高里椎奈

フェンネル大陸 偽王伝 孤狼と月 / ★★★☆☆

王国の獣兵師団を率いる13歳のフェンベルクが、小さいながらに大人のように活躍し、裏切られ、立ち直るまでの物語。
彼女のちびっこ将軍さに全くあざとさが見えないところが素敵だった。
年齢相応のところもそうでないところも嘘のように自然に溶け込んでいる。
一方で絶望して死にたがりになったフェンベルクは選ぶ言葉のせいかいちいちちょっとこっ恥ずかしかった。
ただそれは作品というよりはフェンベルク自身の幼さに寄り添ったものに感じられたから、そこまでの抵抗にはならなかった。
焼鏝とか化膿とか、13歳の少女相手に容赦なくあんまりな描写はつらかったけれど
それも作品内のことで著者が透けたりは全くしなかったのが好感。
子供ながらに大人のように指揮して戦っていたフェンベルクも知らなかった広い世界を知ろうとするフェンベルクも
どちらにも無理がない。ともすれば良くない意味でベタまっしぐらになりそうなのに、と思う。
途中で終わっている訳ではないけれど2巻も読みたいと思わされた。

講談社NOVELS / 2010.10.02.



高里椎奈

フェンネル大陸 偽王伝 騎士の系譜 / ★★★☆☆

舞台はソルド王国へ、騎士見習いの少年ロカとの出会いと国を揺るがす危機と騎士さんたちの活躍の巻。
あとがきの、一巻を序章とするなら今作は第一章の幕開け、との言葉通りな印象だった。
ただ、だからこそなのか、引力としては前巻の方が断然強かったように思う。
展開を特別遅く感じる訳じゃないのに、まだまだ奥があるけど見えていない、みたいな雰囲気を感じた。
それが続きへの期待になれば良かったけれどそこまでイコールでもなかった。
今見えている部分だけじゃ個人的には魅力が足りない、のだと思う。
でも戦闘集団イリスの末裔の長のカティアの、ラストで妙にフェンを気にしたりしている思わせぶりな伏線にはしっかり掴まれてしまった。
フェンはフェンで最後の最後で離れ難いとかいきなり言い出すし、そういうの弱いんだってば、な気分。
まだ暫く続くシリーズみたいだし、気長な感じで読み進めるか。

講談社NOVELS / 2010.10.23.



高里椎奈

フェンネル大陸 偽王伝 虚空の王者 / ★★★☆☆

さらわれたソルド八世王を追ってパラクレスに入国したフェン、テオ、アシュレイの旅な第3巻。
早々にひとりで捕まったり、懐かしいサチと再会したりまた別れたり、3人旅、の印象は薄い。
フェンは何故かどこまでもひとりで目的を持って動いているように見える。
ひとり旅ではないのに仲間っぽい甘さや連携感はあまりない印象。単にくっついて来ているだけのようで、少し淋しい。
探し人に似たクドラとその護衛的な無感情無表情系のベルテの繋がりが珍しくベタでありつつの鮮やかさを持っていて
特に巻末のベルテの過去編のラストでは鳥肌の立つような感覚を控え目ではあったけれど味わった。
あまり前のめりになるような描写はなくて、何が起きていても至極淡々と進む。
それでも引きつけるものがある、というよりは、どちらかと言えば視点のフェアさに安心するようなイメージ。
甘さのない淡々とした痛め付けられる系の描写は付け入る隙のない感じがしてすき。強みだと思う。
ただ、クドラの揺るがない決意とか行く末とかは、多少乱れても良いからもう少し勢いをつけて引っ張り込んで欲しかった。

講談社NOVELS / 2011.08.21.



高里椎奈

フェンネル大陸 偽王伝 闇と光の双翼 / ★★★☆☆

フェン、テオ、アシュレイ、サチが八世王の任を終え再び戻ると、ソルドはシスタスに急襲され城を奪われていた、な第4巻。
冒頭があまりに素人臭くて目眩がした。三人称の地の文で訂正、〜なようだ、とかやめて欲しい。受け入れ難かった。
今巻は全体的に、例えば新たな登場人物の外見を髪色その他逐一書いていくこととかにも苦さを感じてしまった。
必要性が見えなくて自己満足に思える。アニメでもゲームでもないのだから薄い外見をいちいち描写しようとしなくても良いと思う。
話の内容も印象に残り辛くて、盛り上がりもなく、かといって史実のような淡々とした客観性で語られる訳でもないように感じられた。
2巻ラストのカティアの伏線が一応は回収されて、更に新たに引かれたりしたけれど、回収にカタルシスも何もなかったことには逆に驚いてしまった。
続きはもう読まなくていいやと判断した。
唯一、リーク双貴国のキキとカレンのエピソードだけは鮮やかでとても良かった。
てっきり普通に男の人だと思っていたから若い女の子ふたりなのがとても意外で、キャラクターもいつになく鮮やかで、わくわくした。
全体的に男性キャラクターが多いからか少数派の女性陣は濃いめに出来ている気がする。
女性陣くらいの数で濃度でないと把握が追い付かない。追い付かなくても読めてしまう気がするのがまた始末が悪かった。

講談社NOVELS / 2011.09.11.



高橋弥七郎

灼眼のシャナ / ★★★☆☆

タイトルは知ってるけど、だった本作、たまたま1巻を見つけた為挑戦。
前半は作者の見解がやたら前面に出ている対教師な描写がちょっと凄いけれど、そりゃ違わないか、と突っ込みつつ
その割に文章は冷静な様子に見えて、あまり気にならなかった。
逆に後半のフリアグネ戦でのシャナ、悠二は突っ走り気味なのか流れとしては当然の描写にも関わらずちょっと苦笑。
このお話ならではの単語とか、頑張っているのはわかるのだけれど、何か、しっくり来ない。ラストも映えない。感情移入も上手くいかない。
作者さんがひとりでくるくる回っているようで、小難しい設定がたくさんあるのに何故かどこまでも軽い印象だった。
度々登場する、メロンパンやら何やらを頬張るシャナのシーンは微笑ましくて可愛かった。

電撃文庫 / 2007.10.12.



高山栄子

魔界屋リリー バラの吸血美少女 / ★★★☆☆

思い切り子供向けな児童文学も、たまに読むと妙に可愛らしくて結構楽しめたりする。
最後までは保たなかったものの、半分くらいまでは読みながら素で満足してしまった。
小学4年生のリリーこと野山ゆりは、好奇心旺盛でとびきり元気な女の子である。
彼女が見つけた怪しすぎる店の名前は魔界屋、
そこで貰った赤いバラの花の入った小さなガラス瓶から出て来たのは人間の血が怖いおちこぼれ吸血鬼のマリーだった、な物語。
リリーを先生と慕ったりするあまり彼女に害なす相手に暴走した仕打ちをしたりしそうになるマリーの
何だかズレていてすぐによよと泣いたりするところが、妙に可愛かった。
登場人物や設定の魅力と、単純な流れの筈なのに地味に迫っちゃうマリーの決断やどこかにあるかもしれない魔界屋、にやられた。
身近に子供がいたら薦めたい。

フォア文庫 / 2010.06.13.



嶽本野ばら

エミリー / ★★★☆☆

2007年05月08日、再読。
初読以来避けていたけれど、もう1度読んでから売るか売らないか決めよう、と挑戦した。結論。売る。決定。
星2つにするには退屈でなく、美しい。でも手元に置いておきたくはない。もう読みたくもない。
いらないや、と軽く売ってしまうような本ではなくてただただ、強烈、なのだ。本当に。物凄く。
短編のレディメイドはよくはわからないながら博識な感じの序章。
コルセットは、3編の中で1番受け入れやすい話だけれどいかんせん酷いラスト。卒業の2人の方がまだ誠実だ、と反発を覚える。
見様によっては純愛なのか知らないけれど、結局は不倫に落ち着いてどうする。最後の表題作は1番きれいで1番汚い。
お洋服の描写が物凄くきれいで、それだけでも価値があるのではと途中までは、思うのだ。
でも最初の方で出て来るくるくるシイタケのエピソードだけならまだ、まだ…しも
最後の最後の先輩に呼び出されて、や、ホテルにて、のエピソードに至ってはもう駄目。本当無理。
大体彼は女の子にこんな話するもんじゃないよねと言いながらどうして繰り返すのか。
それらがなければ、ただただ甘いお話だったならばきっと素敵だったのに
残酷な世界、と多少浸っているくらいならまだ、きっと許せたのに、どうしてあんなにも直接的な描写をしてしまうのか。
それに嫌悪するとそのまま、丁寧な一人称の文章もヒロインも、男性目線の著者の勝手な偶像にしか思えなくなってくる。
絵画とかの知識やブランドの名前もやたら俗っぽく見えてくる。きれいと感じたのは幻想?全てががらがらと崩れてく。
純愛なのだと取るべきにしても、…待って2人中学生だよ。有り得ない。褒められる筈がない。
同性愛だろうと異性愛だろうとそんなことはどうでもいい。そういう問題じゃない。
エミリーはホテルで、自分が汚れた処に来てしまったような気がしました、と語る。それは、物凄くわかる。
だってそれはそのまま、きっと、私がこの本を読み進めて読み終えて、感じたことに他ならないから。

集英社文庫 / 2005.07.24.



嶽本野ばら

下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん / ★★★★☆

2006年10月10日、再読。
初読→映画→ロリィタに興味→再読、である。
そんな訳で映画との違いを改めて感じたり(どっちもすき)、BABYの名前が出て来るだけで甘い幸せな気分になったり。
やっぱりお洋服の描写が愛に溢れていていいな。凄く真っ直ぐな青春小説。ヨーヨーの件の桃子、すきです。
綺麗な夢に彩られた描写と、お間抜けなギャグタッチの微笑ましいやり取りと、バランスも絶妙で、大すき。

小学館文庫 / 2005.07.18.



嶽本野ばら

下妻物語 完 ヤンキーちゃんとロリータちゃん殺人事件 / ★★★☆☆

何故いきなり殺人事件なのか、とつい突っ込みたくなる完結編。
乗っていたバスで起こった殺人事件で、イチゴが疑われて
まあ桃子は相変わらずだからイチゴが犯人ですねそうですよ、みたいな発言を刑事さん相手にもかましたりする。
どこまでもふざけた彼女は肝が据わっていて素敵。
事件そのものは、冗長だった。
真相はそりゃないよだし、トリックもそりゃないよだ(って言うと名作に失礼なのかな、名前しか知らないのだけれど)。
新キャラで出張っているジャスコの警備員でヤンキーなセイジさんがどうにもすきになれなくてちょっとつらかった。
だから、ラストで明かされたことは更につらかった。
その後の恋文としか思えない告白でちょっと復活したけれどもだって馬鹿はひとりで充分でしょう…!
イチゴに加勢する馬鹿が更にとか頭痛くなるよ。。イチゴはいい、でも単品でお願いします。
とりあえず事件は置いておいて、桃子の決心が良かった。
やっぱり前作のあれのが無理があったのだなって思って変化にほっとした。
桃子の勝手で性格の悪いところがとてもすきだ。真っ直ぐに悪くて爽やかで潔くて、だから悪い悪い言われてても清々しくなる。
真相、の時のイチゴのボケは最強だった。いいボケだった。
それまではセイジもいるし若干寒いっていうかあっそうだったのだけれど、ラストのあのでっかいボケはこれまた清々しかった。
点(、)の打ち方が独特で、只でさえ長めの文章の意味が更にわかりづらいのはやっぱりマイナス要素だけれど
桃子がその時々のBABYのお洋服やら小物をいちいち細かに説明してくれるのも健在で、微笑ましかった。

小学館 / 2008.09.26.



竹森千珂

金色の魚 / ★★★☆☆

私が本を選ぶ時の基準のひとつ。タイトルの字体が素敵か否か。
読み初めてすぐは独特の文章に違和感を覚える風だった。何せ台詞が台詞として書かれていないからややこしい。
けど、しっぽの描写とか、ラットルスネイクのおばあさんとのやり取りとか、セピアの、外国の、写真みたいで妙に惹かれた。
前半がすき。後半はやっぱりちょっと苦手。良くある不快な感じではなかったのだけど。段々と読みやすくなっていったけれど。
でも最初の頃の難しい、連想ゲームのような、高尚な雰囲気の方が美しい、じゃない?少女の「私」がすきだから。
いろんな引用、わかったら素敵だなと思った。私にも通じたのは三分の一あったかどうか。まだまだだ。

朝日新聞社 / 2006.10.01.



多崎 礼

煌夜祭 / ★★★☆☆

第2回C★NOVELS大賞受賞作。
海が有害で、蒸気で浮かんだ沢山の島がある世界の、語り部の話。
小夜啼鳥の仮面と頭蓋骨の仮面を付けた2人が順に語り合う物語の話。
御伽噺の類でなく現実に起こったことを語り継ぐ語り部の語る話と
それらが起こったのと同じ世界に住んでいる語り部本人のリンクが面白かった。
でも1人の登場人物に名前がいくつもあったりするものだから繋がりを把握しようとしたらキャラの多さもあって翻弄された。
冬至の夜には人を食べたくなる魔物を魔物って括りで語られると余計にややこしくなる。
淡々と語られる、賢いリィナの故郷を沈めたことをはじめとする罪の過剰じゃない魅せ方が良かった。とても映えていたと思う。
お話を聞いている間は食欲の消える人から生まれる人型の魔物の恐ろしいのに儚くて美しい様とか
死ねない彼らの人食いに対する葛藤と傍から見た時の凄まじさのギャップも良かった。
自然体なファンタジーさにさり気なく芯が通っているところもすき。
静かに胸を打つラストがとても素敵で4つ星もちょっと考えたけれど、ややこしさの為3寄りの3.5と判断。再読とかしたらより楽しめそうだ。

C★NOVELS / 2009.05.25.



多崎 礼

〈本の姫〉は謳う1 / ★★★★☆

デビュー作で前作な煌夜祭よりベタになった気はするけれど全体的にしっかりパワーアップしていて嬉しい。
キャラクターがいちいち立っていてそれがラノベっぽいと言えばそうなのだけれど
真っ当なRPGみたいな物語に浮ついたところがなくて、シリーズ物の1巻なのに無理なく入り込めて、とても楽しめた。
主人公は身体を奪われて本に宿ることになった姫と共に
大陸中に散らばる、世界を蝕む文字(スペル)を回収する旅をしているアンガス少年。
姫が歌うことで文字は姫の本に回収される。それによって姫は記憶を取り戻していく。一方アンガスは自分のでない記憶を持っている。
同時進行で語られるのは、恐らくは遥か昔の、聖域で生まれる前から悪魔の子と呼ばれていた俺と
彼を守り世話するガブリエルや歪んだ天使たちの物語。全く違う雰囲気なのにしっかり反発せずに収まっている。
とにかく登場人物がいちいち魅力的で、特に賞金首を弟に持つジョニーと女だてらに首長なローンテイルは素敵だった。
説教好きで偉そうな姫もローンテイルにへんな対抗意識を燃やしたところとか可愛かった。

C★NOVELS Fantasia / 2009.07.18.



多崎 礼

〈本の姫〉は謳う2 / ★★★☆☆

アンガスの物語と聖域の物語が大分繋がるようになって来た第2巻。
忘れ病の母との再会とかエイドリアンがセラに語るアンガスの過去とか、色々詰まって進む。
セラの女性への変貌がちょっと淋しかった。終盤で明らかになった口調には脱力した。
ああいうわざとらしいキャラ喋りは彼女のイメージと一致しない…。
RPG風味も前巻より強調されているように感じたし
地上に落ちてラピス族にアザゼルという名前を貰った、聖域の俺サイドの物語との繋がりがややこしくて
同じだけど違う共通の登場人物もややこしくて物語の進む方向の理由部分もややこしくて、読んでいて、ちょっと勢いとかが落ちた。
インディゴの染色の為の泥炭の真相の辺りは引き込まれた。自動人形のアークが健気で可愛くてすき。

C★NOVELS Fantasia / 2009.08.10.



多崎 礼

〈本の姫〉は謳う3 / ★★★☆☆

声と記憶を取り戻したセラの無事を伝えるべく彼女の故郷へ向かうアンガスたち、から始まる第3巻。
セラとアークがドタバタしてたり、ウォルターが仲間に加わったりしつつ全体に漂ううさん臭い宗教臭が合わなかった。
そこに説得力があればまだいいのだろうけれど
セラがうたったら皆改心しました、の描写がどうにも薄っぺらく思えて歌詞を何度も繰り返されると余計に、残念な感じ。
前巻で明らかになったセラのキャラ喋りもやっぱり違和感だし、共感も出来ない。
過去を涙ながらに語った直後にアークに乙女の告白の邪魔するなとか計算高いみたいで嫌だ…。
もっと聡明で真面目な子だと思っていたんだけどなあ。
スペルを撒いた張本人だった姫とか、俺サイドのリグレットの動きはぼかされた本筋って感じでいい意味で気になった。
全体としては、決まったことを事務的に消化しているようないい意味でなく淡々とした展開ぽさが強くて
巻を追う毎にいまいちになっていくのを悲しく感じたけれど、次巻は最終巻だし、それらがせめて中弛み現象だといいな。

C★NOVELS Fantasia / 2009.11.06.



多崎 礼

〈本の姫〉は謳う4 / ★★★☆☆

前半では少し持ち直したように感じたりもしたけれど総合するとやっぱり残念なまま、挽回してはくれなかった。
アンガスサイド、俺サイドに加えて私サイドの登場した今巻は
レッドが最後にド派手にバニストンで事件を起こし、それがアンガスにここへ来て不戦を捨てる決意をさせる。
盛り上がりどころだと思うのに、今更感が拭えなかった。
散々それでやってきておいてその程度の覚悟だったのだとか言わないで欲しい。そもそもきっかけが弱い。
側にもっと原因になれそうな人がいるのにそこはしっかり守られて安全なのが不満。
描写もその辺りは細かく書き込まれた感じじゃなかったから共感出来なかった。
セラの口調についてはなんちゃってお嬢なですわ調は受け入れられるようになって来たけれど
ふいにのだわ調になるからやっぱり最後まで馴染めなかった。
セラ流の丁寧語とタメ口の差なのかなって思っても
あまりにも違和感がありすぎて文法的にも目茶苦茶感が更に満載で最初は思わず誤植を疑った…。
地の文の、文章になっていないようなところも、気になり始めるとつらい。
いい意味でなくベタだから、物語そのものを難しいと言いたくはなくて、
でも最後まで色々どうにもややこしくて、趣味の本、って感じがした。何ていうか、独り善がりの雰囲気を感じてしまった。
爆発する建物とか燃え盛る街とか崩れて行く聖域とか
そういう景色の描写は特別な風ではないのに読んでいて音まできこえそうで良かった。
メインの人間模様その他より、そういう部分の方が私とは相性が良かった。
セラとアンガスが本を開くラストシーンも素敵だった。このシリーズで久しぶりにわくわくした。
記憶は薄れているけれど、多分1巻はあんな雰囲気だったのだろうなと思う。
特殊な本があって、その本がすきな人がいて、基本がそれだけの時の方が良かった。
平和な世界とか、憎しみは憎しみしか生まないとか、そういう方向へ進まなければもっとすきでいられたかもしれない。

C★NOVELS Fantasia / 2009.11.22.



日明 恩

ギフト / ★★★☆☆

過去の出来事への自責の念から全ての娯楽を遠ざけている元警察官の横須賀と、彼の出会った幽霊の見える中学2年生の明夫の話。
話の本筋が、イヤホンをつけて足元だけを見るようにしてレンタルビデオ店のホラーの棚に来ては毎日立ち尽くして泣く明夫、な
冒頭から受けた印象と大分違って驚いた。
幽霊の話というのがまず意外で、でもガックリな意外性じゃなかったから嬉しかった。
自然体で優しくて、ぽかぽかした話だ。
ひょんなことから横須賀は明夫と顔見知りになり現世にとどまる幽霊の為に動くようになる。
信号の危なさを伝えるおばあちゃん、虐待を受けていた犬、
成長して年上になった弟を守りたい7歳の姉、幸せになりたかった狂言自殺者、横須賀の過去からの解放の全5話。
はじめの3話にとても引き込まれて当たりだと思っていたら4話目のそれまでとのタイプの違いに戸惑って
5話目では自分が悪いの競い合いに萎えてしまった。
特にあまりにあっさりな狂言自殺者には、反発ではないもののもうちょっと彼女の為に何かしてあげてもと思ってしまった。
亡くなった時のまま現れて、見えるとわかると付き纏われて、ひたすら自分の主張を繰り返される、っていうのが妙にリアルで胸に迫った。
暖かくて幸せな、わんこの話が特にすき。横須賀のかつての上司との電話と、染み付いた彼の教えの描写が、凄く良い味だった。

双葉社 / 2010.07.27.



日明 恩

それでも、警官は微笑う / ★★★☆☆

第25回メフィスト賞受賞作であり、デビュー作である。
登場する刑事コンビは踊る大捜査線が呈示した警察改革の継承者、な紹介文に興味を引かれて手に取った。
怖い顔で不器用で冷静な武本正純巡査部長と、上司でありつつ武本を先輩と呼ぶ子犬みたいな潮崎哲夫警部補と、
麻薬取締官で獣医な技官の宮田剛が、元中国人な林徳彦と違法な銃の事件を追う話。
援助交際をする女子高生があっさり殺されてしまった辺り、
押し付けがましくない危ないんだよって優しさが透けて見えるようで好印象だった。
宮田が林を追うことになった理由であるところの聡子の言い分には絶句した。
宮田目線に当たり前に添っていたから驚いて、意外で、思わず裏切られたような気がしてしまった。
嫌な人、或いは病んだ人としか取れなかったけれど潮崎の優しい反応を見るとそんなことはないのかなあ。
キャリアじゃないけど家の力の大きい潮崎のよく喋るキャラクターがとても素敵だった。
後半は特に、あんな風に真正面から素直に泣かれたら感情移入せずにはいられない。
本庁と所轄の力関係や潮崎に踊るを思い出しつつ全体にそれよりかなり硬派な雰囲気だったと思う。
キャラクターの多さはちょっとつらかったけれど、メインの3人の立ちようを楽しんだ。

講談社 / 2010.08.29.



タナダユキ

百万円と苦虫女 / ★★★☆☆

どこにいても所在ない思いをしていて、ならばいっそ所在そのものをなくしてしまうことにした佐藤鈴子の物語。
具体的には、一ヶ所にとどまらず、百万円が貯まるごとに引っ越してしまう。
新しい環境でバイトを見つけて働いて、また引っ越す、という繰り返しの生活をする。
映画版を先に観た。この本が原作の筈だけれど、ノベライズ本なのではと思うくらい映画版は本に忠実だし、本は映画的な作りだった。
三人称形式とはいえ、同じ纏まりの中で映す部分をコロコロと変えるのは珍しいと思う。
でもそういったことからも独特の距離のある作風になっていたのかな。不思議な距離感は嫌いじゃなかった。
きれいな淡いグリーンの似合うような淡々とした雰囲気も映画同様心地好かった。
暫くいればその場所で出会った人たちと余計な繋がりやしがらみが生まれる。
嫌な感情にさせる人たちばかりではないけれど(桃畑のおばあちゃんは当たり前みたいに偉大だ…)
鈴子がコミュニケーションを取るのがへたなせいか、中々上手くはいかない。わかり易く駄目な部分がある訳でもなさそうなのに。
いきなり前科者にされ、所在をなくす決心をし、海ライフ、桃ライフ、花ライフ、と進む。
桃娘のエピソードの理不尽さはかなり苦手なタイプのものでつらかったけれど、それ以外はどれもサラッとした描写で良かった。
上手くやっていけない鈴子も、へんな執着はなく書かれている。
姉弟の繋がりを軸のひとつにしている意外さと、鈴子自身の格好良いと言う程ではないけれどやっぱり格好良い寄りなドライさがすきだった。
前向きな諦観というか、後ろ向き故の行動力というか、が不思議な爽やかさを纏っていた。

幻冬舎 / 2011.08.10.



谷川 流

涼宮ハルヒの憂鬱 / ★★★★☆

かなり乗り遅れだが、ハルヒ。噂のハルヒ。アニメのブームは凄かった。
図書館でも何となくリクエストしてから暫く経ってやっと辿り着けた。今でもしっかり人気らしい。
待ったかいは、あったと思う。傍若無人なハルヒさんも勿論だけれど何よりキョンがいい。
全編通して彼の一人称で語られるのに飽きさせず中弛みもせず、良いスピードで進む。
ハルヒさんの秘密は確かに飛んでいるけれどそれより長々としたキョン目線の文章がいい。
朝倉涼子があっさりでびっくりして、長門とみくるちゃんもやたらあっさりで逆に勿体ないかもと感じたくらいで
だからとにかく、内容なんて二の次で、キョン目線の料理の仕方が上手いなと思った。
あとがきを読むと、著者はああいう文章が素なのかな。いいノリ。
だけど、編集部の解説は余計。久しぶりにああいうもので苛っと来た…。あとがきで普通に締めれば良かったのにー

角川スニーカー文庫 / 2007.11.22.



谷川 流

涼宮ハルヒの溜息 / ★★★☆☆

時間軸バラバラで進行するシリーズ、なんだっけ。今回、憂鬱からいきなり半年後に飛んでいてビビった。
舞台は秋、学園祭編。自主制作映画「朝比奈ミクルの冒険 エピソード00」を撮るの巻。
前巻より作品全体の持つ勢いは少し落ち着いてしまったかなと感じたけれど
ストーリー展開や何かは少しずつベタから離れつつある印象。
やたら元気な鶴屋さん初登場で賑やかさも増しつつ、みくるちゃんとハルヒのやり取りに可愛いなぁと笑ったりしつつ。
エピローグでキョンくんが感じている大人しい長門さんとか、らしくない古泉くんの言うみくるちゃんの嘘、とか
先の展開が気になる部分も、出て来始めた。
あの雰囲気は壊さないまま、ぐいぐいなエピソードを組み込んでいって欲しいところ。これからに期待。
夢オチ以外のオチ、のハルヒさんがやたら可愛かった。

角川スニーカー文庫 / 2008.01.11.



谷川 流

涼宮ハルヒの退屈 / ★★★☆☆

星2.5よりの3、かな。 初の短編集なのはいいもののひたすら癖がなさすぎる。
このシリーズから癖を抜くと無味無臭になると個人的には思う訳で。 次巻以降?で挽回してくれることを願う次第である。
メインタイトルにもなっている〜退屈はSOS団野球大会に出るの巻。 野球知識がない為個人的につらい。すまん。
みくるちゃんの使えなさは異常。いや私も似たり寄ったりだけどもあれは心意気があかん!
ハルヒとみくるちゃんに懐くキョンの妹が可愛らしかった。
というか彼女は名前もないのにいちいち要所で可愛らしい。孤島〜のスポーツバッグとかベタだけど書き方込みで可愛かった。
続く笹の葉ラプソディはそのまま、七夕話。そしてタイムトラベル。〜憂鬱に繋がるエピソードはちょっとトキメキ。
ミステリックサインは喜緑江美里嬢のご登場。1話のみゲストっぽいけれども。
幸い件の虫を私は知らず、挿絵もわかりにくく、 おかげで寒気は免れた。ラストシーンの長門はベタだが萌え。
トリで最長の孤島症候群は合宿でクローズドサークルで殺人事件。
トンチキな第二推理に思いっ切り惑わされたのはこのわたし。みくるちゃんの扱いが気になった。何か意味があったりしないかな?ない?

角川スニーカー文庫 / 2008.03.30.



谷川 流

涼宮ハルヒの消失 / ★★★☆☆

クリスマスも近い12月の3日間、
冷静沈着な長門の大暴走と傍観者だったキョンの変化の巻。
取り残されたキョンはひたすらハルヒ、ハルヒ、ハルヒ、で、それどころではないのだけれど、何だか微笑ましくて愛しい。
ハルヒも少しは報われるってものだ。どっちも物凄ーく淡いけれどそれが可愛くてすき。
とはいえさすがにちょっと飽きてきたかなーと感じていた。
それを覆したのは世界を作り替えてしまった犯人に対するキョンの主に、モノローグだった。
変わった世界の元団員たちと元の世界の団員のどっちがいいのか、的な逡巡はぶっちゃけいまいちよくわからなかったのだけれど
ベタながら、キャラの魅力がじわじわと効いてきた感じ。ビックリなことに続・長門萌え。自分で意外だ。

角川スニーカー文庫 / 2008.05.01.



谷川 流

涼宮ハルヒの暴走 / ★★★☆☆

夏、秋、冬の短編集。
繰り返される夏休みなエンドレスエイトは約600年も繰り返していた長門、
復讐に燃えた隣人と宇宙でバトる射手座の日は負けず嫌いな長門、
吹雪の雪山で館に閉じ込められる雪山症候群は倒れるまで人知れず頑張っちゃう長門。
ひたすら長門有希である。相変わらずキョンは朝比奈さん萌えだけど彼女は楽観的すぎて軽く空気。
ハルヒは何かあったの?のシーンが素敵だったけれど長門だらけには敵わない。
それくらい、地味な筈の長門がやたら印象に残る話の連続だった。
キョンが気にしているからな訳だけれどそれにしてもぶっちぎりだ。
最後のお話は真相までは行っていないしまだ捨てずに続きも読まなければ、かなー。
今までにあったことを語る時にさり気なくその回のタイトルの単語を入れるのが、
つまり溜息にまみれた映画撮影とか、そういうあれがすきだ。

角川スニーカー文庫 / 2008.05.06.



谷川 流

涼宮ハルヒの動揺 / ★★★☆☆

久々のハルヒはぶっちゃけちょっぴり飽きて来た。
星2個にすることも途中考えたのだけれど最後の話での本筋に触れていそうな伏線に思い直した。
ライブアライブは文化祭当日の話。バンドがSOS団全員でじゃないところが意外でいい。人助けしてるハルヒさんも微笑ましくて良かった。
朝比奈ミクルの冒険 Episode 00は例の自主制作映画もどきの撮影風景じゃなくて内容を
相変わらずのキョンくん目線な文章で淡々と紹介する話。どーしよもないのが多分味。
ヒトメボレLOVERはやっぱりメインヒロインは長門なのかと思わせる話。ラストでぽつねんと呟かれる長門の一言が映えている。
ここでのキョンくんはひたすら長門派。
猫はどこに行った?は古泉一樹の贈る推理ゲームウインターバージョンな話。
最初からお芝居ですよと打ち明けた上での推理劇。推理しようって気になれなかった原因は、まあ、私と本と半々…かと思う、多分。
朝比奈みくるの憂鬱は、このエピソードで星2つを免れたキョンくんみくるちゃんなんちゃってデート話。
でもこの辺でキョンくんのでれでれっぷりに苛っとしはじめた。この話では完全にみくるちゃん派。
というかメインヒロインの筈のハルヒにいちばん興味がなさそうなのってどうなんだろう。。
良くも悪くも普通の男子学生、なのかどうにも自分を必要としてくれそうな女の子に弱い…というか
そういう子をむしろキョンの方が求めている様があまりにもあからさますぎて、ちょっとつらい。…ぶっちゃけ鬱陶しい。
これの次の巻はもう予約してあるのだけれど、その更に次からについては少し借りるのを考えてしまった。
ここまで来たら、もうちょっと頑張って欲しいところだ。

角川スニーカー文庫 / 2009.01.10.



谷川 流

涼宮ハルヒの陰謀 / ★★★☆☆

表紙がみくるちゃん。でもって中身もみくるちゃんな久々1冊丸ごと1エピソードの長編である。
大人しいハルヒさんからはじまり、ちょっぴりおさらい的にまた過去に行き辻褄を合わせ(懐かしかった)、
そして続く本編は、8日後の未来からキョンくんに言われてやって来たみくるちゃんから始まる。
がしかし当のキョンくん(現在)はみくるちゃんのやって来た理由がわからず、
そこへ届けられるみくるちゃん(大)からのRPG的おつかい指令群のお手紙。
それらをひたすらみくるちゃん(8日後)とクリアする話、である。
クライマックスの新手の敵のベタな行動にはそれでもドキドキさせるだけの引力があったし
大人しいハルヒさんのオチも予想していなかったものだったから大いに頬が緩んだ。珍しくハルヒさんにヒロインを見た。
可愛いなあつんでれ。著者の隠し方もナチュラルでお上手。全然気付かなかった。私が鈍いだけかもだが。
鶴屋屋敷と鶴屋さんのお家着にときめいて、森園生さんのすんごいらしい笑顔にもときめいた。
見たいよー、可愛いの見たいし後者は腰抜けてもそんでもいいよ見たいよー
長門の雪解け水の比喩も久しぶりできゅんとした。
線一本でさらりと上手く動かす彼女に惚れ惚れしたり、
みくるちゃんには女の子ファン(しかも意外に下級生)もいるのかーとか微笑ましくなったりつつ、時間移動は本当ややこしくて、
それを一々細々と、しかも作中時間も行ったり来たりしながらで書き切る著者は、やっぱり凄いなあと思った。

角川スニーカー文庫 / 2009.01.17.



谷川 流

涼宮ハルヒの憤慨 / ★★★☆☆

久しぶりだからか、キョンくんの誰もわからずとも俺だけは長門を理解してるぜ☆っぷりがちょっと鬱陶しかった。
多分保護者っぽい心境なのだろうと思うけれどそれでもちょっと過剰じゃないか?
編集長★一直線!はSOS団が生徒会長に言われて文芸部的に会誌を作る話。
再登場している喜緑さんが後方に楚々と控えているのに存在感があってイラストのほわんとした可愛らしさと相俟って和んだ。
天才鶴屋さんも素敵。あの人は何かと美味しすぎる。
みくるちゃん作の童話のふいに飛び出すもろにみくるちゃん口調な本人の感想も微笑ましかった。
ワンダリング・シャドウはクラスメイトAの犬と幽霊騒ぎの話。阪中さんのなのね口調が何か気になった。
個性的なんだか地味なんだか、何とも計り知れない生徒Aって印象。みくるちゃんの阿呆っぽい般若心経に和んだ。

角川スニーカー文庫 / 2009.04.04.



谷川 流

涼宮ハルヒの分裂 / ★★★☆☆

驚愕へ続く、となっているけれど件の驚愕って確か発売延期してもう暫く経つのだよね。ついに既刊読破だ。追いついてしまった。
進級したSOS団メンバーと、入るか否かの新1年生がいっぱいな春。
新キャラ2人と再登場キャラ2人からなるSOS団モドキ的に動く4人組が、新しい風を入れている。新鮮。
佐々木さんがすきだ。見事に騙された。イラストが可愛い系で意外。
中盤からは展開が α と β に分かれて、つまり恐らく分裂している。
基本部分は変わらないのに小さな出来事がきっかけで段々とズレが大きくなっていく感じだろうか。
けどこの巻では渦中のキョンは気付いていないしだからそれについては何も語られていない。となるとやっぱり次巻が気になる。
原因と思われる佐々木他とキョンを目撃したハルヒの単純じゃないらしい心境は、単純な意味でわかる気がした。

角川スニーカー文庫 / 2009.04.05.



多和田葉子

球形時間 / ★★★☆☆

妙に理屈っぽいサヤと同性愛者のカツオをメインにしたよくわからない話。
サヤだけでなく全体的に理屈っぽい。品もない。でも淡々としてもいる。
サヤが喫茶店で出会ってちょっとお話したりした老婦人のイザベラさんの正体にドキッとした。
でもそのまま放置で終わってしまって残念。終盤のナミコの事情にもドキッとしたけど、結局よくわからなくなってしまって残念。
壁に埋まるって展開も、登場人物それぞれの終着点もわからない。
読み易くはあったけれど、結局何の話なのか輪郭が曖昧で掴めなかった。

新潮社 / 2009.06.11.



多和田葉子

ヒナギクのお茶の場合 / ★★★☆☆

独特すぎる短編集。
基本的に文章はシンプルで、そうでない場合もちゃんと入り易いのに物語がどれもサラリと自然にひたすら個性的。
枕木、は外国の電車に乗っているワープロを持った女性小説家の話。
雲を拾う女、は悪魔に体を取られた(わたし)と魔女みたいなコウモリの話。
これは独特さが分かり易かったから世界として受け入れ易くていちばんすきだった。
表題作はわたしがハンナについてひたすら語る話。
目星の花ちろめいて、は何人かの作家が順番に書いた、みたいな印象を受けた。
コウモリの名前が出て来たけれど男の人らしい。よくわからない。
所有者のパスワード、は本を読んでいないと日々を過ごせない女子高生の話。
小説を脳内で漫画にする、って作業は漫画家さんの職業病みたいだなと思った。
前に読んだ同著者の本もそうだったけれどこの本では更に、本当にどこまでも掴み所のない風になっていた。
文章は理解出来るのに書かれていることを飲み込めなかったり
その場では何となく朧気に見えていても時間が経つと霧散したり。水みたいに自然な個性だと思った。

新潮社 / 2009.07.01.



辻村深月

凍りのくじら / ★★★★☆

人を馬鹿にしすぎる理帆子と、ドラえもんとお父さんの、優しいお話。
父親が有名な写真家で、今の理帆子は二代目芦沢光である。先に読んだスロウハイツに出て来た芦沢さんは理帆子かな。
本編は理帆子が高校生の頃のお話。頭が良くて、雰囲気がとても大人っぽい。
最初は今の、社会人の理帆子の話だと思ったくらい。
当時の彼女のお気に入りの遊びは、藤子・F・不二雄先生の遺したぼくにとってのSFは少し不思議なのだという言葉を受けて、
周りの人の個性をスコシ・ナントカに当て嵌めること。
章タイトルにはドラえもんの秘密道具があてられていて、作中ではそれらが比喩によく使われる。
大人っぽい理帆子のドラえもん、大好き、ってモノローグがすきだった。不似合いで可愛くて。
少し・腐敗である若尾は痛かった。多分私は自分を重ねた。だから苛つくより怖かった。
理帆子の、そしたら助けてあげるから、はちょっと響いてしまった。間違っていると思うから苦いけれど。
若尾が本格的に壊れ始めた辺りから物語は勢いを増す。一方で汐子ママの写真集のメッセージには泣きそうになった。
お母さんって凄い。あんな風にも出来るんだって。
別所の言う厳しいことは、理帆子みたいに落ち着いて受け入れられなかった。
反発はしなくていいけどそもそも痛く感じない理帆子が不思議。
郁也は愛しかったし、全身でおばちゃんを表しているみたいな家政婦の多恵さんが大すきだった。
ああいう雰囲気の人って苦手に思いがちなのだけれど多恵さんのナチュラルな優しさは素敵すぎる。
こういう人、ってそのまま書いて決めがちっぽかった作者さんだけれど、今回はスコシ・ナントカがそれを上手く淡くしていて
メインの登場人物がわざとらしくなくしっかり立っていて良かった。
別所の少し・不思議な真実は、一番の見せ場だけれど
そのちょっと前で少し日を置いてしまったせいかそれまでから浮いているように感じられた。
でもその優しさは嫌いじゃなかったし、何より否定したくない。
私にとってドラえもんは小学生の頃通過した1アニメに過ぎないのだけれど、四次元ポケットの章の道具説明を読んで、ふいに
のび太くんがそれを通ってドラえもんを助けに行くシーンを思い出してしまって、何故か無性に、泣きそうになってしまった。
その時、ドラえもんは海に捨てられているのだ。確か、映画で、「ブリキの迷宮」。…多分。
ドラえもんの優しさってこういうことかなって、物凄くあやふやなのだけれど根っこを感じられたような気がした。
真っ正面からじゃなくて、だけど妙に真っ直ぐな風に、優しい話。
ドラえもんを優しいと言い切る参考資料の一文を見て、それとこの本の本質って似ているのかもと感じた。

講談社NOVELS / 2009.05.01.



辻村深月

子どもたちは夜と遊ぶ(上) / ★★★★☆

最初は相変わらずの登場人物紹介をする描写とか文章の癖がいまいちに感じたけれど
それらが消えて引き込まれるのがこれまで読んだ同著者の作品の中で早い気がした。
殺人事件が起こる。連続していく。
その犯人の片割れが分かり切っていて、彼の心情が始めの方から既に明かされて描かれているのが新鮮だった。
そこに推理は入り込みようがなくて、でも片割れは謎に包まれているからその点はちゃんとミステリ。
わかっている方の殺人鬼な彼が、他の登場人物と一見普通に過ごしているのが非現実的な雰囲気を醸し出していて良かった。
でもそれよりも凄まじかったのは殺人現場の惨い描写と残されたメッセージの拙い中の不気味さで
ミステリなのにホラー染みていてつい背後とか気にしちゃって怖かった、けどその分引き込む力も強くて、でも怖かった。
同じ大学に通う男女な面々と何だか妙に魅力的な秋山教授と、彼らの近くで双子が起こす復讐劇。
派手で我が強くて子供好きで打たれ弱い月子、がいまいち1人の人間としてしっくり来なかった。
どうにもちぐはぐに感じられた最初の印象をそのまま最後まで引き摺ってしまった感じ。
身近な殺人鬼に、戸締まりしっかり気をつけよう、とかそういうことを自然に思わせられるような妙なリアルさのある作品だった。

講談社NOVELS / 2009.09.08.



辻村深月

子どもたちは夜と遊ぶ(下) / ★★★☆☆

最初に巻末の参考文献が不注意で目に入ってしまった。
そこから真相のひとつが容易に想像出来てしまって、実際その通りで、自分の馬鹿って気分。
でもそれ以外にも真相は2つ用意されていて、そこで驚けたのは嬉しかった。
特に上原愛子の存在は不意に思ってもみなかった方向から投げられた感じで良かった。
メールで再会した双子の兄弟の殺人ゲームの終結。
被害に遭わないと思っていた人がしっかり贔屓されずに被害に遭ったのが意外で良かった。
上巻のあらすじにあった、でも上巻では殆ど触れられていなかった片思いの連鎖も映えていた。
ただ、頭が良くて人を馬鹿にする女の子を気高いとか言っちゃって脆いとかヒロインにしちゃう人の存在が、
ああ辻村さんだなあってちょっぴり思わせてくれちゃって、そこはあまりすきになれなかった。
今回は男の子もそういうタイプがどんっといる。辻村さんの嗜好なのかなあと思いつつ、私は首を傾げちゃう。
秋山教授と真紀ちゃんなんかは昔のお化け教室の事件があるからしっかり存在しているのに
恭司だけ最後までしっかり出て来る割に確固たる存在理由がないのが少し気になった。
あやふやだけれどどっか別作品にいたような気もする。だからだろうか?

講談社NOVELS / 2009.09.14.



辻村深月

スロウハイツの神様(上) / ★★★★☆

冷たい校舎〜に続き群像劇だけれど当時よりずっと洗練されていて嬉しくなった。
1人1人を紹介していくような構成は相変わらずだけれどスロウハイツの住人の紹介だから違和感はない。
変に飾らないシンプルさも素敵。
何とも凄まじい強さを持った脚本家で家主の環と漫画家、映画監督、画家それぞれの卵、人気作家のチヨダ・コーキとその編集者、
プラスこの巻の後半で加わる黒ロリな自称小説家、彼女の前は環の親友の漫画家の卵、の日々。
真っ正面から書かれた小説を模倣した大量殺人事件が痛い。
コーキの天使ちゃんの手紙には書かれていることはベタなのに何だか泣きそうになってしまった。
色々問題のある環は割とすきで逆に莉々亜ちゃんのしたたかさと謎っぷりが恐い。見た目はすごいすきなのにちょっと淋しい。
でもああだからこそ味があって、作中にああいう子がいるっていうのは単純にすき。
読み終えてまず、下巻が早く読みたいなって思った。嬉しい。

講談社NOVELS / 2009.03.28.



辻村深月

スロウハイツの神様(下) / ★★★★★

文章の粗が上巻より見えるようになってしまった。
妙な説教臭さにもいまいち納得出来ないというか頷けないというか釈然としないものを感じた。だけど、文句なしの4つ星!
自立しようとするスーの、なのに色々悪化していく様がやるせなくて腹が立って
舐められているそのままな方がマシだったじゃないかと思ったりしたけれど、彼女に対する環の一生懸命さにやられた。
突き詰め出すと物凄く苦手だって思うスーが彼女を通すと何だか愛しくなったりするから不思議だ。環はあんなに散々言っているのに。
すんごく大事に思っている癖に必要以上に歯に衣着せぬ物言いになっちゃう環は、焦れったいというか何というか、じたばたしたくなる。
偉そうでどうにもどっか困った人の印象で、とにかく強くて、なのに小さな子供みたいに常に必死なのが痛々しい。
読んでいてたまに視点が定まらないというか、一人称形式ではないけれど確実に目線としてある「私」は誰?って
混乱することが何度かあったのにはちょっと困った。群像劇ってこの人誰だっけ以外にもそういう難しさもあるんだなあ。
けど何よりとにかく最終章とエピローグが素晴らしすぎてもう余計なこと全部丸ごと投げ出して大すき!って叫びたい。
語られている内容もその一連の流れも最終章からラストまでの全てが本当に素晴らしい。
こんなに無駄がなくて真っ直ぐに届く隙のない終盤って中々ないと思った。
天使ちゃんの正体の件とただのとぼけた人じゃなかったコウちゃんにとても掴まれた。
ストーカーしてるコウちゃんが微笑ましくて、これまでひたすらクールだったのが崩れた黒木さんが可愛すぎて
ずっと見守ってくれていたのだって事実が嬉しくて、その距離が愛しくて、良かったね…って泣きそう。
へろへろな神様と、彼を支えた天使のお話。
あらゆる物語のテーマは結局愛だよね、っていう全てを表した言葉がとてもナチュラルにすとんと胸に落ちて来て
本当に素敵なラストだった。

講談社NOVELS / 2009.04.02.



辻村深月

V.T.R. / ★★★☆☆

スロウハイツ〜に出て来た作家チヨダ・コーキのデビュー作、という設定のせいかはじめは稚拙さが目について(わざと?)
頑張って大人ぶっているみたいな描写とも相俟って(これは割といつもな印象)いまいちに感じていた。
スロウハイツのあの子はこれがすきだったの?なんて思ったりして。
でも読み進めるうち慣れもあったのだろうけれど入り込めるようになって来て
壊れかけのロボットなペロッチの可愛さにとっても和んでいたらアールの辿り着いた場所に衝撃を受けて、
明かされたティーにやられた、と思った。
掴みは良くなかったのだけれど、やっぱり辻村さんって良いのかもなあ…。
鼻につく点もしぶといから言い切るのは少し悔しい気もするけれど。
具体的には相手のすきじゃないところを語る時にリアルすぎるとか、頭の良さに対する固執とか。
怠惰にヒモ生活を送るティーに元恋人なアールから電話がかかって来るところからはじまる物語である。思い出と、今のアールを辿る。
罪に問われない殺し屋たちと、そのうちの一人で伝説のようになっているトランス=ハイと
彼に傷を与えられたティーの友人たちと、彼の一味を殺して回っているアールの話。
女の子好きでヒモ男なティーが語り手だから銃が出て来てさえどこかのんびりしている。
ただそれは本当に根っから平和なのではなくて、きな臭い裏側の、っていう雰囲気。
ティーはただの臆病者にはどうしたって見えず、妙に落ち着いたどっしり感があったりするから余計に。
何となく、少し西部劇的な印象を受けた。
ティーの、わざと軽くチャラチャラして見せている感じは嫌いじゃなかった。地でもあるのだろうし、あまり屑々していないのが良い。
表紙を見るに若いみたいだけれど私の中ではCV大塚明夫さんだった、である。
登場人物がみんなアルファベットで呼ばれているせいか、把握が若干追い付かなくなる部分があったことがちょっと残念。
罪にならないから償うことをしない、出来ないティーとか、
アールの行動原理にも納得とか理解がいまいち追い付かない部分があったりしたし
それらはまだしも、売春宿のボスをするアールの泣きはどうにも受け入れ難かったりしたけれど
(そこで大事なとか綺麗ぶるのはずるいと個人的には思う。)
スロウハイツは細かくしっかり覚えている訳ではないものの、編集者として黒木さんが載っていることに嬉しくなったりしつつ
何だかんだ言いながら入り込みはじめてからの全体の空気感は丸ごと結構すきで、楽しめた。

講談社NOVELS / 2010.08.06.



辻村深月

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 / ★★★☆☆

母親を刺したとして指名手配されている望月チエミと、逃げ続けている彼女の行方を追おうと聞き込みをして回る神宮司みずほの物語。
普通じゃないくらいに仲の良い家のチエミと、厳しくて、実態は虐待、な家だったみずほとの対比で
前半はずっと母と娘の話なのかなと思っていた。微妙なやり取りはどこの家にもあるのかも、とか感じたりしつつ。
でも読み終えてみたら、嫌いなのにどうしようもなく親友だったふたりの話だった。
オチは、言ってしまえば多分少しガックリ来るタイプのものだ。
でも聞き込み時の印象としては全く甘ったるい雰囲気がなかったふたりの何故だかしっかりと結び付いたところが、妙にすきだった。
全然綺麗事じゃないのに、結局、綺麗になっちゃう。
聞き込みから窺える苦さも、チエミが思い出を甘く語りながら嫌いと言い切るのも
それらがあって尚親友に嘘っぽさを感じさせないのが素敵だった。
30歳のみずほが語ったり回想したりする女の子同士の付き合いや恋愛模様は
へんに当たり前にリアルっぽくて苦くて少しつらかったけれど、後半はそれらも吹っ飛んだ。
チエミが身を寄せていた翠ちゃんがとてもすき。出番が終盤集中で少なくてちょっぴり残念。
始めこそふざけた口調が馴染まなかったけれど、やたら瑞々しくて良かった。
あまりにあけすけな物言いにギョッとして答えるチエミのカマトトじゃなさにもまたギョッとしたりしたけれど
30、だし、当たり前なのだろうか。そういうこと普通に言えるイメージじゃなかったしびっくりした。
みずほの赤ちゃんポストの記事への執着が最初は関係性がよくわからなくて若干浮いて感じたりした。
その分繋がった時にはついほっとしてしまった。
チエミの同僚の及川亜理紗ははじめどう捉えて良いのかわからない描写で戸惑った。
終盤でチエミ目線になってあまりにあっさり描かれ方が決定した時はそれはそれで少し拍子抜けしたりもした。
すきだと思うのだけれど、そういう不安定っぽさが本そのものからも感じられて定まらなかった為3つ星判断。

講談社 / 2010.04.27.



辻村深月

太陽の坐る場所 / ★★★☆☆

高校を卒業して10年な同級生たちとクラス会のお話。
辻村さんの本は当たり外れの差が激しいかもしれないと終盤まで思っていた。登場人物が誰も彼もことごとく醜くて嫌になる。
見栄っ張りで自分をやたら愛していて買い被っていて馬鹿にされることから過剰に自己防衛する。
みっともない女たちの話、と思ったら男までそうでその女々しさに辟易した。
終盤で明かされたことに、辻村さんは本当こういうトリックがすきだなあと思いつつ
私はしっかり騙されていた訳で、だから少し見直して、更にリンちゃんと響子の再会で、もっと見直した。
これは星2つかなあと思っていたのも吹っ飛んだ。
それまでが嘘みたいに作品全体がぐっと明るくなって終わったのがとても嬉しかった。
終盤のリンちゃんの強さと優しさが本当格好良くて素晴らしい。正しさと真っ直ぐさから来る素敵っぷりが尋常じゃない。
同じように正しいと語られた紗江子は紗江子目線の時の醜さが拭えなくて全然響かなかったのに。
響子の酷さは基本過去のことだから苦さは抑え目だった。ひたすら貶めたってそこにまだ立っている奴等の言葉じゃ大して響かない。
それを語っている奴の方が醜いし、リンちゃんパワーもあったのか響子の語りは卑しくなくて良かった。
全体の四分の三くらいまでひたすら続いたあの当たり前に語られる澱みっぷりは何だったの、ってくらい、終盤で印象がガラリと変わった。

文藝春秋 / 2009.07.30.



辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(上) / ★★★☆☆

第31回メフィスト賞を受賞したデビュー作。
だからか文章はちょっと慣れていない感じで、
「そんな」や「そう」の使いすぎと最初妙に登場人物を説明したがるところに、少し疲れたけれど
内容は興味深いし段々と読み易くもなっていって、中盤は星4つだった。
冬、学校に閉じ込められた男女8人の高校生の群像ちっくなお話。
どうしても開かなくなった玄関の扉に窓、時計が止まって、不可解な現象も連続して起こる。
はじまりは2ヵ月前の学園祭で起きた自殺事件である。
何故か思い出せない死んだ級友の名前、8人の中に自殺者が紛れ込んでいるのかもしれないという仮定。
中盤の怖さは凄かった。シンプルで易しい描写なのに背筋が冷えた。
当然のようにクールビューティーな景子さんがすきだ。リカも可愛いと思う。
登場人物のひとりが著者と同じ名前なのには何かしかけとかあるのかなあ。

講談社NOVELS / 2008.09.22.



辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(中) / ★★☆☆☆

上巻みたいにホラー要素で評価が上がることもなくずっと違和感を覚えたまま読み終えてしまった。
今巻ではメンバーがひとりずつ消され始めて彼らのバックボーンが1つ1つ語られていく。
登場人物は多いのに、それぞれの個性も描写されているのに
でもその描写が逆に、彼はこういう人間だ、と説明しすぎていていまいち説得力がないと感じた。
いきなり説明するのじゃなくエピソードを通して書いた方がやっぱりいいんじゃないかなと思う。
メンバーそれぞれが同じ人間から生み出されたなってあまりにも如実に語っている点と
梨香に対する榊の、作者はこう言われたいのか、みたいに取れる描写も頂けなかった。
榊がどうしてそういう行動に、言動に、出るのか、梨香に都合が良すぎて説得力がない。
梨香の理屈もよくわからない。髪くらい最初から染めればいいのに。
何だか外れたまま消えてしまった清水は、すきだった、かな。
ホストの正体は、私の予想は外れたっぽい。それもあって下巻をどう締めるのかは、気になる。

講談社NOVELS / 2008.10.11.



辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(下) / ★★★☆☆

文章の拙さは相変わらずだったけれど、内容に引き込まれてあまり気にならなかった。星は、3.5。
景子さんのラストが意外で、菅原のふたりのヒロのエピソードで完全に掴まれた。
最初は著者の若い価値観が三人称のまま表れているのが気になったけれど、段々薄れて来て
ホストの正体とか事の真相はしっかりと意外だったし、榊くんの都合の良さもぐっと薄まって、
今巻のエピソードでの動きは納得も出来るようになっていて良かった。
自殺未遂の描写はシンプルなのに妙に生々しくて苦しくなったけれど深月もそんなに嫌いじゃなくなれた。ここも納得出来たし良かった。
ただ、ラストシーンの再会は、言いたいことはわかるけれどいまいち頷けなかった。
そのひとがそれでどうしているのか、を考えちゃってそこで思考がストップしちゃう。
著者と登場人物のひとりの名前が一緒なことも必要性がわからなかった。深く読み込めていないってだけかもしれないけれど。

講談社NOVELS / 2008.10.13.



辻村深月

ロードムービー / ★★★☆☆

冷たい校舎〜のその後を絡めた全3編の短編集。なのに私は冷たい〜をしっかりとは覚えていなくて、本当もう、残念…。
表題作がとてもすき。
感性がどうこうとか言っちゃう寒さは相変わらずだったけれど見事に騙されたし終盤は泣きそうにもなった。
ヒントにはあれって思ったもののそういう方向では疑いもしなかったし
ああいうタイプの子の裏切りに対する反応とか、ワタルの、怒っていた、って描写とかは一々やたらツボに入る。
小学生のトシとワタルの無茶の話。遠くまで家出して、自分の身代金を要求する。
お医者のお母さんの男口調がたまらなく格好良かった。…景子、かな?
道の先、は塾のバイト講師と彼がすきな秀才でませた中3女子の話。
やたら全力な千晶は嫌いじゃないけれど両親の離婚オチでガクッと来た。
終盤のリカ(だよね?)はわかって嬉しかった。サカキくん、って呼び名だけでもう懐かしい。
雪の降る道、は前2つに対してもっとしっかりと後日談。
残ったヒロと、彼を気にしてお見舞いに来てはお土産を置いて行くみーちゃんの話。
スガ兄もしっかりスガ兄って名前と一緒に登場している。
冷たい〜の流れも大きく関わっている。もっと記憶に新しいうちに読みたかった。大きくなったヒロとみーちゃんの話もあるのかな。
そういう繋がりってすきなんだけどどうにもややこしくてムキーッてなるからリストが欲しい…。
図書館本の上私の記憶力じゃ本当勿体ない。

講談社 / 2009.06.14.



辻村深月

光待つ場所へ / ★★★☆☆

これまでに同著者の作品に登場した人物が再び登場する全3編。
しあわせのこみち、は、大学2年生の清水あやめと絵画の話。
自信のある彼女のはじめての敗北感は居心地が悪かったけれど
彼女以上に才能のある田辺颯也の当たり前の上位者な物言いをはじめ、読み進める程に嫌味がなくなって良かった。
絵が逃避で、生活感を憎んで、自意識と心中する覚悟を決めていたあやめの
酔っているからイタくて、そこから突き抜けてしまうより他にない必死さも寄り添い易くてすきだった。
ただラストのタイミングだけそれはどうなのか、とつい思ってしまった。ならいつならと問われてもわからないけれど。
チハラトーコの物語、はその名の通り、嘘つきな千原冬子の物語。
モデルでオタクでかわいくて、嘘つきのプロとして自分的ルールに則り嘘を重ねる冬子が妙に好ましい。
憎めない、不思議に筋の通ったところがすきだ。少しの出番で色々持って行ってしまった赤羽環はさすがだった。
冬子がオタクになる元になった重森先生の愛嬌と、終盤の環とのやり取りがとてもすき。
後者なんてあまりにも眩しい。ああいう関係、大すき。
樹氷の街、は、中学3年生の合唱コンクールの話。
伴奏者に立候補したのに上手く弾けない倉田梢と、指揮者の天木と、秀人と椿と、松永郁也の物語。
多恵さんや芦沢理帆子まで出て来て、懐かしい名前が特に沢山、な印象を受けた。
主人公たちの年齢が低いからか普通の青春っぽさが爽やかだったけれど椿の良い子としての立ち位置とかが少し綺麗すぎる気がした。

講談社 / 2010.11.11.



辻村深月

ふちなしのかがみ / ★★★☆☆

お化けの話、怖い話、の短編集。
最初にその手の本だと気付いた時にはちょっぴり後悔したけれど
どのお話もお化けの人が本当は怖がるようなことはしていなかったから、ほっとした。
読後感の優しい、全5作。
踊り場の花子、は1作目だからか読んでいて1番ドキドキした。読みたくないのに読まなきゃ終われない、って葛藤。
学校の七不思議と先生と教育実習生の話。インパクトも、怖さのオチも、1番すき。
理由もなく怖がる必要はないんだなと思えたのが良かった。別にいい人だった、とかじゃないのだけれどそれもまた良い。
ブランコをこぐ足、はキューピッド様と小学5年生の女の子たちの話。原因とか結局あやふやなままの終わり方は結構すき。
おとうさん、したいがあるよ、は異色作。ぼけたおばあちゃんの家から死体がわんさか出て、それを埋める一家の話。
事を公にしないことを迷いなく選んで、進んで隠していく一家の明るさとそのオチが正に不思議な話、って感じで良かった。
色恋の話は余計だと感じたけれど、2番目にすき。
表題作は鏡に映った未来と、思い込みの激しいカナの話。騙された。やってくれた。
狙ってる男が、とか語る女子高生は嫌だったけれど後半はそれどころじゃない方向へ進んでいて最終的にそっちの印象が勝った。
痛々しい、話。思い込みの更に上をいく弱さが際立っていた。
八月の天変地異、はいつの間にかさえないグループ扱いされていた少年と、その原因と思われている少年と見えない友達の話。
嘘の親友をクラスメイトに語り続け、彼を本当の存在にしてと神様に祈る。その奇蹟が私にはあまりぐっと来なかった。正体も含め。
作品としてのご都合主義を感じた訳ではないのだけれど
読み手として主人公に同調した上で、あまりに自分に都合が良くて、入れなかった。

角川書店 / 2009.12.03.



辻村深月

ぼくのメジャースプーン / ★★★☆☆

星は3.5よりの3。 ひとりに1度だけ、言葉で縛れる力を持った小学4年生のぼくが 罪と罰を計る話。
学校で飼っていたうさぎが殺されて、 感情を封じ込めてしまった幼馴染みのふみちゃんを助けたくて
先生のもとへ通い、力について学んで、罰を考えていく。
先生の冷ややかさがあまりにも鋭利で小学生相手にいいのかと思ったりもしたけれど
最後にぼくの出した答えがあまりにも痛々しくて、子供は大人の思う程子供じゃないのかなと思ったり、した。
あの答えに、物凄く掴まれてしまった。

講談社NOVELS / 2008.04.04.



辻村深月

名前探しの放課後 上 / ★★★☆☆

高校1年生の依田いつかが、3ヵ月前に飛ばされて
3ヵ月後に起こる名前も覚えていない同級生の自殺を止めようと友人たちと地味に奮闘する話。
3ヵ月っていう時間差も、その為の奮闘も地味だけれどその分リアルっぽく感じられて良かった。
いつかが打ち明けた友人たちもそれぞれ個性的で把握し易い。
ただ終盤になっていつかが自殺防止だけに集中していないことへ内心で反発したあすながどうにも唐突に感じられて
更にあすなの見た目や立ち位置に関するコンプレックスが前面へ出て来ちゃうと
卑屈さと自己愛やら自意識の過剰さが鬱陶しくなってしまった。
そうなると椿の優遇されたような描写にも疑問が生まれてズルズル印象がマイナスへ傾く。
椿が言いさえすれば何でも聡明で正しくて優しいってことになるような気がしてしまった。
男の子組は、いじめられっ子の河野も彼に優しくないいつかもそこまで嫌な印象は引き摺らなかったから
余計に彼らに対して気持ちがわかるだの、正反対だの言い出す椿とあすなへの苦手意識が強まる。
切り替わりが曖昧で最初は困惑したのだけれど、三人称形式のまま
でも存在する視点としての語り手がいつかな前半は引っ掛かることが少なくて良かった。
だからこそ後半であすな目線になってからの鬱陶しさが尚更残念だ。

講談社 / 2009.12.31.



辻村深月

名前探しの放課後 下 / ★★★★☆

最終章でいきなり挽回した。悔しいというか何だよぉ…!って感じというか、でも何よりとにかく嬉しい。
上巻での水泳ネタに唐突さを覚えていたものの、下巻へ入っての方向性を受けて
主人公はいつかで彼の成長物語なのだろうってことで理解していた。
その為の、1番になれなくても格好悪くても逃げた所へ戻ってやり直すことへの拘りは私には受け入れ辛かった。
何より多分私が素直じゃなくて格好悪くガキなことが1番の原因なのだと思うけれど、
いつかから水泳への未練が感じられなかったこととか、みんなして正しくすることが違和感だったりなことも
一応原因のひとつだと思う…。
だから総合して、あまり合わないなあって印象に落ち着いていた。なのに何だあの最終章…!
明かされてみればああそういうことかって納得出来る部分が結構あったのだけれどそこを読んでいる最中は全然気付けなかった。
特に顕著でああ…!って思ったのは哀れみとかじゃないと覚えていられるか云々のところ。
椿の歪んだ結果としての正方形さを暴いてくれることを途中からはさり気に期待していたから、
そこが描かれなかったのはちょっと残念だった。
でもエピローグでの恐らくはぼくのメジャースプーンとの繋りを彷彿とさせる描写にドキッとして
そっちにあったのだったっけ、と記憶を探った。…覚えてなかった…。
いじめられっ子な河野といじめっ子な友春のやり取りその他の大逆転さにはびっくりした。凄いすきだー。

講談社 / 2010.01.06.



津原泰水

アクアポリスQ / ★★★☆☆

近未来的な雰囲気の、現実とは違う歴史を辿った日本にある海上都市アクアポリスを舞台にしたSF。
牛鬼に濡女という古来の妖怪染みた不思議生物や
骸を生前の様子に見せつつ操ったり、意識を他人の中に移動させて一時的に同居させたりの不思議現象を絡ませつつ
主人公のタイチ少年と見た感じ年齢不詳の謎の女Jが人知れずアクアポリスを救う為に戦う。
Jのさながら無敵のように強い様は格好良かったし、人格稀薄化とか怪物化、世界の変わった空虚点とかにはどういう世界なんだろうと興味を惹かれた。
Q龍の廃れた様子や全体の雰囲気も面白かった。
でも最終的に、世界を救う為に戦う、っていう軸の感じが、どうにも地に足がついていないように感じられて入り難かった。
私の読解力不足だろうけれど、ひたすら行動していたJはともかくとして、結局タイチが最初から最後までどう戦っていたのか掴めなかったのがつらい。
不意にプツリと終わってしまったことや、ラストの他の人たちの騒動の受け取り方から
Jは普通に昔飛び降りた時同様狂っていて、タイチも妄想や幻覚に囚われていただけのような気すらしてしまう。
そういう曖昧な雰囲気は多分わざとなのだろうけれど
色んなことがあって色んな要素が張り巡らされている割に何だか全体のバランスが悪いような気がしてしまった。素材は面白げなのに残念。

朝日新聞社 / 2011.08.07.



津原泰水

ブラバン / ★★★☆☆

バスクラリネットの死からはじまる40を過ぎて再結成をと走り回る元吹奏楽部員たちの話。
高校時代の思い出と合間に挟まれる現在とが綯い交ぜに語られるのが
若干ややこしいのはまだしもバスクラの死に結局ほぼ振れず、再結成も最後の最後でどたばたしたりで
どの辺りをメイン軸として見て良いのか最後までわからなかったのが残念だった。
学生時代の思い出、というには回想は片っ端からのようで纏まらなすぎる。
でもそういう散らかったところがリアルな学生時代って気もする。
作品としては、首を傾げてしまうけれど。エッセイみたいなノリのようにも見えた。
登場人物が凄まじく多いのに語り手がひとりで視点が決まり切っているのが少し勿体ない印象。
沢山出て来る曲名は私にはわからなかったけれど知っていればきっとキラキラだったと思う。
女の子なのにジョン・レノンに似ている、語り手と同じコントラバスな川之江先輩の掴み所のなさと
生真面目で脆い顧問の安野先生のベタだけど鮮やかなところがすきだった。

バジリコ株式会社 / 2010.06.22.



津村記久子

ミュージック・ブレス・ユー!! / ★★★☆☆

常にヘッドホン装着でひたすら洋楽をきく、それ以上でもそれ以下でもなくそれだけの、高校3年生のアザミの日々。
冒頭の、バンドでのケンカや親友のチユキの失恋から受けた雰囲気的な印象から
読めば読む程どんどん外れていくのが何だか興味深かった。
関西弁でまったりした日常を描きつつ、全体には色々スパイスが効いている気がして
でもやっぱり訥々としているみたいなところが不思議で面白かったかも。勢いはないけれど、ちょっと落ち着いちゃう感じ。
外国のメル友である歯に衣着せないアニーの怒ってる様が何故かキュートに思えるところがすきだった。
一方で後半では妙に存在が希薄な気がして妙な気分になったりした。
頭のてっぺんが黒いって一文が物凄く気になった…。わざわざ黒髪で更に染めてる設定?とかぐるぐる。
失恋した、本当は外国のサッカー選手が好みだっていうナツメさんとアザミのやり取りが可愛くて
しっかりしていそうなナツメさんが間抜けなのが微笑ましくて良かった。
チユキの姿を思い出しながら痴漢からアヤカちゃんを助けるアザミにほうとなる一方で、アヤカちゃんの着地点に淋しくなったりもした。
担任が投げたアザミを拾い上げて進路指導してくれたり
手をあげようとした男子生徒から穏やかな手つきで庇ってくれた東京弁先生が大すき。
格好良い同性、のツボを妙に心得られて押されている気がする…。著者さんに。
登場人物が地味にごちゃごちゃしていて把握仕切れなかったのが残念。でもそのごちゃごちゃさ自体は不思議と嫌いじゃなかった。
しょーもない男2人があまりにしれっと強烈で
そのせいで普通の、ダメじゃない男の子が霞んだ上、本自体の印象が、思い返せば、女の子4人に癒されたかも、になっていた。
確かに痴漢エピは王子様的だったけれど、それ以外は変に甘ったるくない極自然な女友達、な語り口だったと思うのに不思議。
読んでいる最中にはちょっと掴み辛かったけれど大事なのは親友との日々で女の子同士の友情だったのかもしれない。

角川書店 / 2010.06.25.



藤堂志津子

海の時計(上) / ★★★☆☆

図書館でその棚の前を通る度、何となく気になってた作者さん。理由は何てことはない、しまぷーと一文字違いの名前だから;;
でも楽しめた。読みやすかった。
〜〜な〜〜だった、って言い回しはすきじゃないのだけど
他は、登場人物の年齢層が高いわりに難しくなくてリアルな日常系のわりに嫌悪することもなくて良かった。
おばあちゃんに対する水穂の重荷発言はちょっと嫌だったけど…。だって助けられてる癖に…。
私は多分、加穂タイプだなぁ、とか、思った。伊沙子さんは母と似ているかもなぁ、とか。
これといって特別なところは感じられなかったけれど嫌じゃなかったし、一定のレベルは余裕で越えているみたいで楽しめました。

講談社 / 2006.11.02.



藤堂志津子

海の時計(下) / ★★★☆☆

んー…上巻より嫌悪が強かったかもしれない。凄く、ではないのだけど何だかモヤモヤする。
水穂も加穂も嫌な感じ…。逆に伊沙子は少し平気になった。あと麻美さんはすき。
ラスト、見事なまでにぶつ切りでびっくり。日常系はやっぱりよくわからない。
やたら人生なめている感じで、それが通用しちゃっているのも不思議だった。
生きていくことって、自棄な場合じゃなくてもあんなものなのかなぁ。更には周りに寄り掛かりまくって。
友人は、愚痴を聞いて貰う為にいる訳じゃないと思う。あんなのが許されて本当にいいんだろうか。

講談社 / 2006.11.08.



豊島ミホ

エバーグリーン / ★★★☆☆

中学3年生の終わりに10年後同じ場所でまた会う約束を交わした男女の当時と今の、約束の日までの物語。
傲慢で周りを見下して、自分は違うと自惚れて
それでも見上げてくれるアヤコとはちゃんと仲の良かったシンはミュージシャンになる夢を叶えられなかった。
一方約束を大事に大事に抱えながら、未だにシンをすきでいるアヤコは夢を叶えて少女マンガ家になっていた。
当時からアヤコの夢を叶いっこないとどこかで思っていて、今になってひょんなことから知ったアヤコの成功を喜べなかったり
もう一度音楽をやろうかなんてまたぐだぐだと考え始めたりするシンはとても情けない。
いい歳して後生大事に思い出を磨いて
結果として他の男の子も恋愛もずっと一切受け付けなかったアヤコは一途とか通り越して気持ち悪い。
なのに澱まず、いっそ爽やかに、清廉な清々しさが満ちていた。
悩んでいるのに行き止まりじゃない。その最中でさえ作風からは希望が消え去ってはいない。
それが、登場人物に入り辛いとかでなく良い風に作用していて、読んでいてとても心地好かった。
はじめにシンの彼女が出て来た時には思わずガッカリしてしまったのだけれど
アヤコの新しい出会いに無理も嫌らしさもなかったから良かった。
伊地知くんは自称ハムなのにそういう人苦手なのに何だかやたら可愛くて誠実で完璧な敬語も素晴らしく、すごく素敵だった。
微笑ましい恋の始まりで、そう思えること込みで嬉しくなった。見る目がある女の子は読んでいて幸せになれそうだと安心出来て良い。

双葉社 / 2011.07.28.



豊島ミホ

カウントダウンノベルズ / ★★★☆☆

J-POPのランキングに乗せたそれぞれの歌い手の連作短編集。1位から10位までの全10作。
2位のぜんぶあげる、なんでもあげる、は
早すぎるベストアルバムに不満を持ちつつも1位を狙ったりする、関西弁であっかるい相葉ミリの話。
話があるよ、はこれまた1位を狙う男の子3人のバンド、スモール・ロンドンの早すぎる流れに戸惑う話。
楽園が聞こえる、はずっと耳に音楽が聞こえ続けていて、でもそれが聞こえなくなったコンペイトウスパークのDJの話。
きらめくさだめ、はアイドルグループ・シュガフルの、普通になりたいメンバーとそんなこと考えもしなかったメンバーの話。
きたない涙、は路上からデビューした浅田真樹が携帯小説家とコラボして映画主題歌を作ることになる話。
ピクニック、は完全プライベートの、家族の休みの日な切り口で描かれるママはアーティスト・英恂子、な話。
永遠でなくもないだろう、はもう流行らなくても時代遅れでもすきなようにすきな歌をうたうウィンド・オア・ソングスの話。
ラストシングル、はとんとん拍子にデビューして売れて、でも解雇させられることになったアライブ・オン・ザ・エッジの話。
1位と10位のお話がすきだった。
1位として最初に描かれたあたしはいい子、はシングルチャート1位最多獲得記録の保持者である歌姫伊藤ありさの話。
お姫様で女王様で孤高で氷っぽい雰囲気が良かった。こういう女の子の話は感触が冷たくて甘くてすき。
10位の絶望ソング大全集、はメジャーに興味のなかったいじめられっ子の沼倉雄介がデビューを受け入れるまでの話。
暗いのに光ってるのが、程よく薄明るい雰囲気で惹かれた。
メロディーも声もきれいなのに歌詞が凄惨だ、っていう沼倉の歌が気になる。
でもちらっと出て来た伊藤ありさの歌の歌詞はわざとにしても陳腐すぎてガッカリだったし、出さないのが正解なんだろうな。

集英社 / 2009.09.20.



豊島ミホ

初恋素描帖 / ★★★☆☆

中学2年生の男女それぞれのお話、全20編。
本自体厚くはなくて、その上そこに20話も入っているものだからどの話もとても短編である。
その分読み易くて、軽やかで、あっという間に一気読みをしてしまった。
中学2年生の恋模様は、アイドルに恋する女の子や、男の子に恋する男の子や
彼女の出来た幼馴染みが淋しい女の子、等々色々で、でもどれも爽やかで良かった。
生々しくなくて、ファンタジーのように綺麗で、でも嘘臭さはない。
ひとつひとつのお話は短いから、その時だけを切り抜いたようで、深入りのなさと真っ直ぐさがすきだった。

メディアファクトリー / 2010.11.11.



豊島ミホ

陽の子雨の子 / ★★★☆☆

中学生の男の子の一人称ではじまる文章が易しくて読みやすく、いい意味で子供の作文みたいだと思った。
描写はハッとする部分が多いから、ただのわかりやすい話にはならないし面白い味がある、感じ。
10も年上なのに彼をとても対等に扱う雪絵との交流。メインは主人公の夕陽、雪絵、プラス雪絵のヒモな聡。
天真爛漫でお子様な雪絵は愛しいし、おばあちゃんから継いだ不動産業のおかげで
何もしなくても食っていけてしまう幸と不幸、とか甘さが妙に染み通る。
バカ丸出しな聡には度々うわぁとなるけど聡い夕陽は好ましい。素直でごちゃごちゃしてるところ、結構すき。
空気、の描写が鮮やかで素敵だった。灰色の点々は面白いし、描かれる青春はとてもキレイ。
子供な雪絵は弱くって、嫌いにはとても、なれなかった。
あちこち投げたままに見えないこともないけれど
昭和の香りのするお家、色々飛んでるかもだけど優しい日々、と、マイナスイオンが詰まっていた。

講談社 / 2007.07.11.



豊島ミホ

ぽろぽろドール / ★★★☆☆

人形とその持ち主の6編のオムニバス。表題作と手のひらの中のやわらかな星がすき。
頬を叩くと涙を零すお兄さん人形にぶつける思春期の少女の繊細で荒々しい加虐性が胸を打つ前者、
パッとしない少女がきれいで憧れのクラスメートとそっくりなドールにその子と同じ名前をつけてひたすらお洋服を作ってあげる後者。
どっちも硝子細工みたいにきれいで危うくて、良かった。
無茶苦茶なところも、あやふやで曖昧でどうしようもない年頃の女の子って感じですき。
他のお話も、加虐性か危うさをメインに据えているっぽいものが多かったと思う。
唯一ドールでなくマネキンが登場しているサナギのままでは戦前生まれのおばあちゃんが語る坊ちゃんとの思い出のお話。
残る3つは、生々しさが何故か一気に増えるからすき、ではなかったかな…。
めざめる五月は転校して来たわたしとずっと前から、彼女そっくりな人形のミカを愛でていた男の子のお話。
きみのいない夜にははオークションでお迎えしたドール宛の手紙が元の持ち主から送られて来るお話。
僕が人形と眠るまではナルシストな僕とマリーアントワネットのような彼女の日常が
僕が事故にあうことによって崩れて、完成した美しさから放り出されるお話。
どれも扱っているシチュエーションとか小道具やなんかはすきだった。

幻冬舎 / 2008.06.12.



豊島ミホ

夜の朝顔 / ★★★☆☆

誰にとっても小学生時代のアルバムになるように、なコンセプトでつくられた短編集。
1年生から6年生までのセンの記録。全7話だから4年生だけ2作品ある。
可愛らしかったり微笑ましかったりするよりは、しこりのある、爽やかに苦味のある話だらけ。
小学生が、あまりにも当たり前に小学生をしているものだから、少し驚いた。
大人から見た子供、っぽくない話が多い気がして、不思議だった。
私ももう小学生時代は遠い昔だから、気がしても、そのまま信用は出来ないけれど。
「夏休み限定・あに!」が可愛くて、妹のチエミの為の天井の星が綺麗で、
先生に憧れる茜ちゃんと、苛められっ子と同じやさしいって長所を告げられたセンは、痛々しすぎた。
恋話は基本的にあまり得意ではないけれど、表題作はすきだった。

集英社 / 2008.07.13.



豊島ミホ

リテイク・シックスティーン / ★★★☆☆

12年前からやって来たというクラスメイトとの、高校1年生の日々。
見た目良し頭良しな沙織と、未来の記憶を持った孝子とお調子者の大海と、クールな村山の青春の話。
やり直しだから、今度は失敗しないようにと全力で学校行事や何かに当たる孝子は
ずっと無職で27なのに働かないで家で腐っていたという。
医師である村山パパや研修医さんに対する反発をはじめ孝子の心情とか行動に凄く自然に寄り添ってしまった。
同時に、そういう彼女に苛々したりする3人の根本が凄く優しくて締め付けられた。
やけを起こしたり、やり直したいと願ったり、結局変わらないと自分に失望したりする孝子に地味に入っちゃう一方で
伝わっていない、何を言えば届くの、と感じる沙織も、胸に迫った。私も、そんな風かなあって、思う。
沙織の場合は家庭環境が若干被ったけれどその辺りにはあまり触れられていない頃が良かった。
終盤での毎月の養育費だの進学資金だのについてのやり取りには呆れて、比べて、反発してしまったから。
ずっと会っていなかったお父さんに会いに行くっていうのも、会ってからも、どうにも重ねてしまってその心情に寄り添えない。
フィクションなのだから、割り切って楽しむべきなのに
何を贅沢言っているのとか、後々返すにしても大学行かせて貰って当たり前とか何とか、思ってしまう。
例えとして言った、お父さんがいる孝子はずるいとかそういうことになっちゃう、って発言にまで
それを読んだ時点ではどうということもなかったのにじわじわと反発したくなってくる。
…でもこの比べるってことは多分、私の孝子と似ている駄目なところなんだろうと、思う。
村山くんの所属する吹奏楽部の風景が懐かしくて素敵だったり
一匹狼な癖に救いの手を差し延べてくれた車谷さんが格好良すぎたり、日々の描写が当たり前にキラキラで良かった。
アニメ声の女の子がうざい子でがっかりだったり
向いている職業に特になしとか書かれる現実をはじめて知って酷いと思ったりしたけれど
(適性検査とか、強制的に受けさせておいてそんなこともあるのかよう)
その辺りは、強い反発には傾かなかったし、終わり方が呆気なかったりもしたけれど、終盤の父親&お金ネタ以外は凄くすきな本だった。

幻冬舎 / 2010.06.10.



豊島ミホ

リリイの籠 / ★★★☆☆

女の子同士の物語を集めた連作短編集。作中にも出て来るしタイトルも多分そういう意味で百合。
とは言っても基本とてもナチュラルで、そういうのがすきでなくても読める筈。すっと浸透した。
淡く淡く、甘さより苦さを水で薄ーく伸ばしたようなエピソードだらけだ。
銀杏泥棒は金色、は嫌いだらけな美術部員と彼女にモデルを頼まれた自分大すき美少女の話。
加菜の、女の子ーって雰囲気とかひとりで勝手に喋りまくる様が可愛くてとどめの時の真っ直ぐさと強さがちくって来た。
ポニーテール・ドリーム、は地味な女教師と今時ギャルな生徒の話。
由貴の品がなくてバカな発言については銀杏泥棒〜の春に同感でうんざりするけれど
1対1になっての会話は子供っぽくて微笑ましかった。プリクラを撮るラストシーンとか凄く可愛い。
忘れないでね、は外れた子に声をかけては救世主になっていた転校少女と厚かましいオレンジ髪の話。
もう転校はないのにハブられ少女に話し掛けてしまって自分もハブられるようになって
だけど美奈はやっぱり、救世主への執着から逃れられないだけで、ラストシーンとも相俟って特に苦さの際立つ話だった。
ながれるひめ、は教育実習に入った妹とそこで教師をしている姉の話。
実習に対する気持ちとか彼氏とか、大学生女子の当たり前が私にはどうにも合わないけれど
ラストにかけての2人の久しぶりの姉妹っぷりが眩しくて良かった。
いちごとくま、はお人形みたいなりかちゃんとくまみたいな実枝の話。
お花やいちごの柄が似合うりかちゃんは、ぶりっ子とか言われてて、可愛いのに結構シビアで、そこがすき。
彼氏とのやり取りもバカップルなんだろうけれど厭味がなくて良い。
逆にりかちゃんだけが実枝って呼ぶくまっちは母性本能に彩られたみたいないい子だけれど、彼氏が出来た辺りから
何か嫌になって来て、みんなに報告する様子だとか、幸せそうな所とか、極め付けは電車での痴漢もどきだ。
実枝は実枝のままが良かったし、恋は女を醜くすると本気で思った。知りたては特に。
りかちゃんが一番ひどい、がわからない私はわかっているりかちゃんよりひどいんだろうな。
やさしい人、は同級会をすることになって連絡を取った28歳の2人の話。
特別仲が良かった訳じゃないのに一番ハッキリと思い出を蘇らせた木田さんに
当日は難しいけれど準備を手伝って貰うことになって、母校を訪れる。
呆気なさと淋しさときっともう会えないって現実が胸に迫った。
ゆうちゃんはレズ、は噂のゆうちゃんと彼女に告白された先輩の話。
…タイトルに差別用語を使わないで欲しいっていうのは余計なお世話?
略すなよ、いや理由はわかるんだが、とぐずぐずしてしまった。
先輩の引くとかより正直わからない、って雰囲気とそれをそのまま伝える誠実さがすき。
ただ一緒にいればいいだけ、っていうのは多分お話の中の百合で(この場合GLはまた別なのかな)
本気のリアルはそうもいかないのかなってなるラストでだけど変に生々しかったりはしなくって、
2人のメールのやり取りとか凄く可愛くてすきだった。
先輩は自分を見返りなしで人を好くことができる善人に仕立て上げようとしてる、ってゆうちゃんは言うけれど
自分をすきって気持ちを、とはいえ先輩はしっかり好いていたし
深く考えなくていいって言ったゆうちゃんのままだったら、っていうのは、…やっぱりひどいか。
女の子が女の子を何々ちゃん、って子供っぽく呼ぶのがすきだ。1話目と2話目と5話目と最終話が特にすきだった。

光文社 / 2009.02.21.



殿先菜生

うさぎの映画館 / ★★★☆☆

骨董品店、銀河堂を手伝っている高校3年生の静流がそこで出会う品、出会う人たちにより導かれていく物語。
ひとつひとつ独立したお話なのかと思ったら夢の中の商店街を通して全てがしっかり繋っていて
でもひび割れた手鏡も幽霊つきと噂の姿見も主役不在のアリスのランプも直接の関わりじゃなく、
実は静流の記憶を刺激していたっていうのが面白いと思った。淡泊だけれど、薄味すぎない印象。
ゲストとメイン軸の境が最初曖昧なことで淡々とした日常の中の色が映えていたと思う。
「〜」の若干の多用とちらっと触れただけだけれど恋愛は楽しいのにっていう価値観と
悪気なく失言をしたりしてしかもそれをらしいとして許される静流が少し引っ掛かった。
特に静流は変わり者と言われて悪口にきこえるとか困る辺り、自分を棚上げのように感じられて、残念。
鳴海さんの真相は名前から最初疑ったりもしたのだけれど、絵によって思い直していたから反則…!と思ったりした。
そんなどんでん返しは有りなのか。
デビュー作とのことだし、良い意味で地味に気になる気もするから今後磨かれたら素敵。

電撃文庫 / 2010.05.31.



J・R・R・トールキン

指輪物語1 旅の仲間(上1) / −−−

指輪物語2 旅の仲間(上2) / −−−

指輪物語3 旅の仲間(下1) / −−−

指輪物語4 旅の仲間(下2) / −−−

指輪物語5 二つの塔(上1) / −−−

指輪物語6 二つの塔(上2) / −−−



inserted by FC2 system