相手が泣き出した。
 屈した訳ではない、自分にこんなことを言うお前はひどいやつだと糾弾しているだけだ。こんなことを言われる自分は可哀想だと酔い痴れているだけだ。
 余裕じゃないか。
 まだ足りないか。それはそうだろう、自分はまだ何も言っていないようなものだ。早々に泣かれて白けたけれど、わかった、了解した、もっとひどいことを言ってあげる。
 図太いあなたが立ち上がれないくらいに深く突き刺すには、自分程度の性悪ではやはり足りないだろうか。
 半ば歓喜でもするように昏い対抗心が沸き立った。
 ひどいことを、もっともっとひどいことを、そこにはきらめく美学がある。


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