「莉桜は、どうしたいの?」
 涙に溺れた顔が私を見上げて、小さな唇から、一緒に、と掠れたような声が零れた。
「一緒に、逝きたいです」
「そう。わかった。……連れてってあげる」
 答えた瞬間に、私は可哀想な悲劇のヒロインではなくなった。
 健全な人間なら、生きて幸せになりなさいと突き放すだろう。それが正しい人の姿なのだろう。
 私は間違った感覚ばかりを有した不健全な人間だから、もう仕方がない。
 強く在ることを強いる優しさなんて、私は求めていなかった。だからこの子に、甘いだけの受容をあげる。
「もし気が変わったらいつでも言って。変わらなかったら、一緒に」
 泣き顔のまま頷いたその子は、それでも少しだけ安堵したように、笑ってくれた。

 あの頃、少しでも長く一緒にいることが道理に適っているとわかる反面、容赦なく近付いて来る別れをなすすべもなく二人で待つことを、恐ろしいとも思った。
 そうだ、たぶん、知らないうちに消えていて欲しかった。
 きちんとしたお別れなんて要らない。直視なんかしたくない。目も耳も塞ぎうずくまっているあいだにあなたはいなくなる。いなくなったあとで後悔するという在り来たりな、知らない誰かの使い古しのような想像は、『今』の苦痛の前ではひどく軽い。
 別に後悔するならすれば良い。それくらいの責任は取る。
 それでも、そんなものは口だけで、そんな勇気はなくて、傍にいた訳だけれど。

 数年後、今度は私が置いていく番になり掛けて、彼女とは別の道を歩む。
 あの頃の私は、もしかしたらこの子が羨ましい。


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