佐川光晴

金色のゆりかご / ★★★☆☆

研修医の青年と、18歳で望まない妊娠をした女子高生と、実際にある海外養子斡旋問題の話。
お腹から出てももうひとりで生きていけるまで成長した赤ちゃんの違法な堕胎とか気分が悪くなるような現状に触れつつも
作品全体の嫌悪感はとても抑えられていたように思う。
でも避妊は絶対じゃないと言いながらも終盤で出て来た馬鹿な女子高生には避妊しろよと内心で思う啓介には
まりあについての話ではそういう部分には一切触れないで、ひたすら男の方の罪ばかりで
いつも傷付くのは女性だというスタンスだった癖にと釈然としなかった。
惚れた弱みってやつなのだろうか。フェアじゃない。いくらしっかりして見えても結果は変わらないのに。
確かに男は無責任かもしれないけれど、後々自分が困ったりすることがわかっていて応じる女の方がずっと馬鹿だと思う。
女の側は出来てしまえば逃げられる筈がないのに。それが日本的ってことなのかもしれないけれど、同情は難しかった。
養子斡旋の杜撰な実態は酷くても、自分で手放すと決めておいて撤回したのに
戻って来ないということを奪われたと表現して問題提起する姿勢にも何だかもやもやした。
医者としての啓介とか、陣痛は痛い方がいいと望むまりあとか
おばあちゃんの空襲の話とか、助産婦さんのお産の話なんかは興味深く読めた。
たまに視点の把握が難しくなることはあったけれど読み易くて引力のある文体だったし
育てられない癖に作る若者、には引っ掛かってしまったけれど
それは実際そういう現実があるのだし、本自体への反発にはならなかった。

光文社 / 2010.03.16.



桜井亜美

14 fourteen / ★★★★☆

実際の事件に着想を得て、作者が想像で創作したフィクション、らしい。中の日記はノンフィクション?
私は実際の事件、を知らないけれど、前半のカズキの想像力には素直に感心した。
後半は、どうしたって痛々しくなっていくけれど、昔にもこんな事件あったんだって感じだけれど
結局、母親が悪かったと言い切ってくれているの?それともカズキが弱かったのがいけないの?
本編は星4つ。あとがきは大嫌い。

幻冬舎 / 2006.11.09.



桜庭一樹

赤朽葉家の伝説 / ★★★☆☆

山の人に置き忘れられた子供の最後の神話の時代の話、その娘の不良少女の話、
それからそのまた娘が虚ろな現代で祖母の最後の言葉から真実を探る話。
高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、ということで、最初は文章そのものまで堅くて難しかった。
でも読み進めるうち馴染んでいって、最後には平成の物語が物足りなく感じる程。
教科書に出て来るような世界の動きが、そこに生きている人を通すことで
途端に事実として、現実として、目の前に自然に現われて、そこがとても興味深かった。
最初の万葉の物語は何だか奇怪な描写も多くて不思議な雰囲気が魅力的。続く毛毬の物語はいちばん鮮やかに感じられてすきだった。
丙午の女の強さが格好良い。
ラストの瞳子は最初はあまりにいきなり馴染みのある普通の世の中になってしまって、残念に感じたけれど
万葉の最後の言葉の真実がしっかりと手繰り寄せられてからは引き込まれた。
泪のきっと恋人だった三城さんの描写がすきだ。多くは語らずに、だけど少ないエピソードから発せられる想いの激しさが強くて良かった。

東京創元社 / 2008.10.01.



桜庭一樹

製鉄天使 / ★★★☆☆

赤朽葉家の伝説の番外編のような、レディースの赤緑豆小豆の話。
小学6年生で運命が変わり、高校2年生まで走り続けて初代総長をやって中国地方を制覇した。
小豆の名前もお話の中身も最初は取っ付き辛く感じたけれど、すぐに度々入る妙に微笑ましいやり取りに掴まれた。
イチにーさんが小豆に大人の世界を見せないようにあたふたするところとかぱらりらを口で言うところとか、
ラブレターだって何度も言わされるタケルとかお迎えに行ってわざと濁声で言うスーミーレーちゃーん!とか。凄まじく可愛い。
仲間を製鉄天使の名前に因んで天使チャンとか呼ぶところもこっ恥ずかしくてすき。
小豆は鉄を支配して自在に操る。
故に、バイクは勝手に動くわ武器は変形するわのファンタジーさがしれっとあったりしつつ
一瞬で敵に文字を彫る様が出て来る度、ああ族なんだ、凄まじいってゾッとした。
小豆の普段のちょっと阿呆でお間抜けな雰囲気と
乱暴さと裏腹に考え方は物凄く純情っぽい(硬派、というらしい)ところが面白かった。族ってそういうものなのかな。
強くておバカな小豆とセイコちゃんカットの頭脳派なスミレのべったり甘ったるいコンビがすきだった。
ベタだけど魅力的。やたらスミレの名前を呼んで泣くところとか締め付けられる。
スミレの退場があまりにあっさりで肩透かしを食らったり、エピローグが潔くなく感じたのが少し残念。
ラストのあの明るさはむしろすきなのだけれど、
自分の意思と関係なく大人になっていく様が胸に迫っただけに何となく釈然としないものがあった。

東京創元社 / 2010.05.27.



桜庭一樹

赤×ピンク / ★★★★☆

廃校になった小学校で夜毎こっそり繰り広げられているキャットファイト、女の子の格闘。
アルバイトとしてそこで闘う檻に繋れた見せ物の彼女たちと彼女たちを観賞する男、たまに女。
歪な中の硝子の欠片みたいな美しさが綺麗。
まゆ十四歳、は本当は二十一歳。生命力、が弱くて、自覚なしに周りの庇護欲を誘う。
ミーコ女王様、は十九歳。SMクラブでバイトもしている。でもなんちゃって。
皐月は空手少女で十九歳。ボーイッシュ(…?)でカッコイイ子だけれどちとへたれ。
少女同士の繋がりの話。危うくて危険な香りと間抜けで普通すぎる会話のギャップが鮮やかだった。
思わず笑っちゃうような突っ込みとかやり取りもちらほら出て来て飲み込み易い文章と相俟ってとても取っ付き易い。
さらっと読めて、でも濃い。冒頭のじゃれるまゆとミーコと、慌てる皐月のシーンが可愛くてすきだった。
ガールズブラッドでは散々闘っててもそれが終わってしまえば仲良しなのにほっとした。
まゆとミーコは、弱々しい十四歳と押せ押せの女王様だから、特に。
2話目のミーコの話がいちばんすき。
ひたすら期待にそって生きてきて、でもそこに変な無理とか歪さはなくて、ただちょっと虚ろで、
ずっと一緒だった人が抜けてしまったことに物凄く動揺して。女王様とかしてるのに、何だかとても等身大に少女、で。
3話目ラストでひっさらっていった武史のNO〜〜〜!?も可愛くていい締めだった。

角川文庫 / 2008.09.19.



桜庭一樹

荒野 / ★★★☆☆

山野内荒野の、十二歳で中学に入学した日から十六歳の誕生日までの自分の中の女に出会うまで、の記録。
恋愛がわからない日々から、でもそれを知って大人になる、じゃないのが良かった。
ボーイフレンドが出来てからも、ふいにいやだいやだと駄々を捏ねたりする様子に、安心した。
ずっと一緒だった家政婦さんがいなくなって、代わりに義母と同い年の男の子が家族になって、荒野の生活は中々に変わる。
それまでの生活の匂いを全部消しちゃうみたいに色んなものを捨てていく蓉子さんが凄く嫌で、反発する荒野に物凄く入り込んだ。
シンプルな奈々子さんがすごくすごくすきだったから、電話のシーンでは荒野に入り込んだ私が泣きわめいた。
でも荒野は、息苦しく感じても蓉子さんを嫌いとはならなくて、ちゃんと向き合っていて
荒野が距離を置いたりしないから蓉子さんも作中で段々と馴染んでいく。
そのうち私もちゃんと嫌いじゃない、になれていた。そういうさり気なく優しい雰囲気、がすきだ。
愛人がいっぱいいる恋愛小説家のパパにはそんななのに嫌悪はあまり感じなくて、
ぼーっとして、蜉蝣みたいで、きざで、センスが独特で、表面にはそんなに出ないけれど荒野を大事にしていて存在がそれを語っていて
でも基本、執着のない風なのがシンプルで、すき。逆にパパの周りの女の人たちは粘着質で、必死で、懸命なのに、こわい。
奈々子さんがそのひとりだって事実は荒野同様凄く衝撃的で、ショックで、でもやっぱりすきだ、で落ち着いた。
荒野に対する奈々子さんは本当にやさしかったから。
女の話で、綺麗だけじゃない恋の話で、だけど読後感は悪くなかった。ただ、阿木くんのエピソードだけはやっぱり苦手かもしれない。
変に気持ち悪さが残ったりはしていないけれど、荒野より阿木くんがわるい、と思ってしまった。
子供で無神経、なのやもしれないけれど。難しい。そういうことじゃないとわかりつつも、拒否権はないの?と思ってしまう。
鎌倉を舞台に、着物を着たりする描写が凄く可憐で素敵だった。
江里華のカミングアウトと告白を立ち聞きして、全く悪びれなくて、
でも友達は選びなさいみたいなことも全く言わずに受け入れる蓉子さんが、憎めなくていいな。

文藝春秋 / 2008.10.03.



桜庭一樹

GOSICK / ★★★☆☆

1924年、ヨーロッパの小国に極東の島国から留学して来た久城一弥が
学園の図書館塔で出会ったヴィクトリカの助手的立場で難事件解決に立ち会う物語。
キュートでダークなミステリ・シリーズ、第1巻である。
老人のようなしわがれた低い声のヴィクトリカはそれとは裏腹に陶人形のような可愛らしい女の子。
貴族特有の鼻持ちならない態度、を取ったり皮肉屋で可愛くなかったりするものの
それにいちいちムキー!となる一弥とのコンビ含め、基本微笑ましい感じ。
この巻だけでも綺麗に完結しているけれど、解説によると次第にヴィクトリカのお母さんの謎なんかも明らかになって来るとのことで
続きも読みたい、図書館に早く入らないかなあ、と期待している。今はまだなくて残念。
今回は、幽霊船QueenBerry号の怪の話。
罠だらけの危険な船、無線室には中々辿り着けない。過去には子供たちが殺し合いをさせられた。
実は既に漫画版を2巻まで読んでしまっていたのだけれど
このエピソードは後回しにされていて導入部しか知らなかったから純粋に楽しめて良かった。
冒頭のロクサーヌさんの真相は知っていたせいでかなり淡々と読んでしまって
ガックリ来ていたから、メインとして知らない話がしっかりあったのが凄く嬉しかった。しかも地味に怖かった。面白かった。
舞台となっているソヴュール国は架空の国らしいけれど
ヨーロッパの小国って描写が凄く自然で読みながら実在するのかと疑ってしまった。
基本は軽い雰囲気の物語なのだけれど細かいところが妙にリアルというかしっかりしていて
どっしりした奥行きを感じられたのが、良かった。

角川文庫 / 2010.06.29.



桜庭一樹

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない / ★★★★☆

痛々しくて無垢で、綺麗で、残酷な本。
ラスト前までは久々5つ星やもと思ったりもしていたのだけれど、締めがいまいちだった為、星4つに。でも凄くすきな本。
冒頭で明らかになっている事実が、読み進めれば読み進める程痛いくらい愛しくなる海野藻屑って存在が、
哀しくて、後半、何かが殺されていく度、追い込まれていって、つらくて眉間に皺が寄りながらも読み進める手が止まらなかった。
雅愛が、苦手。でも担任が、もっと苦手。 来るなって叫ぶ山田なぎさに共鳴。…歪んでるけど。
私は多分痛いから苦手で、 だけどもうちょっとやり様がないのか、って。
せんせい、ってどうしてあんなに強いのかな。 縮こまるのは私が間違っているから、…なのかな。
現実主義のなぎさと虚言症持ちの藻屑の絆が切実で純粋で綺麗で痛々しい。
自分は本当は人魚だって言い張って物凄くずれたやり方でなぎさを一生懸命励ます藻屑とか、
花名島の残虐さも、ぜんぶ丸ごと引っ括めて、原石で必死な13歳、を見てきゅぅってなってしまうのは
…私も大人の一員のようになって来てしまった、って事なのかなぁ…
何故か、すきだと感じることがその証明のような気がしてしまった。少年少女向けの文庫で元々出た本らしいのに、おかしいなぁ。

富士見書房 / 2008.03.14.



桜庭一樹

少女七竃と七人の可愛そうな大人 / ★★★☆☆

難しかった。困ったおかあさんと、その娘、父親の違う兄妹(姉弟?)。
おかあさんもそのおかあさんとの間にシガラミがあって、後半では別の人が、女の人生は母をゆるす、ゆるさないの長い旅だと断言する。
ラストまで読み終えると、雪風を通してはいても、ひたすらおかあさんと娘がテーマだったのだなと思う。
冒頭は優奈のあまりの開けっ広げさに引きつるけれど、語り手が娘の七竈にバトンタッチされると一旦は落ち着く。
その後七竈が喋り出すとその口調に今度はもやもやする。丁寧、なのかもと思いつつもやっぱりどこかふてぶてしい。
雪風との決まり切った会話は必死さと歪さが鮮やか。ビショップ目線の文章はむくむくも犬だと思いかけて一瞬ゾッとした。
単体ではなく美しい2人がすきなのだと気付いてからのみすずは危なっかしいけど可愛らしい。
七竈は、真っ赤な実をつけて誘うのにかたくて、とても食べられなくて、冬には雪が降り積もって赤と白でただいつまでも美しい。
…わたしはそのまま朽ちる、そっちが、すきだなと思った。

角川書店 / 2008.05.10.



桜庭一樹

少女には向かない職業 / ★★★☆☆

大西 葵は中学2年生の1年間で人を2人殺した。近くにいたのはゴシックロリータの宮乃下静香、やっぱり殺人者。
学校ではお調子者な葵の、田中颯太への微妙な心情描写は可愛くてでも切実。ベタな日常も悪くない。まぬけな描写はとてもすき。
学校では大人しくて目立たない図書委員の静香の怖さ、が鮮やかだった。
ラストもとても鮮やか。潔い。呆気ないけど綺麗でいちばん良い形だと思った。

東京創元社 / 2008.05.19.



桜庭一樹

推定少女 / ★★★☆☆

名前から、当然のように男性作家さんだと思っていた。にしてはやたら少女趣味な色があるよなと思いつつ。
…著者さん、女性作家さんて!うわ、ビックリだ。
あんまりがんばらずに、生きてきたいなぁなんて呟いちゃうぼくっ娘な15歳の巣籠カナが、家族とのトラブルから家出して
比喩でなく凍ったような女の子を見つけて、2人、逃げ出す。銃持って、東京行って、きゃいきゃいしたり、ぐるぐりしたりしながら。
シチュエーションはとてもすきだ。
大人なんて、子供は、な理論は少し鼻についたけれど。カナも作中で違和感覚えているけれど、難しいなと思う、ああいうのは。
いつの間にか洗脳されてるのかな、なんて青いこと思っちゃう。
中学生女子の微妙な心情とか精神の繋がりを重視するなら、エピローグでの千晴の存在は余計だと感じた。
白雪との繋がりを重視したい私は、多分この辺、子供?

ファミ通文庫 / 2008.04.06.



桜庭一樹

青年のための読書クラブ / ★★★☆☆

青年、とはあるけれど少女たちの物語。
ただ、少女、とは言っても七竈や荒野タイプの文章なので甘くはなく
古い、赤煉瓦ビルの赤黒いドアの部室が似合う雰囲気に溢れている。
伝統ある女子校、聖マリアナ学園の読書クラブのそれぞれの年代のぼくっ子が記して来た
読書クラブ誌、という形で語られるその年の記録。
とは言っても毎回章の終盤まで書き手の存在は全く見えないから、単純に読み物としてストーリーに集中出来る。
古いものは一九六九年度、新しいものは二〇一九年度のものである。
最初は昔の話だからかなと感じていたけれど、二〇一九年度のもの以外はずっと独特だった。口調も、ぼく、な一人称も。
ブーゲンビリアの君の騒動を書いた二〇一九年度のものだけは自分のことをわたしという人物も出て来て
それまでと温度差を感じない程度に、現代の読み手に近くなっていたと思う。
全体を通した独特の空気感で以て、一瞬にしてフィールドに持って行ってしまうのがやっぱり凄いなあと思った。

新潮社 / 2008.12.26.



桜庭一樹

ファミリーポートレイト / ★★★★☆

2人切りのコマコとマコの物語。コマコはマコのちいさな神。マコはコマコの神。
第一部は私の男の母娘版のようで、第二部で別離後大人になっていくコマコのその後まで語られたことでぐっと別物に昇華したと感じた。
5歳から14歳までの第一部は喋らないコマコがひたすらにママを守る、ママを愛す、わざとらしくないわざとらしさがすき。
相変わらず私はママは虐待もしているのにそこに入り込めない。
それに反発しないコマコに当たり前にくっついて、歪みを歪みと受け取り切れない。
第二部は17歳から34歳までのあちこちを彷徨い歩くコマコの日々。
薄汚れた高校の当たり前に荒んだ時代は、間抜けで汚らわしい男子たちに反発して姫林檎な女の子たちに安心した。
べたべた甘ったるいのがすきな訳じゃないけれど男子に比べたらずっと綺麗じゃないかという錯覚。
19歳で、文壇バーでバイトをする中、お遊びの一環で物語を語るようになってそこから作家へ。
加害者の可能性にぶち当たって逃げ出して、転がり込んで来た霞を受け入れるようになって、編集者に見つかってまた作家へ。
1ヶ所に留まらない日々の中で作家だけ固定されているのがちょっぴり気になった。
そういう話だったのか、って。でもそういう中で出会ったラストの再会がすき。
日常が淡々と語られるから第二部でふいに出て来る助けてよの独白にその度ハッとした。
当たり前に過ごしているのにマコがずっとずっとしこりみたいになっていて
そうなって当たり前なのに、コマコにとってマコの存在はひたすら当たり前だったからそこに同化して歪みを忘れちゃう。
生々しい描写が生々しくなくて、でも生々しいものとして描かれていて、だから安心して読める、桜庭さんの持ち味って本当に不思議。
改めてすきだなあと感じた。

講談社 / 2009.08.13.



桜庭一樹

ブルースカイ / ★★★☆☆

西暦1627年、魔女狩りの嵐のドイツを舞台に、10歳のマリーを語り手に翻訳物のような世界を繰り広げたと思ったら
第二部では西暦2022年、少女の絶滅した中、少女のような青年ディッキーを語り手にサイバーな世界を繰り広げ
更に第三部、全ての世界でキィのように現われた、西暦2007年の普通の女子高生青井ソラに語り手を原点に還るように戻して、
物凄くあっさりと、物凄く冷たく甘えなんか微塵も許さずに、幕を閉じる。潔すぎて何だか泣けそうだよ桜庭さん。
あまりに場違いなあゆの歌の登場に驚いたり、笑ったり。桜庭さん作品の、こういう、どうしようもなくナチュラルな所ってすきだ。
システムがあまりにも無機質すぎて怖くて、容赦のなさすぎるラストが痛くて、第一部のセピアな色が新鮮で、いちばんすきだった。

ハヤカワ文庫 / 2008.06.08.



桜庭一樹

私の男 / ★★★☆☆

第138回直木賞受賞作。
生々しいタイトルと表紙の、父と娘の話、ってことで、桜庭さん作品じゃなかったら読んだとしてももっと遅かっただろうなと思う。
賞を取ったっていうと硬そうだけれど、シンプルで易しいタイプの文章だったからスラスラと読めた。
独特さ溢れる方よりラノベ系の方寄りの書かれ方でちょっと意外。
テーマの割に生々しさは抑え目で、たまにそういう方向へいっても嫌悪感は薄かった。
お父さん、って存在をリアルに想像しちゃうと
私は父親が凄く苦手なこともあって多分微笑ましい筈のシーンでもかなりきつかったりしたけれど
それを上手くオフにすれば、淳悟と花の閉じ籠った歪みは
正しさを振り翳しておかしいと声高に叫んだ親父さんとかよりもずっと美しく儚く見えた。
だからこそ、花が、自分は被害者、みたいなことをふいに漏らしたシーンは悲しかった。
言葉にしてぶつけた訳でも強く思った訳でもなく当たり前に語られたことがかえって淋しい。
それが真実なのだとしても、若い淳悟とちいさな花の第6章は特に微笑ましくて凄くすきだったから、余計に
先に語られたそれが小骨みたいに刺さった。
でも微笑ましいと感じちゃまずいのかな。慣れない淳悟の優しさが可愛くてすきだったけれど…。
お話に着地点がないのがちょっぴり困った。でも別れて正しくして完とかは嫌すぎるしこれで良かったのかな。

文藝春秋 / 2009.02.16.



佐藤多佳子

ごきげんな裏階段 / ★★★☆☆

みつばコーポラスの子供と裏階段に棲む奇妙な妖怪のちいさな交流。妖怪、とはいってもみんなメルヘンで可愛い。
タマネギねこ、はタマネギを食べて頭がタマネギになってしまった茶トラの子猫と学少年の話。
ノラがお家で好き勝手する様子が微笑ましくてすき。
タマネギらしくマスカット・グリーンになった目もマスカットって付く辺り綺麗。うぬぼれやですましやな女の子、っぷりも可愛かった。
タマネギだから段々ちぢむ辺りはシクシク痛んだ。その先は、…小さいって恐怖だ。
ラッキー・メロディー、は背中に笛を背負ったクモとリコーダーのへたくそな一樹少年の話。
おっかないアリババ先生と一樹の関係がクモ退治とか相合傘とか、可愛くて良い。
児童書の、音を独特のひらがなとかで表す表現って面白いなと思う。この話ではクモが笛をひーりん、って吹く。
終盤も前向きで良い読後感だった。
他2つの終わり方も悪い訳じゃないけれど良いと言うのも微妙なラストだったから、尚更爽やかさが際立っていた。
モクーのひっこし、は悪戯っ子なナナと煙を食べる見た目も煙なおばけのモクーの話。
怒られても懲りないナナがとても魅力的。何て健康的なんだろう。
再会したモクーの違和感が半端なくてゾッとした。芸には大人って、って悲しくなった。でもいちばんすき。
どのエピソードも、児童書調のやさしい文章の明るいお話っぽいのに微かにチクッと来る要素が入っていて
だけどそれらをあまり主張しないところがすきだった。

メルヘン共和国 / 2009.05.10.



佐藤多佳子

四季のピアニストたち・上 サマータイム / ★★★★☆

片腕を無くした、ピアニストの息子でピアノのすきな広一と、彼と友達になった進と、その姉の佳奈の物語。
易しくて優しい児童文学調の文章と雰囲気で、でも大人でもしっかり楽しめるというか
世界に埋没してしまいそうなナチュラルで芯の通った様がとてもすきだった。
表題作は進の一人称で展開する、六年前、小学五年生だった進の物語。
母親の再婚に対する広一の接し方と本心が良かった。
そういうシチュエーションに対して私は若干過敏だけれどこれは凄く自然に過剰じゃなく本当な気がした。
…まあ、単に共感出来た、みたいなものだとしても。
五月の道しるべ、は小学校に入りたての佳奈とピアノとつつじのお話。
残酷でもあるけれどだからこそひたすら鮮やかで濃い、つつじの道とそのラストがとても鮮明ですきだった。

MOE出版 / 2009.07.02.



佐藤多佳子

四季のピアニストたち・下 九月の雨 / ★★★☆☆

表題作は16歳の秋の広一の物語。
母親の恋人に反発する広一に共感する一方で
歴代の恋人が死んだ父さんに似ていると気付いている広一を通して父さんを探す母さん、に締め付けられた。
でもどうしてもどこかで幸せなことだと感じてしまっている。
仲の良い両親はそれだけで言い方があれだけれどいわば子孝行だ。ちゃんと種田さんと向き合った広一は偉い。
私は読みながら種田さんを言い負かすにはとか考えてしまいちょっと自己嫌悪。
写真立ての中に閉じ込められた父さんの姿を見たくないから写真は飾らない、っていうのが凄く響いた。
ホワイト・ピアノ、は14歳の冬、佳奈の物語。広一からのあまりに素っ気無い手紙がつらい佳奈に共鳴した。
傍から見たら普通の文面じゃんって思うとか、何年かしたら普通の文面じゃんって思うとか、あるけど、でもその時はショックだったりする。
いやいや喋っている言葉みたい、に、ああ、それがショックだったんだ…!って今更発見。
…結構モロにそのものな経験があったりするものだから胸がぎゅうぎゅうする佳奈が凄くリアルに感じた。
おばあちゃんなホワイト・ピアノはきっと物凄く可愛いんだろうなあ、なんてセンダくんにムッとされてしまいそうなことを思いながら
雪なそれと氷のピアノとはイメージが中々重ならなくて、けどどっちもすきだと思った。

偕成社 / 2009.07.09.



佐藤多佳子

スローモーション / ★★★☆☆

22歳無職のニイちゃんと動きの超スローなクラスメイトの及川周子を見つめる、高校1年の千佐の話。
イマドキ女子高生な千佐の一人称形式で単語のみで丸(。)になっちゃうような文を含む語り口は
ちょっぴり独特な空気感でさり気なく満たされていて良い。
しょーもない、情けないニイちゃんに割り切れない気持ちとかも独特の色合い。
でもプータローの癖に汚ならしいけど顔はいいとか、たらしとか、あんまり悪い風には書かれていなくて少しガッカリした。
もっと良くない風に書いてくれればいいのに。これじゃ現実を実感出来ない。
及川周子のこわれものさも上手く飲み込めなかった。彼女の退場の仕方にも何だか曖昧な微妙さが残った。雰囲気と文体はとてもすき。

偕成社 / 2009.04.22.



佐藤多佳子

ハンサム・ガール / ★★★☆☆

小学5年生の二葉が男らしく女らしくよりそれぞれらしいのが良いよねと実感するまでの物語。
正に児童文学な易しい本だったけれど、そのらしくの描かれ方が嫌らしくなくて良かった。
押し付けがましくも、説教臭くもなく二葉は自然に納得していく。
女の子だけど野球がすきで、少年野球チームに入れてもらって最初は上手くいかなかった頭の堅い少年たちとゆっくり馴染んでいったり
主夫なパパ、キャリアウーマンなママに普通のパパとママが欲しいと密かに思っていたけれど、
色々あって本来の形に逆転した筈のパパママに2人がらしくないと感じてざわざわしたり。
チームの一員と認められるには劇的なことが必要だと思っていたけれど、違った、にちょっぴりハッとした。
パパを恥ずかしく感じている部分には特に後半ではまだ言うかって気にもなったけど…。
というかママが美人キャリアウーマンなうちは自慢にしてもいいくらいだと思ってしまった。
パパだって駄目人間で無職な訳じゃないし、どっちも素敵に華やかだし、っていうのは、…普通の有り難さをわかっていないのか、な。
終盤の試合は専門的すぎてよくわからなかった。
いいところを主人公なヒロインに譲らざるを得ない塩見クンもちょっと可哀相。物語的な意味で。

フォア文庫 / 2009.07.27.



アレックス・シアラー

13ヶ月と13週と13日と満月の夜 / ★★☆☆☆

児童文学ぽいけど、外国文学の棚にあったから違うのかな…?
全体の空気感は可愛かった。馴染みのない外国のお菓子みたい。おばあちゃんになっちゃった女の子の描写がリアルでいい。
でも子供の心、子供の気持ちをわかってます!!な文章(実際そういう文章もある。紹介の所に)は鬱陶しくてちょっと嫌。
子供はそういうオトナを1番嫌うと思うんだけどなぁ。。ラストなんか使い古しの説教臭いし。
そんなこんなで、読者支持率94%はさすがに言い過ぎだと思う。
裏表紙にたくさん読者の声が載ってるけど、私はそんなにべた褒めする程のものは感じられなかった。

求龍堂 / 2006.05.18.



シェイクスピア

夏の夜の夢・あらし / ★★★☆☆

福田恆在訳の戯曲である。先日観た舞台効果で手に取ったのだけれど、案の定難しかった。
長台詞の多さに、これ覚えるとか凄いなあと慄いて、「、」はあるものの、ひたすら「。」のない訳にこんがらがって
その分、登場人物のやり取りに入れた時の楽しさや嬉しさは貴重だった。
夏の夜の夢、は解説の言葉を借りれば素朴で大らかな幸福の詰まった人間と妖精の物語である。
妖精の王と女王の夫婦喧嘩により季節の順序が狂っているらしいけれど作品からそれは感じられない。何せ一夜の夢だから。
でもそれが後から全体の雰囲気の理由として納得する要素となるような幻想的な喜劇だった。
四人の男女のやり取りが分かり易くて、逆にパックを想像するのはとても難しかった。
舞台で観た時に挟まれる理由がよくわからなかったピラマスとシスビーの劇中劇は戯曲でもよくわからなかったし、
話題に出て来る割にオーベロンとタイターニアの夫婦喧嘩の原因である小姓が全く出て来ないことにも違和感があったりした。
上手く読み取れない自分がもどかしかったりもしたけれど、
初読だし、有名な古典を文字で改めて読めたことと雰囲気を楽しんだことで満足だ。
あらし、はシェイクスピア最後の作品らしい。
全く前知識なしで読んだ。解説の言葉を借りれば、過去を水に流して出直す和解の物語である。
嵐で絶海の孤島に辿り着いた人たちと、そこに住む父娘と、怪物と魔法と妖精の話。
舞台上っぽい言い回しばかりが浮かんで、台詞の内容がおざなりになってしまうことが結構あって、やっぱりそこは自分で残念だった。
戯曲はどうしても一読しただけじゃ理解なんて程遠い感じに難しいし解説にも助けられまくりだ。
でも古典に触れるのは新鮮で、たまにはいいなと思った。

新潮文庫 / 2010.08.18.



時雨沢恵一

アリソン / ★★★☆☆

2007年07月06日、再読。
キノの旅でお馴染みの作者の長編アドベンチャー。 これ1冊でもそこそこ厚いけれど、これはあくまで第1巻、である。
シリーズはもうちょい続くし、終わった後もその後なシリーズが始まったりする。 でも引きはない。しっかりオチまでゆく。
長編ならではの壮大さと、 冒頭とラストに見られるワルターとノーマのモノローグや台詞が味があってすきだ。
熱くなる。胸とか、目頭とか。迫る。 暴走アリソンとのんびりヴィルのやり取りは微笑ましいし、おじいちゃんも、やっぱり良い。
ドラマCDもよく出来てた。 のめり込んでく勢いが、本、って感じですき。

電撃文庫 / 2004.10.02.



時雨沢恵一

アリソンU 真昼の夜の夢 / ★★★☆☆

2007年09月18日、再読。
前作から半年後、新キャラ・フィーを加えての第二作目である。 素敵!
相変わらずなアリソンとヴィルの仲良しっぷりとか(でも進展はない)
フィーの「下手なロクシェ語をだらだらと聞くつもりはありません」とか(シビレル!)
そのベネちゃんの、下手なロクシェ語の凄まじいまぬけっぷりとか(ぐーがとっても魅力的です)。
冬期研修旅行にはじまるばたばたアドベンチャー。 会話の妙がしっかり健在で良かった。
戻れる場所、にほろりときつつ。 目撃しちゃったアリソンが微笑ましくていい感じにほっとしたりしつつ。

電撃文庫 / 2005.01.16.



時雨沢恵一

アリソンV<上> ルトニを車窓から / ★★★☆☆

2007年10月04日、再読。
前巻からおよそ4ヵ月後、大陸横断特急を舞台に謎な人増量中で訳のわからないまま進むお話。
冒頭では次のシリーズで主役を張るリリアちゃんが初登場。おめ。
ヴィル相手じゃなくてもやっぱりアリソンはアリソンで、 でも今と違って嬉しそうに隠しもせず惚気たりして、どっちも微笑ましい。
現在、に戻っての本編はベネちゃんの招待で列車の旅。おこる殺人事件。
誰が誰やらすらわからなくなるくらい大量な伏線(私だけか?)。
最後の最後で漸くストーク少佐がある程度秘密をぶちまけてくれて、ちょっと消化。
でも下巻でまた確かひっくり返ったような… よく覚えてないけれど。その分も割増で楽しめそう。
ある程度明かしてくれないとなかなか…なこともあって、中盤は難しかったけれど、だからこそラストの引きでびびっと来た。
そしてやっぱり、夫婦漫才な会話が可愛かった。

電撃文庫 / 2005.01.23.



時雨沢恵一

アリソンV<下> 陰謀という名の列車 / ★★★★☆

2007年10月05日、再読。
Vとしては勿論、アリソンシリーズとしても完結編である。
ん、すっきり!上巻の謎だらけが次々と展開して明るみになっていって爽快だった。
ユーミが何だか切ない。あれだけで切ない。
どう頑張ってもヴィルにはアリソンがいる事実は変えられないけれど、それが揺るぎないからこそ余計に。
友人は何だか言っているけれど個人的にやっぱりヴィルは天然だと思う。…多分。…きっと。
たまにやたら切れ者だけれどそれはそれだと信じてる。
テロル氏が無印のあのテロル氏だったか!とか(忘れてましたゴメンナサイ)、
あーかもこーかもなりつつ落ち着く所に落ち着いたストーク少佐とか
(ベネちゃんとフィーにお邪魔扱いされる所とかかなりカワイイ) 、とても楽しめた。
フィー相手にヘタレになるベネちゃんがすき。 大分もって回った説明、とか。 見守ってくれるとすてきなので、とか。
正体、の件の会話に置いてきぼりなアリソンとか、 不気味にピタリと落ち着いた狙い、にはちくちくしたりもした。
コミカルに油断しているとさり気なく挿入されるそれにぎくっとする。侮れないなと思う。
序章の前・bは、ママの彼氏、って響きはすきじゃないけれど
未来の話は次作で消化するとして、キノもすきだけれど、改めて。長編っていいな!

電撃文庫 / 2005.01.24.



時雨沢恵一

リリアとトレイズT そして二人は旅行に行った(上) / −−−

リリアとトレイズU そして二人は旅行に行った(下) / −−−



時雨沢恵一

リリアとトレイズV イクストーヴァの一番長い日(上) / ★★★☆☆

シリーズ物は久しぶりに読むと懐かしくて嬉しいです。
でも久しぶりだったからかリリアのキャラというか口調というか、何か違うような…。まだ上巻のみなので何とも言えません。
けど下巻が出て読んだら一気にすきになりそうな、妙な確信。アリソンが、こう言うとアリソンらしくないかもしれないけど、儚くて切ない。
カップを捧げるシーンにぐっと来た。早く5月にならないかな。

電撃文庫 / 2006.03.20.



時雨沢恵一

リリアとトレイズW イクストーヴァの一番長い日(下) / ★★★☆☆

可愛かった。何かとにかく可愛かった。リリアちゃんが平和主義なおかげで痛さも少ない感じ。
アックスさんと、お姉様、もいることだし続編出るような感じだけれどどうだろう。
にしても前作、前々作、から続いて続いてなネタに、毎回前の巻とかアリソンまでも引っ張り出してぱらぱらしてはあー!!ってなります。
大抵覚えてないことは切ないけれど、グラツさんとかひたすら感嘆する。丁寧に丁寧に書いている感じ。
ベネちゃんとフィー対ラウリーは連携っぷりが素晴らしいし金髪お化けは可愛いし、リリアとクレアの会話は優しくて良かった。
にしてもカルロ、すっかり忘れてたよ!可愛いじゃんうわあ!

電撃文庫 / 2006.05.26.



時雨沢恵一

キノの旅 / −−−

キノの旅U / −−−

キノの旅V / −−−

キノの旅W / −−−

キノの旅X / −−−

キノの旅Y / −−−

キノの旅Z / −−−

キノの旅[ / −−−

キノの旅\ / −−−



時雨沢恵一

キノの旅] / ★★★★☆

久しぶりのキノ(学園はやっぱり本家ではないし)はとても読みやすくなっている気がした。易しくなった、の意でなく。面白かった。
ティーの一日は可愛かったし、インタビューの国は何ていうか凄いし、こんなところにある国もまた…(笑)
秀逸なのはやっぱり半分以上を占める歌姫のいる国。
わかりやすい話だし、更にはラピュタにミーアを連想しちゃったりもしたのだけど、第三者から見たキノ、は新鮮ですきだなと思う。
はじめて付いた登場人物紹介のちびイラストも可愛かったぁ。

電撃文庫 / 2006.10.19.



時雨沢恵一

学園キノ / ★★★☆☆

限り無く阿呆でおばかな本でした(笑)
あとがきに楽しんで書いたってあったけど、本当やたら楽しそうで、好感。
幕末キノ気になるぞ!学園キノにティー登場も気になるぞ!新しいキノ!続巻!希望っ!
静さまも陸もあーやっちゃったーだったけどいいんだ。師匠素敵だっ。
キノの女の子るっく&女の子喋りはいけないものを見てしまったような気分になったです(笑)
パロディはとりあえずラピュタとアスランさん(?)に反応。あちこちぶっ飛んでて何だかようわからんままにおかしかった。

電撃文庫 / 2006.07.23.



雫井脩介

クローズド・ノート / ★★★☆☆

部屋のクローゼットにあった、前の住人である小学校の先生の忘れ物の日記と
それに共鳴して勇気を貰ったりする天然大学生の香恵のお話。前半はとても良かった。
後半は所謂携帯小説のようだった。展開も、そのせいか文章も、書き手が違うのじゃないかと思う程の差で戸惑う。
親友の葉菜ちゃんとのやり取りとかマンドリンサークルの様子とか
何よりバイト先の文具店での可奈子さんとのやり取りと万年筆についての細かな描写が硬派で凄くすきだった。
伊吹先生の不登校児に対するあれこれも、プレゼントを自分からと言わないでとする気遣いとか好ましい。
やたらプレゼントに走る理由はわからないけれど。先生ってどうしてそうなるんだろ。
後半になるにつれて、どんどん色恋しか追わなくなって
著者が物語に振り回されているように感じられる風になっていってしまったのがとても残念だ。
まず葉菜ちゃんの彼が香恵にちょっかいを出して来始めて、そいつについて嫌悪しか感じられなかったのが、つらかった。
やな奴として書かれてはいない筈のようでこれにもまた戸惑う。あれで何故嫌じゃない、香恵…。
そこからは一気に恋愛事情がメインに来てしまってたまに思い出したみたいに登場する可奈子さんに癒されつつも
他の生活どこいった、と突っ込みたいくらいいきなりそれオンリーになる展開についていけなかった。
バイト先でのイラストレーターさんとの出会いはそれだけなら微笑ましいのに鹿島さんの存在のせいで色々面倒臭い印象だし
ライバルである星美さんのキャラクターも、薄っぺらに感じた。
元々携帯で発表された作品らしいけれど、
所謂携帯小説、である素人さんの作品とかではなくて著者はちゃんとした作家さんのようなのに、と何だか釈然としない読後感だった。

角川書店 / 2008.12.02.



篠田真由美

魔女の死んだ家 / ★★★☆☆

あたしことみーちゃんの口語体な文章でまずは幕を開ける。
基本は丁寧にですます調なのにそれがふいに崩れる瞬間があって、それは頂けないと思ったけれど
それ以外は、みーちゃんの一人称な文章がいちばんすきだった。美しい日本語が桜色に綺麗で、鮮やかで。
みーちゃんが亡くなったおかあさまのことをひたすら語った後はその現場に居合わせた男たちがそれぞれ事件を語り、
最後は記憶を無くした少女に託される。
一貫してミステリアスな雰囲気が心地好くて、多方向から見て語られるから真相は少しややこしかったのだけれど
それもまた拍車をかけるようにミステリアスで、素敵だった。
図書館の本でなかったなら、時間があったなら、文章はやさしいし全く苦にならないから改めて最初から読み返したいと感じた。

講談社 / 2008.06.11.



篠田真由美

未明の家 建築探偵桜井京介の事件簿 / ★★★☆☆

多分、とてもミステリらしい、ミステリ。海を見下ろす丘の上に建つ、ささやかな平屋の別荘を巡って起こる幾つかの事件。
閉ざされたパティオ、黎明荘の主の不可解な死と一族を襲う連続殺人、それらが繋がった先にある、ブルーサファイヤのお話。
長い前髪で顔を隠した実は凄まじく美形な京介と、そのアシスタントの蒼と、熊男こと深春が遊馬家の事件を紐解く。
文章は難しくないけれど専門用語のせいか想像の難しい描写が多くて、単調さと冗長さを暫くは感じていた。
嫌気が差すような風ではないけれど、のめり込むような勢いはなかった。
でも終盤の真相の語りとか、ブルーサファイヤの出現にはとても引き込まれた。最後の最後で夜明けみたいにキラキラして、綺麗だった。
思わせぶりな蒼の本名その他については冒頭から感じていた違和感を当て嵌めたいところだけれどどうだろう。的外れかな。

講談社NOVELS / 2009.12.09.



柴崎友香

青空感傷ツアー / ★★★☆☆

正確には星3.5、かな、私的評価。音生のキャラがつぐみとかみづきと被ってみんなが憧れる人物像なのかな、なんて思ってみた。
途中の正恵さんの説教とか凄く大嫌いなんだけどそれこそ、私に芽衣な部分がある証拠かもしれない。
風景の描写が凄く綺麗で説教なんて置いといてそれだけで価値があると思った。
沖縄の海の描写とか本当素晴らしい。綺麗で澄んでいてちょっととろんとしているようなイメージ。凄くすき。
こんなに私的水のイメージをそのまま描写してくれている作品にははじめて逢ったかもしれない。
私のすきなそれがそのまま、本当にそのまま、透明に輝いてきらきらしてた。
本当は暑いはずだけど、そんなのそっちのけで涼しげで、綺麗で。
暑くても、海の水を見る為だけに石垣島を訪れるのもいいかも、なんて思った。
小1の時の担任が石垣島出身で、さとうきびを貰ったりしたことがあって
そんなこともあって、何故か、石垣島、って遠いのに近いイメージです。

河出書房新社 / 2006.08.24.



柴田よしき

小袖日記 / ★★★★☆

現代から、平安時代らしきところへタイムスリップしてしまうお話。
と書くと物凄くベタに感じられるし、実際多分ベタなんだけれど
主人公が不倫の恋を失って死んでやるっ、とか思っていた30ちょい前の女だったこととかもあってかそういう風にはあまり感じなかった。
派手さはないけれど飽きずにだれずに読み進められた。
平安に飛んだのは意識だけで、彼女はそこでは17歳の小袖である。
仕えている香子さまと一緒に紫式部の名で源氏物語を合作している女の子、ということで
平安のパッと見は雅な世界の中で噂話を集めるのに奔走しつつ、自分のいた世界の過去とは違うのじゃないかなという気のする
もうひとつの平安時代、ちっくな場所で、源氏物語の裏舞台に関わっていく。
胡蝶の君だとか山吹の上だとか、登場する名前はそれだけで言わずもがなに艶やかで
香子さまの頼もしさは美しいし、小袖の基本的に明るいところもとても好ましい。
敢えて考えないようにしている部分も変に湿っぽさがなくていい。
たまに関西弁の地が出ると、現代の等身大のお姉さんって雰囲気が否応なく溢れて来て何だかおかしい。
小紫は私の苦手の基本をひたすら固めたような人だったけれど、そんなに気持ちの悪い嫌悪は浮かばなかったし
最終的にはじわじわじりじりと星4つまで乗り上げてしまった。

文藝春秋 / 2008.12.05.



柴田よしき

淑女の休日 / ★★★☆☆

400頁以上の厚めの本だけれどとても読み易くてほっとした。私立探偵・鮎村美生と一流シティホテルのバトラー幽霊の怪、なお話。
はじめは単なるお化けの噂だったのが、次第に殺人事件まで連れて来る。
男勝りでお間抜けでひょうきんでパパイヤ好きな美生がとても好ましかった。
事件の直中にあって、不謹慎とかでなくシリアスになりすぎない匙加減や
親友のような悪友のような、べたつかずに楽しそうなゆう子との会話が凄くすきだった。
高いお金を出してでも、主役になって誰かに優しくされるのはちょっと魅力的。
私には手の出せないものだけれどちょっぴり羨ましくていいなって思ってしまった。ホテル従業員も、何だか無性に楽しそうな気がした。
そういう風に思える本は、素敵。

実業之日本社 / 2010.05.15.



柴田よしき

PINK / ★★★☆☆

一歩違えばかなり怖い描写になりそうな瞬間が何度もありつつ、でも幸か不幸かそうはならずに終わった。
阪神淡路大震災で婚約者である由起夫を失い
今はお見合いで知り合った達也と結婚して優雅に主婦をしているメイの元に気味の悪いメールが届いたことから日常が崩れる物語。
由起夫に似ていた筈の達也は日に日に別人のようになり、原因は浮気と思いきやそれにしてはしっくり来ず
挙句彼は殺人事件の容疑者として逮捕される。
メイは失う訳にはいかない彼の為に、友人で不思議な力を持った教祖でもある奈津実に占って貰ったりしながら奔走する。
当然のように達也に由起夫を重ねるメイはしぶといとか無神経を通り越して狂気的である。
達也が達也そっくりの誰かになったと考える辺りも描写が描写ならきっと物凄く怖かった。想像したのは素子さんの小説だ。
ただこの本はホラーではなく、その点は怖いのが苦手な私としては有り難くもあったと思うのだけれど
後半に進むにつれてそういう不可解さが減って、登場人物の繋がりも込み入って来て
そうしたら段々パワーダウンしてしまったのが残念だった。
このまま真っ当に終わっちゃつまらないと思っていたところに白い鬼なんていう単語が出て来た時には期待したのだけれど
結局至極あっさりとしたラストを迎えてしまって、がっくりした。物足りなかった。どんでん返しが欲しかったなあ。

双葉社 / 2010.09.19.



柴田よしき

窓際の死神 / ★★★☆☆

死神、はアンクーと読む。フランスに伝わる伝承で、アンクーを見ると自分または自分の愛する人が死ぬとされているらしい。
幕間を挟んで語られるのは現代社会に馴染んじゃう死神島野と出会ったOL2人の物語である。
告白する前に相手に婚約者が出来たことで失恋した、不健康なダイエット中の多美は、死ぬ運命の彼を救う為に
自分の運命と彼のそれを交換するか否かという選択を迫られる。
お母さんに対する負い目が、大人になったなら当たり前なのかもしれないけれど
何か違わないかと思っていたから、当のお母さんの答えが嬉しかった。
一方、愛人生活をしつつ小説の投稿を続けている麦穂は自分も応募した公募で同僚が賞を取ったことをきっかけに会社を辞める。
昔気まぐれで書いた作品が一次審査を通ったことでその気になってしまった麦穂の
やっていることも感情も馬鹿な女の典型で、中身のない薄っぺらなところをむしろ前半は笑い飛ばせたのが不思議で、良かった。
後半は後半で当たり前に入れて相容れないような反発はいつの間にかどこかに行っちゃっていたし
そういう、読み手の負担にならないところ、凄いなあと思う。
小さなレストランのウエイトレスのやり甲斐と楽しさが凄く眩しくて、
なのに作家デビューした京美が来た時に惨めになってしまったところも前半の時のように醜くなくて、素直に読める描写で、嬉しかった。
凄く普通で、あまり不吉じゃなくてでもやっぱりミステリアスでどこか無機質な島野の締めが良い味だった。

双葉社 / 2010.08.08.



柴田よしき

ミスティー・レイン / ★★★☆☆

不倫をして会社をクビになった茉莉緒がたまたま出会っておにぎりをあげた若手俳優のマネージャーになる話。
なった早々身近で殺人事件が起こっていくミステリ。
柴田さんの本は本当にとにかく読み易いなあと思う。変に軽すぎる訳でなく気負いなくノって読めるのは嬉しいし楽しい。
エキストラのバイトっていう掴みがまず興味深かった。芸能界の描写もさり気なくミーハー的に楽しめたかも。
不倫だの歳の離れた元恋人だのとしてもじめじめしないのがとても魅力的だ。
根本的な部分で良い意味で逞しい女の人たちが鬱陶しさと無縁で良い。逆に、終盤の海の甘えにはがっかりした。
それまでは名前呼びをねだったりしつつも自然体な関係性が凄く可愛かったのに台無しだと思ってしまった。
本というより、その程度の男だった海にガックリ。だからラストはよくやったそれで良いと思ってしまった。
仕事を、自分の在り様を、優先したってことになるのかなあとも思うけれど何気に泣き虫だけど潔い茉莉緒が嬉しかった。

角川書店 / 2010.07.02.



柴田よしき

水底の森 / ★★★☆☆

両親に憎まれて、付き合った男の誰もが幸せになれなかった風子と彼女を追う刑事の要の、長い物語。
無理心中されかけたり、ヤクザの妾になったり、殺人事件の容疑者として手配されたり風子の人生はひたすらに波瀾万丈である。
前半は生々しい描写が多くて淡々としてはいるものの好ましくなかった。
今と色々な昔が交錯して、混乱する程込み入ってはいなかったけれど
書かれていることをその都度受け取るだけ、みたいな読み方になっていたから後半で整理され始めた辺りは嬉しかった。
ただ、散々寄り道というか奥行きというかを沢山書き込まれた末の顔の潰された死体の事件の真相が
あまりにもあっさりだったことは、少し拍子抜けだった。
風子が拾ってくれた正子の元からお金を盗んで去るシーンのごめんなさいは胸に迫ったしヤクザの描写は興味深くて良かった。
多恵がわざと流産するところの多恵に対する嫌悪感は半端なかったけれど、
流されっぱなしな風子の人生がとても徹底的に描かれているのに淡々として変な肩入れもないから不快にならずに読めたのは
好印象だった。不幸な星の元って感じだけれど、同情や苛つきを誘うような感じじゃないのが良い。
流されたから溺れたって結論はどこかすっきりするものだったけれど、とにかく長すぎたことが残念。細かい枝が多すぎた。

集英社 / 2010.11.11.



柴田よしき

紫のアリス / ★★★☆☆

不思議の国のアリスをモチーフにしたミステリ。
不倫から失恋した三十前の女が、いっそ死んじゃおうか、と独白する辺り
同著者の作品ではじめて読んだ本である前回の小袖と被って、このまま不思議の国に行っちゃうのかな、と思ったらそうじゃなかった。
似ているのは冒頭だけだった。
舞台は現代の日本のまま、幻影のようなアリスの登場人物に付き纏われて、主人公である紗季の周りでは、事故か殺人か、死が続く。
親切でお節介なご近所さんの菊子さんが優しくてすごくすきだった。
記憶の曖昧な紗季に、ベタな真相に転ぶかなと思ったけれど
舞台上での真相解明はちょっぴり意外な魅せ方で、更にその後のエピローグでまた迷路に迷い込んでしまう。
やっぱりどこかベタなのだけれど、冗長で飽きたりはしない。
三月ウサギやマッドハッターがアリス、と呼び掛ける度鮮やかさにクラクラした。
あとがきにある遊園地の迷路から出られなくなった子供、になるほど。キラキラクルクル、悪趣味さも丸ごと綺麗だった。

廣済堂出版 / 2008.12.28.



柴田よしき

ワーキングガール・ウォーズ / ★★★☆☆

会社の嫌われ者でお局様、仕事は出来るがイヤな女、を自覚している37歳未婚の墨田翔子と
オーストラリアはケアンズでひとり暮らしをしている29歳の嵯峨野愛美が交互に語る、働く女、な物語。
2人はメーリングリストをきっかけに知り合い友達になる。
はじめの方の翔子は柴田さんには珍しく毒素多めでいまいちかと思ったりもしたのだけれど
すぐにいつも通り良い風に前向きで素直で明るく、って方向になってくれて安心した。
翔子と愛美がお互い最初は好意的って訳じゃなかったのも読み終えてみると甘ったるくなくて良い。
総合音楽企業の企画部係長な翔子と旅行社でツアーガイドをしている愛美の仕事内容も
そこまで具体的に職業ものとはなっていないものの興味深かったし
何よりやっぱり逃げ出したり腐ったりしながらも根っこがカラッとしているのが相変わらず素敵だった。
あたしのペリカン、と殴り合いの末に大泣きしたりする辺りは何とも力が抜けちゃうし
年下男と良い感じになるのも、仕事の出来る女、って部分がしっかりしているから浮つきすぎない。
はじめにちょっかいを出して来た時の八幡はわかり易すぎて苛っとしたけれど。年上好きの男っぷりが半端ないよ八幡!
冒頭からアーミーグリーンなネイルやら足し算ミスやらで散々な扱いだった神林麻美を意外と気に掛けていたり
他にも部下の面倒見の良い翔子が頼もしくて良かった。
ラストエピソードでの勝ちっぷりは多少女に都合の良い展開とはいえやっぱり格好良いと思ってしまった。

新潮社 / 2010.08.21.



島本理生

リトル・バイ・リトル / ★★☆☆☆

第128回芥川賞候補作。名前は知ってたけど、読むのははじめて。あー…駄目だ、私は苦手だ…いまいち、と、何度も思ってしまった。
苦手な感じじゃない部分も、色が無い、気がした。無色透明。綺麗、とか、そういういい意味でなくて。可も無く不可も無く、みたいな…。
私はその上著者が若いって知ってるとどうしても粗捜しをしちゃう。小姑みたく。自分で嫌になるくらい。
そこで本当に粗がぼろぼろ見つかっちゃうと…ね。
文章も内容も背伸びとごっこ遊びを強く感じた。それに、明るくは…ないと思うよ。どう見ても。
大変としているのに、主人公のやるバイトがやる気なさ気だったりとか母親の勝手さとか、何だかなぁ。
あ、でも周の姉ちゃんは素敵だった。彼女が出てるシーンは素直にいいなって感じられた。

講談社 / 2006.04.30.



清水義範

永遠のジャック&ベティ / ★★★☆☆

良くも悪くも何ともへんてこなお話が8編の短編集。表題作は50歳になったあのジャック&ベティが再会して奇妙な会話をする話。
話している内容がシュールだったりブラックだったりしつつ、表面上はひたすら英語の教科書風に現実的でないやり取りを通す。
飛びまくりな話の間の感情の動きの描写にちょっと感動した。
上手くしっくり来て、有り得ないような流れに納得出来て、地味に凄い。
英語の授業をもっとしっかり受けていたらクスリと笑えたかもしれない。
ワープロ爺さん、はワープロの変換機能と格闘するお爺ちゃんの話。
とぼけていておかしくて微笑ましくて、滑稽さに後ろ暗く感じさせる雰囲気がなくて、いちばんすきだった。
冴子、は色恋沙汰に関して現役であるらしいお爺ちゃんの日記な話。いちばん苦手。
暴走お爺ちゃんの品のなさと言い訳と開き直りと思い込みがもうどうしようもない。何かもう悲しくすらなる。
インパクトの瞬間、は最初は訳がわからなかったけれどコクがあるのにキレがある、辺りから楽しめ出した。
ああそういう話なのか、と遅ればせながら理解。纏め方がよくわからなかったけれど嫌いじゃない。
四畳半調理の拘泥、はなんちゃって旧かな遣いのひたすらお料理話。とにかくひたすら執拗なまでにお料理。お腹が空きそう。
ナサニエルとフローレッタ、は映画のパンフレット形式の話。象のタップダンスとか訳がわからない。でもそこは嫌いじゃない。
レポーターのレポートがうざくてでもありそうで変な笑いになりそうだった。
大江戸花見侍、はお江戸で時代小説、というよりは台詞回しとかシーンがやたらドラマのような話。
そういうやり取りは普通ないだろ、と思いつつも微笑ましい笑いだった。
金さんとか、角さん連れたご隠居とかがなんちゃってっぽく出て来たりラストで文字が浮き上がったり
ふざけた雰囲気は他作品同様で、でもいちばんまともな作風の作品だと思った。
栄光の一日、はテレビ番組の1コーナーに出ることになってはしゃぎまくる短歌が趣味のお爺ちゃんの話。
浮かれる様が鬱陶しいやら、本番での頑張りや空回りに苦い気持ちになるやら、だったけれど
ラストで懲りずにまた舞い上がり出したらしいお爺ちゃんには和んだりした。
それそのものの描写がないからだろうけれど、おかげで後味も悪くなくて良かった。

講談社 / 2010.01.22.



志村一矢

麒麟は一途に恋をする / ★★★☆☆

表紙が綺麗だなと思って借りたのだけど、んー、若い…
麒麟の青年が伴侶と勝手に決めた人をこっそり守ろうとして闘いまくってはボロボロになる話。
…なのだけれど、モロに途中というか、展開が遅すぎる上
この巻では本当に序章も序章なところで終わってしまっているのがとても不満。肉薄って単語を多用しすぎるのも目に余る。
ヒロインである麻由が本当に何にも出来ない、する気のない受け身キャラなところも苛っとくる。
中盤の、美夜と岳人と絵里の容赦のないエピソードとか柚子と華音の闘いの鮮やかさは、良かった。その辺りは入り込んで読めた。
…だからこそ、1冊の3分の1は番外編、な構成に疑問符。ま、待って、表題作続けようよ…!(汗)
番外編は多分世界設定は同じに展開する、『院』本山での話。これまたヒロインの安曇がか弱いんです街道まっしぐらで、うーん…。
しかも直純くんには彼女(らしき人)がいるのに
ラストシーンでは有無を言わせず押せ押せで、それって勇気とか違くないですかと思う訳で…。。
闘いの最中の凜とした描写はすき。妖魔を倒したが故の雨はぶっちゃけ気持ち悪くないかと思った。
散々仇だってしてたのに寛容で肩透し。
…表題作の中盤は悪くないと思うけど、既に何冊も書いている作家さんでこれは、…微妙なところだ。

電撃文庫 / 2008.07.11.



志村一矢

麒麟は一途に恋をする2 / ★★☆☆☆

1巻が未完にも程遠い感じで終わっていたしもうちょっと読んでみようと思っての2巻。
個人的には残念なことに、まだ未完にも程遠い、を続けていた。
というか元々、シリーズとして幾つかエピソードがあるタイプの本じゃないようだ。ひとつの本筋をゆっくり辿るらしい。
主人公とヒロインの関係を一気には進めない、がコンセプトとしてあるらしいからもう故意なんだなと思う。
丁寧なのはいいことだけれど、こうも薄味じゃしょうがない、というのが正直な感想。
この内容なら文庫1冊もいらないだろう、もっと詰めてまとめられるだろう、簡単に進めるとかそういうことでなく、と思う。
前回は女性陣というかメインヒロインたちに疑問符を飛ばしていたけれど
今回は直純と由花と安曇の特別編シリーズの由花に疑問符を飛ばしつつ男性陣が、酷かった…。
本編の敵である志摩 薫、特別編の敵である九条政宗の気持ち悪さに辟易。
そういうキャラだからそれでいい筈なんだけど、ちょっと、耐えられない…。
前者は変態、後者は狂人。妙な生々しさにそこ追わなくていいよ、と思った。全体的にどうにも作者が透けて見えてしまうのも萎える。
番外編的な柚子と遥ちゃんの過去バナにだけは好感が持てた。
周りがあれな分、柚子のスカンと抜けるような真っ直ぐさがとても心地好い。
遥ちゃんも嫌いじゃないし、いっそ遥ちゃんと柚子と亮ちゃんがもっとバリバリにメインだったらな、と思ってしまった。

電撃文庫 / 2008.09.07.



謝 考浩

藍の空、雪の島 / ★★★☆☆

タイトルの字体と、各章に付けられた題が凄く綺麗で、惹かれた。
月光、月蝕、幻影、誘い水、精霊、漆黒、蒼穹、飛翔、天藍、空覗き、根雪…純度100%、て感じ。
文章も不純物がなくて透明で綺麗だった。
私的には、響くタイプのお話ではなかったけれど外国の大変な人、の話なのに厭味もなかったし
知らないことを多少知れた感じがして良かった。
只、ラストがわからない…。思い出に縋った逃げに見える。イープン、て、東京があるってことは日本?
確かに綺麗じゃないけどそんな否定しなくても…なんて思う私は何気に愛国心、あったのかな?
ずっと無縁だと思っていたから、ちょっとびっくりした。

スイッチ・パブリッシング / 2006.07.17.



周利重孝

夏の扉 / ★★★☆☆

星3寄りの3.5、かな。
タイトルのない不思議な表紙。中身は澄み切った空気に溢れていた。
きらきらしている訳じゃなくて、只々綺麗。水死体とか出て来るのにね。平中さんの文章に通じるものを見た。
ミステリーは別にすきでないのに、これも読んでみたらミステリーでびっくり。最近縁でもあるのかな。
大沼さんがすきでした。ラストも綺麗。でもあんまり響かなかったのは、間が空いたせいだったのかなぁ。残念。

水曜社 / 2006.10.26.



ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

ハウルの動く城1 魔法使いハウルと火の悪魔 / ★★★☆☆

2011年07月14日、再読。
児童文学と舐めて掛かるとちょっぴり背筋が伸びるような、骨太的なお話だと思う。
易しいか易しくないかと言ったら易しいし、柔らかいか硬いかと言ったら柔らかいけれど
噛めば噛む程、みたいな奥行きと面白さがしっかりとある。
自信もなければ、長女は成功しないものと思い込んでいるソフィーが
魔女の魔法で老婆に変えられて、魔法使いハウルの城へ単身乗り込んで、そのままそこに住み着く。
お節介だなんだと言われつつも懲りずに色々やらかして、炊事に裁縫、掃除なんかをしたりしながら
ハウルとハウルの弟子のマイケルと火の悪魔カルシファーの4人で
誰に理があるかなんて放り出したわいわいがやがや新しい日常(?)を送るお話。
怖いと噂のハウルは自惚れ屋の臆病者で、ソフィーはおばあさんになったことで逆に何だか生き生きとするようになる。
殊更に強調されている訳じゃない魔法や街の様子が凄く自然体でありながら素敵でとても良かった。
わたしの場合、ソフィーのやきもちやそれ故の癇癪はソフィーが普通に若い子だったら反発に繋がりそうだったけれど
老婆なことでギリギリ躱してくれたのも嬉しかった。最後にお互いしか見えなくなっている様子は何とも言えない微笑ましさだ。
大人でも楽しめるっていうのはきっと、変な深さとか比喩表現で描かれているとかそういうことでなくて
純粋に、子供の頃に返るようにドキドキわくわくするってことだと思った。
今回、再読ではあるものの映画の印象の方が強かった為、荒地の魔女の結末には驚いてしまった。
この手の本には珍しく続編も読みたくなった。

徳間書店 / 2005.02.12.



ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

ハウルの動く城2 アブダラと空飛ぶ絨毯 / ★★★☆☆

アラビアンナイトの世界を下敷きに書かれた、魔法使いハウルと火の悪魔の姉妹編。
若き絨毯商人であるアブダラが色々あって共に旅することになったのは
瓶の中のジンニー(なぜか不機嫌)、正体不明の兵士(喧嘩が強い)、絨毯(お世辞が大好き)という何ともデコボコなメンツだった。
バザールとか、絨毯に連れて行かれた夜の庭で出会った<夜咲花>とか、全体に溢れる雰囲気とかが
ナチュラルでありつつひたすらに鮮やかなアラビアンナイト風なのが、とても素敵だった。
暫くはハウルの姉妹編っぽさは皆無で進むけれど、これはこれとしてすっかり楽しんでいたら
ソフィーが意外すぎる登場をして、更にハウルが最後の最後で颯爽とやけにイケメン的に現れてやられた。
へたれの筈なのに妙にキラッキラしちゃって
はじめは登場人物紹介にふたりの息子までいることにのけ反ったりしていたのだけれど、そんなことも吹き飛んでしまった。
抱き上げてぐるぐるって何そのバカップル!でもこのふたりならなんか素敵…!ハウルが出て来たらソフィーが妙に可愛くなった気がして和んだ。
ハウルたちの絡ませ方や隠し方が子供心を忘れない遊び心満載という感じですきだ。こういうのはわかった上でまた読み返したくなる。
アブダラを主人公にしっかりと楽しんだ後でハウルたちがひょこっとやって来るのもたまらなかった。
<夜咲花>の知的で涼しげな雰囲気がとてもすき。
アブダラの阿呆らしいくらい長々としたお世辞の口上も、しょうもなさも素敵だけれどそれだけじゃなくてどこか不思議な雰囲気を作っていたりもして、良かった。
でも何よりグッと来たのはハウルとカルシファーの八つ当たり合戦の地の文の纏め方だ。さらりとしているのに思わず痺れてしまった。

徳間書店 / 2011.08.24.



末永直海

アプルアプリケ / ★★★☆☆

別居夫婦なハルカと秋壱が建築模型を通して再生する物語。
はじめはこれでもかと嫌っているような言動ばかり繰り返していた秋壱が
いつの間にか普通にからかうレベルに落ち着いていたのが、嬉しいような、置いてきぼりのような、複雑な印象だ。
ハルカの方は視点がハルカだから可愛くない言動の後ろもちゃんと見えるのだけれど
多分、秋壱もそんな感じだったのだろうと思いつつ、それにしたって「好きな子はいじめちゃう」にも程があると感じるキツさ。
あんな両親を見ている夏樹に同情しつつ、最後には何だか微笑ましく落ち着いたから、良いのかな。
元々、仲の悪い、相性の悪い2人でもなかったってことか。
ハルカが意地を張らずに素直になりさえすれば何だかベタなほのぼのカップルになる2人だったみたい。
廃校になる母校の小学校のミニチュア版を作ることを恩師に頼まれて、八方美人なハルカはつい引き受けてしまう。
赤字の無謀な要求を秋壱は断るが、彼の事務所に通いながらハルカは自分ひとりでそれを作らせて貰うことになる。
間に挟まれる小学生時代のハルカの思い出と殆ど同時進行で物語は進む。
今と昔にハルカ以外に共通の登場人物がいなかったことが意外だった。最後まで繋がったりはしない。
ハルカは当時からいじわるな男子が初恋だったりするから、殺伐としたはじめの方のやり取りとは裏腹に根っこは甘々な物語なのかも。
「ハァイ、アップル!」からはじまる未来の自分に宛てた何通もの手紙が妙に愛らしい雰囲気で可愛かった。
鯨のお刺身とか芸能人の名前とか、当たり前に登場する昔らしさが新鮮で面白い。方言の効果も相俟ってやたらと和んでしまった。

角川書店 / 2011.01.21.



菅 浩江

アイ・アム I am. / ★★★☆☆

円柱形のボディに特殊ラバーの腕で目覚めたミキが、プログラミングされた高度な知識と技術をもってホスピス病院で看護士として働く中
ロボットの筈なのに甦る記憶と自分探しで翻弄される、隣り合わせの生死と人間の定義の物語。
近未来の様子は相変わらず興味深かったけれど、真相に意外性が全くなかったこともあって淡々と読み終えてしまった。
前向きでない、気持ち良く諦める為の自分探し、にはドキッとさせられた。
一方で、許してくれるかしら、を連呼する総看護士長には妙な怖さを感じたし
発展した技術、特に本体の描写には全面肯定するのをためらうような不気味さが付き纏った。
共感は出来なかったけれど、違和感を与えることが、読者の中にそういう感情の動きを与えることが、大事なお話だったのかな。

祥伝社文庫 / 2011.04.03.



菅 浩江

永遠の森 博物館惑星 / ★★★☆☆

地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館、アフロディーテを舞台に描かれる未来で
考えるだけで機械に直接接続出来る人たちがそれぞれのやり方で美と向かい合う話。
あだ名が案山子な所長とか、黒豹の動作なネネとか、絵画療法や元天才ダンサーの才が興味深かった反面、
黄金率とか専門的すぎる細かな描写には理解が追い付かなかった。
そのせいか硬質な文章ではないと思うのに入りが悪かったのが残念。
主人公である田代孝弘が妻の美和子への自分の接し方を自覚して愕然とするところにはぐっと掴まれた。

早川書房 / 2010.09.04.



菅 浩江

おまかせハウスの人々 / ★★★☆☆

少し未来の当たり前にSFな物語、全6編。
純也の事例、は人間型ロボットと彼を教育する一般人のママの話。
麦笛西行、は相手の意を汲む機械、犬の気持ちを鳴き声で判定するそれの対人間版、の話。
ナノマシン・ソリチュード、は身体の中で自分の為に働き自分を生かしておいてくれる見えないナノマシンの話。
フード病、は絶対に安全なんて食べ物はなくなった話。
鮮やかなあの色を、は鬱のせいかくすんだ世界が薬によってぐっと彩度を増す話。
表題作は、家事労働を軽減する家のモニターとご意見賜り係の話。
誰かの為って、凄いと思う。それが人工的ならば綺麗事じゃない必死の色を感じる。
表題作のラストで明かされた主人公の秘密には凄く胸を突かれてしまった。
一方で、引き籠もりのモニターの変化は真正面から健全で暖かくてすき。
ほのぼのして、優しくて、でも近未来の間違っているかもしれないとも思えてしまう発展が大前提なことで
どこか一筋縄ではいかない不思議な魅力となっている気がする。基本は暖かいのだけれど、どこか微かに影がある。
短編集でありながら外れなしの安定した面白さが凄く素敵。
近隣の図書館事情的に、短編集がメインの作家さんのように個人的には思っているけれど
長編をもっと書いてくれたならもっと派手に強く胸を打つ物語が生み出されるのではないか、とか、欲張りなことをついまた思ってしまった。

講談社 / 2011.01.26.



菅 浩江

カフェ・コッペリア / ★★★☆☆

少し未来のささやかで切実な人間模様を綴る全7篇。
はじめて借りる作家さんの本のつもりでいたら、前にアンソロジーで1作品読んだことがあってびっくりした。
表題作は人間とAIの混合スタッフが美味しい珈琲と共に恋愛相談に乗ってくれるカフェの話。掴みはばっちり。
もしかしたらAIかもしれないスタッフに惚れてしまった友人と
いつの間にか同じようにグロテスクな魔力に魅せられた主人公のすっきりしないラストが妙に心地好かった。
不思議な瑞々しい空気に溢れていて、正体の分からない相手にゾッとしながらもずっとその世界にいたいと思わせられる話だった。
モモコの日記、は実験の為に擬似家族が隔離されたドームで暮らす話。
アンネの日記でいうところのキティである心理カウンセラー視点で優等生すぎるモモコを見守る。
やっぱりすっきりしないラストで、でもそれが凄く良い。
嫌らしくも、酷くもなくて、でもどこか物悲しいような、けど爽やかさに通じる清涼感がたまらない。
リラランラビラン、はケセランパサランに似たアロマペットとOLの話。無害なのか危ないのか、読者にもわからない語り口がすき。
ラストは先の2作に対して最初呆気ない気がしたけれどでも本当に安心とはまだ全然言えなくないかって思ったらゾクゾクした。
エクステ効果、は最先端美容室のちょっと悍ましくもある話。冒頭からデジャヴを感じていたらやっぱり既読作品で驚いた。
店長と香椎くんのコンビが可愛い。ちょっとしか出て来ない最年少のリナさえ無駄に可愛い。キャラクター小説っぽいのかな。
凄く魅力的だった。少しでもお客様の気分がよくなるように、なスタンスが素敵。こんな美容室があるなら行きたい。
言葉のない海、は試験官ベビーとして生まれた2人の、言葉のいらない完結し切った関係の話。
ミトコンドリアとか遺伝子とか、2人が駄目なことの把握が難しかった。
とにかく良くないらしいのに全く気にしない結論に落ち着く2人がちょっと不気味ですきかも。
笑い袋、は幸せだと言い続けるおじいちゃんの淋しさ全開な話。
いたたまれなくなるから、ラストは救いがいっぱいに見えて泣きそうになった。
こればっかりはすっきりしないを見つけたくない。そのままで良い。
千鳥の道行、はベリーダンスと歌舞伎と日本舞踊をごちゃまぜにして、な話。
締めとしてはちょっと地味だったけれど、私事と芸事を綯い交ぜにするほど傷付いて、
その傷付き方があまりにも芸の肥やしになっている、な状態のお弟子さんにクラクラした。理想だと思う。
そこへいけるならむしろ進んで傷だらけになりたいくらい。
全体に、未来ならではの存在が良い意味でグロテスクな作品集だった。
気持ち悪くなくて、でも異質で、ちょっと怖くて。なのに清らかな空気感が凄くすきだった。

早川書房 / 2010.06.18.



瀬川貴次

聖霊狩り / ★★★☆☆

少年と、彼とあまり仲の良くない少年と黒ずくめの和製ドラキュラ風同僚と、元気少女と、文学少女の話。
…BL好きの文学少女の視点と、主人公とライバルと黒ずくめ、のせいで何となくBL風味な気がしちゃうけど別にそういうサービスはない。
主人公の飛鳥井柊一が厭味のない少年キャラで好感。地味だし薄味だけれど変に尖ってなくて良い。
さまよえる怨霊を鎮めるための組織、御霊部に属す柊一少年VSラスボス、とか
その前のボスの子供達の大群とか、終盤がぞわぞわだった。
怨霊なのに虫って!そういう怖さかよって!鎮めるというより退治だし、ちょっぴり予想と違う方向性だった。
サトリ能力を持つ長老が何だか素敵。個人的には見た目がもっと長老〜っておじいちゃん〜ってしてたらもっと良かった。

コバルト文庫 / 2009.07.15.



瀬尾まいこ

図書館の神様 / ★★★☆☆

読み初めてすぐ、図書館じゃなくて図書室の話なのかなって思ったけれど、ラストまでちょっとだけ期待していた。
私は図書室<図書館<本屋さん、の順ですきだから。
まあ、結局、図書室の話、で終わってしまったのだけど段々、澄んでいく感じがしてちょっと清々しかった。
清は全体を通してあんまりすきじゃなかったけど、正しいことを、な言い分には結構身に覚えがあったりして
それをどうしていくべきなのかとか、間違っているの?とかまだ私にはよくわからないけれど
似ていたり、したのかな、するのかな、と、思ったりした。

マガジンハウス / 2006.10.19.



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