本のようでイメージって不思議だ。
洋館の少女の元へやって来る少女、なのに美化もファンタジーも基本なくて
埃も男も生々しさもあって、でも根っこが綺麗で、けど綺麗じゃなくて、素敵だった。
舞台は19世紀半ばのロンドン。これも美化されずに鼻をかんだらハンカチが黒くなるような世界。
下町でスリを生業としていた17歳のスウは、顔見知りの詐欺師の計画に乗って
彼が令嬢を誑かして結婚して財産をそっくり奪う片棒を担ぐことにする。その為に彼女が侍女として仕えることになった、モードとの物語。
一章は駆け足って印象はなかったものの全体の割合として展開が早すぎる気がしていたけれど、
だからってああいうラストは予想もしていなかったから、かなり驚いた。同時に、そこで一気に引き込まれた。
先が見えなくて、それまでもいい感じではあったけれど、決定打だった。
考えてみれば展開としてはそんな驚くようなものじゃないのかもしれないけれど
百合系って以外前情報が全くなかった為(だからこそか)半端ない驚きだった。
この巻のラストも凄くすき。いちいち締め方が素敵で掴まれる。
昔風な作風の中の、純粋仕立てなお嬢様に嫌味がないことが新鮮で
わざとらしくない惹かれ合う少女2人の自然さ(こうやって書いていても違和感なくらい)とか
へんな媚びも過剰なキラキラさもない空気がとても良かった。
モードは怖がっていると言ったスウに対する紳士の返答が自分本位な男っぷり全開で辟易したりもしたけれど
(現代でもそういうところはあるだろうけれど、昔の女の人は本当半端なく不憫で同情する。理不尽すぎる)
それとか、怒鳴るのが怖すぎる伯父とかが、逆にスウとモードに説得力を持たせていたとも思う。だから良しとする。
直球だったりもするのに最終的に嫌悪に傾きすぎない描写が絶妙だった。

創元推理文庫 / 2009.11.10.



サラ・ウォーターズ

荊の城 下 / ★★★★☆

騙されて気狂い病院に入れられた少女の日々とそこからの脱出、それから再会と事件。
訳者のあとがきにあるように本当に19世紀に書かれたようなリアルで生活感の溢れる描写が凄い。
てっきりそれくらいの昔に書かれた物語だと思い込んでいたくらい。
ロンドンの下町の不潔さも、きっと当たり前の習慣も実際に味わったみたいにストレートに飛び込んで来る。
真相の更なる真相の連続は、連続すぎて下巻では逆に新鮮味が薄れてしまったけれど
城の外を全く知らなかったモードが頼る人がいない中彷徨う様子は胸に迫ったし
惹かれ合っているのにどうしようもなく裏切り合って、擦れ違い続けるスウとモードのつらさも、物語にとても引き込んだ。
理不尽な環境の中でそれぞれ無力だけれど闘う2人に、それに陶酔した感じが見えなかったのもとても良かった。
人とは違うけれど逞しく仕事を見つけたモードが頼もしくてすきだ。
世間が何と言っても、貴婦人の仕事じゃなくても構わないじゃないかって笑ってやりたい感じ。
光の見える、開けた終わり方がちょっぴり意外というか新鮮というかで、嬉しくなった。

創元推理文庫 / 2009.11.12.



P・G・ウッドハウス

ジーヴズの事件簿 / ★★★☆☆

情けないお坊ちゃん的な若主人バーティと
彼の危機を救ったり単に自分にいいように持っていったりに冴えた頭脳を発揮する従僕ジーヴズの活躍を書く選集T。
有能執事のジーヴズと彼に頭の上がらないバーティのやり取りはひたすら微笑ましくて、いい意味で滑稽だったりもして、和んだ。
ただ、どのエピソードも面白かったのだけれど今の私に余裕があまりないこともあってか、最初の2・3話で充分、という感じがした。
次から次へと気になるタイプの物語じゃないから時間が有り余っているくらいの時に優雅に読みたい本だと思った。

文藝春秋 / 2008.11.22.



海月ルイ

十四番目の月 / ★★★☆☆

久しぶりに、背表紙に呼ばれた気がした。とても読みやすいミステリーだった。
最初は娘の美有を誘拐された樹奈を主人公に、途中群像劇のようになりつつ
最後は事件の側に偶々いたピアニストの奈津子が謎を解明する。
謎は、まあ、種が解れば大したことなかったけれど…。関西弁が柔らかく色を添えていた。
鍵になった音楽用語が私の全く知らないもので、ちょっとショック。
楽譜を読める人間なら誰でも知っている、って、けど保育士の免許なら、知らなくても取れる、とか。
…私のレベルって、本当…ここまで下だとは。あう。
忘れっぽいのは、罪だ。でもそれは自分じゃ本当にどうしようもないのじゃないか。とか。
奈津子が怒った保育士は確かに良くないけれど、伝えなかった保育士の方がもっと責任があるのじゃないか。とか。
…その保育士も樹奈と同じなら話は別だけれど。
ずれまくった樹奈には何度も呆れた。でも、殺さなかったからといって、美有は結局壊れそうじゃないかと犯人に言いたい。
…けど結局、いけないのは、樹奈か、とか。色々、ごちゃごちゃ。でもラストとかすっきりしていて、良かった、かな。

文藝春秋 / 2007.09.22.



江國香織

スイートリトルライズ / ★★★☆☆

3分の2くらいは一気に読んでしまって、とても引力のある話だと思った。
残りの3分の1は時間が空いたからかちょっと入り込むのに苦労して、結果的に星3つ。
テディベア作家の奥様とその旦那様の閉じ切った家。執着と、妙に冷めた所との同居が不思議ですきだった。
2人それぞれの浮気をそれぞれの目線で交互に書いて、2人はお互い相手の浮気には気付かない。
浮気が、夫婦が夫婦である為に必要なことのように思えて不思議だった。愛はむしろちゃんと家庭の方にあるように思えて。
浮気相手からしたら勝手な話だけれど。正しくきちんと清算したら振り出しに戻ってしまったみたい。
どうしようもなくても瑠璃子はすきだな。逆に後半の驕った聡はきらい。浮気、の題材に嫌悪を感じさせないのは凄いと思った。

幻冬舎 / 2008.04.28.



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